鋼の錬金術師

□第6話
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焔の錬金術師でありイシュヴァールの英雄であるロイ・マスタングの錬成を間近で見ていた憲兵は思った事を呟く。

「うは……すげーなこりゃ……」

「ああ大佐のあれ見るの初めてか」

「あ……ハボック少尉」

「一体どうやったらあんな事できるんですか!?」

煙草を咥えた軍人男性─ハボックは憲兵からの質問に煙草に火を着けながら答える。

「大佐の手袋は発火布っつー特殊なのでできててよ
強く摩擦すると火花を発する
あとは空気中の酸素濃度を可燃物の周りで調整してやれば……「ボン!」だそうだ」

「理屈はわかりますけどそんな……」

「それをやってのけるのが錬金術師ってやつよ
ちなみに大佐の隣にいる
ちっこいの2人も国家錬金術師だぞ」

「え!!じゃあ今回犯人全員を取り押さえたのって……」

「信じられんな……」

「ああ……」

「人間じゃねえよ……」

そんな話をされている事なんて知らずに「努力」と言う対価を払って得た国家資格を持つ3人は歩き出した。










『大佐!!燃やすのは構わないんだけどあたしまで燃やさないでよ!!!』

「君なら避けれると……」

『死ぬかと思ったよ!!』

「だが生きてたではないか」

『生きてたけど……黒こげなんていやよ!!
なんかかっこよく決めちゃって…………くしゅん…………』

「あっわりィ……」

『いいよ!気にしないで!もう済んだことだし』

車両に水を流し込んだ時に巻沿いを食らったアンは全身びしょ濡れ。
服も髪も体に貼り付いて気持ち悪い上に体は冷えて寒い。

抱えていたエドのトランクを渡すと彼は顔を林檎のように真っ赤にさせた。

「お…………お…………お前!!こ……これ……きろっ!!」

『へ?』

真っ赤な顔を俯かせながら同じような赤いコートを差し出した。

「い……いいから……はやく着ろよ……」

『……うん?ありがとう……』

わけのわからないまま受け取って腕を通すと金髪の女軍人─リザにそっと耳打ちされた。

「アン服透けてるわよ」

『へ?』

自分の体に視線を落とすと水に濡れたカッターシャツが透けていた。
アンは顔を真っ赤にして乱暴にコートで前を隠した。

「フフフいいものを見せてもらったよ
それでは東方司令部に行こうついてきたまえ」

『……くしゅん……はぁ』











東方司令部へ到着するとアンはリザに連れられシャワー室へ向かった。
そして冷めた体を温め、掌の治療をしてもらうとエド達の待つ執務室へと急いだ。

『エドアルおまたせ!!』

「おう!」

「ちゃんと温まった?」

『うん!もうポッカポカ♪』

「私には何も言わないのかね?」

『大佐には燃やされそうになった恨みがあるから』

それには苦笑いをするしかなかった。
アンはエドとアルが座っているソファーの横に立つ。

「今回の件で1つ貸しができたね大佐」

手に顎を置きほくそ笑む。
その笑顔を見たロイは溜息交じりに答えた。

「……君に借りをつくるのは気色が悪い
いいだろう何が望みだね」

「さっすが♪話が早いね」

『この近辺で生体錬成に詳しい図書館とか錬金術師を紹介してくれる?』

「今すぐかい?せっかちだなまったく」

「俺達は1日も早く元に戻りたいの!」

席を立つと書棚から1つのファイルを取り出す。

「久しぶりに会ったんだからお茶の一杯くらいゆっくり付き合いたまえよ」

「……野郎と茶ぁ飲んで何が楽しいんだよ……」

「ええとたしか……ああこれだ」

ファイルに挟んであった書類の1つを読み上げる。

「「遺伝的に異なる二種以上の生物を代価とする人為的合成」──
つまり合成獣の研究者が市内にすんでいる
「綴命の錬金術師」ショウ・タッカー」

ショウ・タッカー宅に向かう為にロイの車に乗り込むと、執務室での話の続きを始める。

「2年前人語を使う合成獣の錬成に成功して国家錬金術師の資格をとった人物だ」

「人語を使うって……人の言葉を喋るの?合成獣が?」

『人語……』

驚きの声を上げるエドの向かいの席でアンは顎に手を添えた。

「そのようだね私は当時の担当じゃないから実物は見てはないのだが、人の言葉を理解しそして喋ったそうだよ

ただ一言「死にたい」と」

目を見開いて言葉を失う兄弟と幼馴染。

「その後エサも食べずに死んだそうだ
まあとにかくどんな人物か会ってみることだね」












タッカー邸に到着するとロイは早速カラカランと呼鈴を鳴らす。

「でっけー家」

広い庭で大きな屋敷を見上げていると、茂みから何か音が聞こえた。
振り返ると大きな犬が飛びかかってきていた。

「ふんぎゃあああああああああ」

『ぎゃあああああああああああ』

盛大な悲鳴を響かせエドはアンを巻き込みながら倒れた。
1番下にはアン、真ん中にエド、そして1番上に長い舌を出した真っ白な犬。

「こらだめだよアレキサンダー」

家の中から長い髪をおさげにした小さな女の子と、眼鏡を掛けた優しそうな男性が出て来た。

「わあお客さまいっぱいだねお父さん!」

「ニーナだめだよ犬はつないでおかなくちゃ」

男性は自分の家の犬─アレキサンダーに潰されている2人を見て困った顔をしている。

『……エド……重いよ』

「俺じゃなくて犬に言え」

『でも……あたしの上にはエドもいるんだけど……』

「犬に言え!」

そんな言い合いを始める2人は無事にアレキサンダーから解放された。










「いや申し訳ない妻に逃げられてから家の中もこの有り様で…………」

タッカー邸はお世辞にもきれいとは言えず、本や資料やなんやかんやでごちゃごちゃしており、おまけに部屋の隅には蜘蛛の巣が張っている。

「改めまして初めまして
エドワード君アンちゃん
綴命の錬金術師ショウ・タッカーです」

「彼らは生体錬成に興味があってね
是非タッカー氏の研究を拝見したいと」

「ええかまいませんよ

でもね人の手の内を見たいというなら君達の手の内も明かしてもらわないとね
それが錬金術師というものだろう
なぜ生体の錬成に興味を?」

穏やかだった表情を硬いものにし低い声で尋ねられた。
2人の表情は険しい物になり、アンはギュッと服の裾を握り締める。

「あ、いや、彼らは……」

「大佐、タッカーさんの言うことももっともだ」

「……………………なんと…………それで「鋼の錬金術師」と─────」

上着の留め具に手を掛けそれを脱ぐ。
目を見開くタッカーの視線の先では鉛色の機械鎧がギラリと光っていた。

服を握りしめるアンの頭を撫で昔話を始めた。

「そうか母親を……辛かったね」

表情を曇らせるタッカー。
アンは内心自分と全く同じ苦しみが分かる筈はないのにと同情するタッカーをキツく睨んだ。

「彼のこの身体は東部の内乱で失ったと上には言ってあるので
人体錬成の事については他言無用でお願いしたい」

「ああいいですよ
軍としてもこれほどの逸材を手放すのは得ではないでしょうから
では……役に立てるかどうかわかりませんが私の研究室を見てもらいましょう」

席を立つタッカーの後を4人もついて歩いた。







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