鋼の錬金術師

□第4話
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自分等以外には人っ子1人いない静かな汽車の中に大きな鎧とチビが2人。堅い座席に腰掛け、汽車が揺れると共に小刻みに振動が伝わってくる。

「…だーれも乗ってないね」

『…』

「うわさには聞いてたけど、これほどとは……だいたいこんな所に観光もないだろうけどな。"東の終わりの街"ユースウェル炭鉱」

手に持った地図にかかれた、【YOUSWELL】の文字の先には国境線が伸びていた。

「そろそろこいつ起こすか」

アンは規則正しい小さな音をたてエドの肩に寄り掛かって寝ている。
彼女が寝始めて直ぐに汽車の振動で額を窓で打つ様子を見て、頭を自分の肩にあずけさせたのだ。

「そうだね!でも起こすのかわいそう」

「確かに最近夜遅くまで仕事してるしな」

彼らの言う通り宿の部屋が同じでも違っても必ず彼女の机は夜遅くまで電気がついている。部屋が同じ時は仕事をしながらアルと喋るのがお決まり。

「何の仕事なんだろ」

「さァな、いっつも「秘密だよ〜」っていって俺達には言わねェからよ。おい、アンそろそろつくぞ」

エドがアンを揺さぶると、眠たそうに目を擦りながら起きた。

丁度汽車は駅について止まったようで、エドとアルは立ち上がる。

『…もーついたの?』

「うん、行こう」

『はーい』

伸ばされたアルの手を取って座席から立ち上がった。












駅に降りるとアンは「電話してくる」といって電話ボックスに駆けて行った。これも移動した町に着くと1番にする仕事。



プルルルルプルルルル

ガチャ

《もしもしこちら中央司令部》

『もしもしアン・ケリー中佐、大総統に繋いで。コードは「SDM158」』

《わかりました。少々お待ち下さい》

《私だアン君》

受付嬢の声が聞こえて暫らくすると、トーンの低い威厳のある声が聞こえて来た。その途端にアンの顔付きが変わった。

『報告、今はユースウェル炭鉱にいる
毎度毎度場所を教えるなんて面倒臭いよ…』

《はっはっはっは、相変わらず君は変わらないようだ。それはそうとユースウェル炭鉱だな、では部下を向かわそう》

『…またなんだ…』

《それが私と君の「等価交換」では?》

『…だから等価交換は糞くらえって言ってるんだけど?』

《はっはっは。それではまた電話を頼むよ》

一方的に電話が切られ耳元ではツーツーと音が鳴っている。

『やだね。もう2度としてやるもんか』

受話器を置いていつもと声色も顔付きも違うそれを崩し、溜息をつく。

『溜息なんかつかない!幸せが逃げちゃうぞっ!!』

パチンと両手で頬を叩き、待っているエドとアルの方へ笑顔で駆け寄った。

「またあの電話?」

『そうそう。でも、もう毎回電話するのやめる事にした』

「なんで?」

『2人に迷惑かけたくないし、面倒だし、どーせ電話掛けなくても向こうは居場所ぐらい直ぐにわかるだろうし』

と言ってにこりと笑った。


「「(また(お前/君)は、(オレ/ボク)達の事ばっかり。自分の事も見(ろよ/なよ)」」












『なんか…炭鉱っていうと、もう少し活気あるもんだと思ってたけど……』

「みなさんお疲れっぽい…」

3人の言う通り皆疲れきった顔をしている。
何より人気が少ない列車が空っぽだと観光客が来ないのだろう。
そんな活気が感じられない炭鉱を見回しながら歩いていると



ゴン



炭鉱少年が担いでいた木材がエドの後頭部にヒットする。

「おっとごめんよ」

「いてーなこの……「お!!」」

地面に尻餅をついて眉間に青筋を立てるエドの言葉を少年が遮った。

「何?観光?」

「あ、いやちょっと……」

「どこから来たの?めしは?宿は決まってる?」

少年に質問攻めにされ、エドも困惑してしまう。

「親父!客だ!」

「人の話聞けよ!!」

「あー?何だってカヤル」

「客!金ヅル!」

「金ヅルってなんだよ!!」

「おう!」

どうやらお金を絞られるために宿に強制連行されてしまうエルリック兄弟と幼馴染みだった。











「いやホコリっぽくてすまねぇな
炭鉱の給料が少ないんで店と二足のワラジって訳よ」

「何いってんでぇ親方!
その少ない給料を困ってるやつにすぐわけちまうくせによ!」

「奥さんもそりゃ泣くぜ」

「うるせぇや!!

文句あんなら酒代のツケさっさと払え!!」

案内された親方の経営する宿では炭坑マン達が集まって飲んだり食ったり喋ったりをしていた。
親方は出会ってこの数分ででもわかるぐらい、心優しくて皆から慕われるとてもいい人だ。

「えーと一泊二食の3人分ね」

「いくら?」

「高ぇぞ?」

ビール片手に親方がニヤリと笑う。

「『ご心配なくけっこう持ってるから』」

「30万!」

これでも国家錬金術師だ。
収入は良いし懐もまぁまぁ分厚いから大丈夫だと思っていたエドとアンが勢いよく椅子ごと倒れた。

「ぼったくりもいいトコじゃねぇかよ!!」

『親方!ひとけた違うよ〜!』

「だからいったろ「高い」って

滅多に来ない観光客にはしっかり金を落としてってもらわねぇとな」

「冗談じゃない!他あたる!」

「逃がすか金ヅル!!」

宿を出ようとすると、獲物を見つけたハイエナのような形相でエドの頭を鷲掴みにし、逃がさまいとする。

「諦めな兄ちゃんよそも同じ値段だよ」

それを聞くと頭を寄せ合い緊急会議を始める。

「………………足りん……アンは?」

『えっーと…………8万はいってるよ!!』

「ダメだ……こうなったら錬金術でこの石ころを金塊に変えて!」

『そうと決まればちゃちゃっと変えよう!』

バッと立ち上がるがアルに「落ち着いて」と座り直させられる。

「金の錬成は国家練金法で禁止されてるでしょ!
それにアンは軍では中佐なんでしょ?そんなことやっていいの?」

「『バレなきゃいいんだよバレなきゃ』」

「兄さんアン悪!!」

軍人らしからぬ発言と笑いに弟が呆れた時、そこで会議の参加者が1名増えていたことに気付く。

「親父!この兄ちゃんと達錬金術師だ!!」











隠していたわけではないがカヤルに素性をバラされ、エドとアンは壊れた物などを直し始めた。

それぞれテーブルに置かれた壊れたツルハシとハンマーに合わせた両手をつける。

バシっと変成反応起こし治ったツルハシとハンマーに皆が歓喜の声を上げる。

「すげぇ!」

「新品みェだ!」

「いやあ嬉しいねぇ!久しぶりの客が錬金術師とは!」

物を直し終わると親方が笑顔で食事を運んできてくれた。

「俺も前にちょいとかじっててなまぁ俺には才能が無かったんで研究はやめちまったが、術師のよしみで代金サービスしとくぜ」

「『やった!』」

「大まけにまけて15万」

「まだ高いよっ!!」

















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