鋼の錬金術師

□第3話
1ページ/3ページ











「…それにしても、納得した。貴様…なぜ、こんなガキが"鋼"なんぞという、厳つい称号を掲げているのか、不思議でしょうがなかったが…そういう訳か…ロゼ、この者達はな錬金術師の間では暗黙のうちに禁じられている「人体錬成」を…最大の禁忌を犯しおったのよ!!」

コーネロの嘲笑うような馬鹿にしたような言葉がその部屋に響いた。









「…!!」

ロゼの脳裏にアンの言葉がよぎる。


──「太陽(カミサマ)に近づきすぎた英雄は蝋で固めた翼をもがれ地に堕とされる」…ってね──



空っぽの鎧。機械鎧の手足。彼女も…。


「アル!アル!アルフォンス!」

『アル!アルー!』

本棚の前で調べ物をする金髪金眼の少年の所へ駆け寄るのは彼と同じく金髪金眼の少年少女。 駆け寄って行く少年少女は幼き頃のエドとアン。調べ物をしているのは弟のアル。

「どうしたのさ、兄さん、アン」

「これだ!この理論なら完璧だよ!」

「これってまさか…」

『そうだよ!トリシャさんを生き返らせる事ができるよ!』

広げられた紙に書かれた内容はとても幼い少年少女が書き上げたとは思えない。



「生命を創り出すことになんの疑いも無かった。やさしい…本当にやさしい母さんだった。ボク達はただもう一度、母さんの笑顔が見たかっただけだったんだ。たとえそれが錬金術の禁忌にふれていても、それだけのためにボク達は錬金術を鍛えてきたんだから…錬成は失敗だった。錬成の過程で兄さんは左足を、僕は身体全部を、アンは17歳以後の寿命を、持っていかれた。僕の意識はそこで一度途切れ…。次に目を開けたときに見えたものは、この鎧の身体と血の海の中の───」


「へへ……ごめんな右手1本とアンの髪の毛と瞳の色じゃ、お前の魂しか錬成できなかったよ」

『よかった…アル…』

「なんて無茶を…!!」

血塗れの兄と床にヘタリこんで無機質に笑う幼馴染と大きな鎧の身体に似合わない高い声を出す弟。

失ったものは大きかった。




「兄さんは左足を失った重傷で、アンは17歳以後の寿命を失った身体で…今度はボクの魂をその右腕と髪の毛と瞳の色と引き換えに錬成してこの鎧に定着させたんだ」

「へっ…3人がかりで1人の人間を甦らせようとしてこのザマだ…ロゼ、人を甦らせるってことはこういうことだ」

『これだけ失って人1人分。ロゼには覚悟がある?』

知らされた過去と強く鋭い眼差しに体が強ばる。

「くくく…エドワード・エルリック!!アン・ケリー!!貴様らそれで国家錬金術師とは!!これが笑わずにいられるか!?」

「うっせーんだよ。石がなきゃ、何もできねぇどサンピンが!」

「なるほど、なるほど、それで賢者の石を欲するか。そうだなあ、これを使えば人体錬成も成功するかもなぁ?」

笑い続けるコーネロに反論する。

『勘違いしないでよ!ハゲデブ!石が欲しいのは元の身体に戻るためだからよ』

「もっとも戻れるかもだけどな…!」

確信も何も無い。ただただ戻れる事だけを信じて今まで進んで来た。

「教主さん、もう一度言う。痛い目見ないうちに石をボク達に渡してほしい」

「くく…神に近づきすぎ地に墜とされた愚か者共め…ならばこの私が今度こそしっかりと…神の元へ送り届けてやろう!!」

コーネロは持っていた杖を賢者の石の力でガトリング銃に錬成し、乱射する。その力のおかけで弾は無くなることを知らない。





ガガガガガカガガカ





「ははははははははは」

砂埃が舞い銃の音とコーネロの笑い声が鳴り響く。

「は…!?」

だが突然乱射が止まった。だんだんと晴れてきた砂埃の中から見えたのは錬成された壁。

「いや、オレ達って神様に嫌われてるだろうからさ」

『行っても追い返されると思うよ!』

壁の向こう側ではエドとアンが何事も無かったように無事でいる。

「ち!!」

『はぁ〜それよりエドありがとう!引っ張ってくれなきゃあたし今頃蜂の巣だったかも』

「おう!アンも気ィつけろよ、つーか自分で壁出せ!壁!手合わせ錬成できるだろ!」

『気にしない!』

実は弾から逃れる為に走っていると急に腕を引っ張られて、今の今までエドの腕の中にいたのだ。

「ち!!」

そうしている間にアルがロゼを抱き抱え走り出す。

「!?この…」

それをさせまいとコーネロは銃を撃つ。

「きゃーーーーーーっ!!!」

「あだだだだだだだ」

鎧の身体に跳ね返され銃は無意味。そして扉に向かって走り出すエドとアン。

「アル!アン!いったん出るぞ!!」

「バカめ!!出口はこっちで操作せねば開かぬようになっておる!!」

「ああ、そうかい!」

両手を合わせ壁に当てると何も無かった所に扉が出来上がった。その出来事にコーネロが絶叫する。

「んなぁーーーーーっっ!!??」

「出口がなけりゃ」

『つくるまでだ〜〜!!』

「…だ」

と言いながら扉を体当たりする様に開くと、廊下を走って逃げる。

外で待機していた教団の者達は、突然の出来事に驚いて動けずにいた。

「何をしている!追え!教団を陥れる異教徒だ!!早く捕まえんか!!」

隣を走っていた筈のアンが、いつの間にか自分より後ろで足を引き摺るように走っていた。

よく見れば、中央で氷結の錬金術師にやられた傷が開いており、包帯に血が滲んでいる。

「アン、お前!傷口開いてんじゃねぇか!!」

「え!?アン大丈夫!?」

『へーきだよ!全然!』

そう笑って走り続けようとするアンだが、エドは無理矢理彼女を背負った。

『わっ、エド!降ろしてよ!あたし自分で走れるから!』

「うるせェ!黙って、背負われとけ!」

『…うん』

すると、武器を持った教団の者達が行く手に立ちはだかった。

「こっちだ!」

「止まれ、そこの者!」

「ほら、ボウズ丸腰でこの人数相手にするきかい?」

「ケガしないうちに、おとなしく捕まり…」

「アンしっかり捕まってろよ」

『はーい』

アンが腕にギュっと力を入れと、エドはにこーと笑ながら、

「「え」」

機械鎧を巨大で悪趣味なノコギリに錬成し、恐れる教会の者達を脅し、なぎ倒す。

「ひーーーーっっ!!」

「くっ…手強いぞ!子供だからといって、油断するな!」

「はい邪魔ーーー」

アルも容赦無く教会の者達を足蹴りで倒す。

無事に全員を倒し、少し走るとエドが扉が開かれたまんまの部屋の前で急に立ち止まった。

「お?この部屋は…」

「放送室よ。教主様がラジオで教義をする…」

「『ほほーーーーう』」

エドとアンは顎に手を当てニヤッと笑った。

「(あ、なんかいやらしい事考えてる)」

アルは心の中でそう思った。














ーー
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ