鋼の錬金術師

□第5話
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後部車両とは違う造りの車両の窓から見える景色は、好奇心旺盛な子供は興奮するのが当たり前。


「わぁーーーー!!お父さん!速いねすごいね!」

「はははあんまりはしゃぐと疲れてしまうぞ
向こうについたら父さんとたくさん遊ぶ約束だったろう?」

「わーい」

「でも仕事の方は本当にいいんですか?」

「なにやっと取れた休みだ仕事は忘れて家族サービスしたってバチは当たらんだろ」

そこで開いた扉は家族の幸せな旅行の時間の終りを告げるものだった。

「ハクロ将軍だな?」

「なんだ君達はいきなり無礼な……!!」

見知らぬ男達の1人がハクロ将軍の額に銃を突き付ける。

「せっかくの家族団欒をぶち壊しちまってすまんね将軍
楽しい家族旅行は終わりだ」

2人の男の間から右目に眼帯をした男が現れた。

「ここからはスリルと絶望の家族旅行といこうじゃないか」

一見普通の汽車。
しかし車内は恐怖に陥っていた。









「乗っ取られたのはニューオプティン発特急04840便
東部過激派「青の団」による犯行です」

金髪の長い髪をバレッタで止めた女性と黒髪の童顔な男性─ロイ・マスタングが廊下を話ながら歩いている。

「声明は?」

「気合いはいったのがきてますよ読みますか?」

「いやいいどうせ軍部(ワレワレ)の悪口に決まっている」

「ごもっとも」

2人は勢いよく仕事場の扉を開いた。

「要求は現在収監中の彼らの指導者を解放する事」

「ありきたりだな
──で本当に将軍閣下は乗ってるのか?」

「今確認中ですがおそらく」

その問には金髪の女性ではなく部屋にいた男性が答えた。

「困ったな夕方からデートの約束があったのに」

「たまには俺達と残業デートしましょうやー、まずい茶で」

やれやれといった態度の上司であるロイに対して太めの男性が皮肉な事を言う。

「ここはひとつ将軍閣下には尊い犠牲になっていただいて
さっさと事件を片付ける方向で……」

「馬鹿言わないでくださいよ大佐
乗客名簿あがりました」

眼鏡の男性が乗客名簿を渡せば、それを煙草を咥えたも男性が覗き込む。

「あー本当に家族で乗ってますね
ハクロのおっさん」

「まったく……東部(ココ)の情勢が不安定なのは知ってるだろうにこんな時にバカンスとは……」

名簿の中でよく見知った3人の名前が目に止まった。
その人物の事を考えるとフッと口端があがる。

「ああ諸君今日は思ったより早く帰れそうだ
鋼の錬金術師と雪の錬金術師が乗っている」













「かーーーーーーー」

『すーすーすー』

エドとアンは寝ていた。
彼は座席1人分使って、彼女は頭を鎧に預けていて心做しか顔色が悪い。

「……この状況でよく寝てられんなガキ共」

無防備な彼等に当てられた男の銃が「今日は寝るべき日では無い」と思わせてくれる。
周囲の人質ももう1人の男もその様子を見ている。

「おい!起きろコラ!」

熟睡中のエドの頬に銃を突き付け起こしにかかるが起きる気配すらない。

「…………この……
ちっとは人質らしくしねぇかこの……
チビ!!」

寝ていたはずなのに目付きを鋭く尖らせて、大きな足音を立てて起き上がり、黒いオーラを放っている。

「お?なんだ文句あんのかおう!」

眉間に当てられている銃を両手で挟む。

「うお!!」

銃の先はラッパに錬成された。

「なんじゃこりゃあ!!」

驚く男を容赦なく顔を横から蹴り上げ、その弾みで彼の首の骨が折れる音が聞こえた。

「ぶ!!」

「ああ……」

横で倒れる男にアルは手で顔を覆い、溜息をつく。
乗客も目の前で起こる出来事に唖然としている。

乗客を見張っていた男が銃をエドの頭に突きつける。

「やりやがったな小僧
逆らう者がいれば容赦するなと言われている
こんなおチビさんを撃つのは気が引けるが…………」

「まあまあ2人とも落ち着いて」

「なんだ貴様も抵抗する気」

それは最後まで言えずに飛び上がったエドの膝げりでめしょっと音をたて倒れた。

「だぁれぇがぁミジンコどチビかーーーーッ!!!」

「ギャーーーそこまで言ってねェーー!!」

「兄さん兄さんそれ以上やったら死んじゃうって」

アルの説得によりやっと男を殴る手を止める。
しかし胸倉を持ち上げたまま男を指差しアルに訊く。

「て言うかこいつら誰?」

──チビって単語に無意識に反応してただけか……──

そんな兄に弟は項垂れた。

『……ふぁ〜……うるさいなぁエド静かにしなよ』

アンが眠たい目を擦りながら座席を立ち上がる。
足元は何処かふらついている。
原因はと言うとユースウェル炭鉱で飲んだ酒で、それの二日酔いが未だに続いている。

「あっアンおはよう!大丈夫??」

『気持ち悪いけど大丈夫〜
ん?何でこのおっちゃんボロボロなの?2人で喧嘩でもした?』

「俺がやった」

『いくら腹が立っても八つ当たりはだめ!』

「チゲェよ!!こいつらはな……こいつらは……誰だ?」

『さぁ?』

今の状況に対して何も分かっていない2人にアルが溜息混じりに簡単に説明すると、ジャック犯の事情聴取が始まった。
首の骨が折れた男は縛られたまま倒れているので、後からボコした男に問いただす。

「俺達の他に機関室に2人、一等車には将軍を人質に4人、一般客車の人質は数ヵ所に集めて4人で見張ってる」

「あとは?」

「本当にこれだけだ!!本当だって!!」

笑顔で尋ねるがその手は拳を握っている。

「まだ10人も!?」

「どうするんだ仲間がやられたとわかったら奴等を報復に来るんじゃ……」

乗客が口々に不安の言葉を吐いていく。
そんな状況を作ってしまった兄に何時もの事ながら呆れてしまう。

「誰かさんが大人しくしてれば
穏便にすんだかもしれないのにねぇ」

「過去を悔やんでばかりでは前に進めないぞ弟よ!!」

『ははは』

開き直った。

「しょうがない俺は上からアルは下からでどうだ?
でアンはどうする?寝とくか?」

『行くよー将軍が捕まってるんでしょ
行かなきゃ軍法会議にかけられるかもしれないし』

「わかったじゃあお前も上からな」

『りょーかいでーす』

「き……君達はいったい何者なんだ?」

エドが窓枠に手足をかけたとき1人の乗客が問いかけた。

「『錬金術師だ/だよ!!』」

「うおおおおおおお!!風圧!!風圧!!」

「かっこわるー」

『さっきかっこよく決めたのにねー』

かっこよく決めたものの、外に出た瞬間風圧で飛んで行くエドの手をアルが引き止め助けると言う何ともカッコ悪い展開になってしまった。

このとき乗客の誰もが思った「不安」だと。










「……っと」

『ふぅ……風強いね』

2人は無事に車両の屋根に乗れた。
いつ吹き飛ばされてもおかしくない程の強風が全身に突き刺さる。

「そんじゃ……

いっちょ行ってみっか!」

『うん!!』

出来るだけ風圧を受ける面積を減らそうと身を屈めて走り出した。











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