鋼の錬金術師

□第7話
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「おかあさん、おかあさん、おかあさん!」

晴れた空。幼いエドが馬の玩具を抱えて、畑でトマトを収穫している母─トリシャの元へ走る。

「どうしたのエド」

「へへ〜〜〜〜プレゼント!」

そう言って馬の玩具を自慢気に差し出す。

「あら?母さんに?どうしたのこれ」

「僕が錬成したんだよ!」

「エドが?さすが父さんの子ね!」

それを受け取ったトリシャはエドの頭を優しく撫でながら褒める。

「ありがとう本当にエドはすごいわ
こんなに立派なものを作れるなんて……」

「へへ」

「でもお母さんはちゃんと作ってくれなかったのね」

真っ赤な血がトリシャの顔を伝いながら落ちていく。
恐怖に顔を歪めた幼いエド。
地面に落ちた馬の玩具は壊れ、トマトは潰れるように形を崩した。












あの日の夢に飛び起きたエド。
息は荒く、体は汗でぐっしょりと濡れていた。

全身から吹き出した汗で服は張り付き、額や頬には髪の毛が張り付いている。
きしと小さく軋む機械鎧の付け根。

「……………………痛て……」

痛む左足を抱えて、小さな声を漏らした。










同時刻。夢にうなされた訳でもなく目を覚ましたアンは、机に放り出されたあのファイルに目を向けた。
閉じていたつもりだったファイルが開いている。

『……忘れてたのかな』

だるい身体を起こして机に向かう。

『……あ』

開かれたいたページは、飛び切りの笑顔で笑うニーナの写真が貼られたページだった。

『こういう時はどうしたらいいんだろうね』

苦笑いしながら紺色のコートを羽織り、懐に手帳とペンを突っ込んだ。
少なくともアンは前へ進もうとしていた。












昨日から降っている雨は今日も止みそうになかった。
分厚い雲に覆われ、陽の光が漏れる隙間さえない。

東方司令部のロイの執務室の前で3人は佇んでいた。

「〜〜〜〜〜」

「エドワード君!アン!」

暫く立っていたが、やっぱり帰ろうと踵を返した時に急に名前を呼ばれ体が強ばった。
振り向くとリザがコートを片手に扉から顔を出していた。

「あ……ホークアイ中尉」

「どうしたのこんな朝早くから」

『ねぇ……タッカーとニーナはどうなるの?』

アンの問いに目を細め、今の彼等にとっては更に落ち込ませる種になるであろう真実を告げる。

「タッカー氏は資格剥奪の上中央で裁判にかけられる予定だったけど、2人とも死んだわ」

告げられた事実に大きく目を見開き、額からは汗が流れる。

「正式に言えば「殺された」のよ
黙っていてもいつかあなたたちも知る事になるだろうから教えておくわね」

「そんな……なんで……誰に!!」

コートを羽織りながら歩き出すリザの後ろを歩きながら更なる情報を求める。

「わからないわ私もこれから現場に行くところなのよ」

『あたしも連れていって!』

「ダメよ」

『どうして!!』

「見ない方がいい」

振り返り様に言い放たれた言葉は、反論を封じ込むような物だった。



無力な少年少女はまた護れずに失った。


こうなってしまってはどう足掻こうとも、何を対価にしようとも、どれだけ旅をしても彼女を助ける事は出来ない事ぐらい身に染みてわかっている。














「おいおいマスタング大佐さんよ
俺ぁ生きてるタッカー氏を引き取りに来たんだが……
死体をつれてかえって裁判にかけられるかけろってのか?

たくよーー俺たちゃ検死するためにわざわざ中央から出向いてきたんじゃねぇっつーの」

「こっちの落ち度はわかってるよヒューズ中佐とにかく見てくれ」

ロイは額に手を当て、愚痴るヒューズを説得するように言う。

「ふん……自分の娘を実験に使うような奴だ、神罰がくだったんだろうよ」

布を持ち上げ、中を確認するのをアームストロングも覗き込む。

「うええ……案の定だ、外の憲兵も同じ死に方を?」

「ああそうだ
まるで内側から破壊されたようにバラバラだよ」

「どうだアームストロング少佐」

「ええ間違いありませんな"奴"です」

雨が降る中"奴"は街頭の下に佇んでいた。












リオールでは暴動が起きていた。

「奇跡の業」を扱うコーネロが設立したレト教。
しかしそれは金を取り、いつの日か国取りを夢見る彼の企みという事が全てバレてしまい、気付けば街は2つに別れ争っていた。

殴り殴られ、殺し殺され、破壊し破壊されたリオールの街は無残な姿となって行く。

その光景を教会からラストとグラトニーともう1人女が見下ろしていた。

「ごらんなさいグラトニー
人間はどうしようもなく愚かだわ」

「おろかおろか」

「それを人間の私の前で言うの?」

「貴女はこちら側でしょ?アリサ」

アリサと呼ばれた女は口元に手を当てて上品に笑う。

「ふふふ冗談よ
人間なんて愚かな生き物だわ」

「ああまったくだ」

階段を登って来た男はラストの爪に貫かれ、グラトニーに食べられた筈のコーネロだった。

「こうもうまくいくとその愚かさえも清々しくさえあるな」

「あら」

「これはこれは"教主様"」

「さまーーー」

「悪いわね手をわずらわせちゃって」

「ああこれが終わったらさっさと受け持ちの街に帰らせてもらうからな」

「本当に……鋼の坊やと雪のお嬢さんに邪魔されたときはどうしようかと思ったけど……
結果として予定より早く仕事が終わりそうで助かっちゃったわ」

「ごめんなさいね……私がもっと大人しい子に育てればよかった」

溜息混じりに呟いた。

「ふふ……それにしてもあんたがちょっと情報操作して、わしが教団の者どもを煽ってやっただけでこの有り様だ
まったくもって単純だよ人間ってやつらは」

「流血は流血を憎悪は憎悪を呼び
膨れ上がった強大なエネルギーはこの地に根をおろし血の紋を刻む……
何度繰り返しても学ぶことを知らない人間は愚かで悲しい生き物だわ」

「だから我々の思うツボなのだろう?」

ラストの真っ赤な唇が弧を描いた。

「また人がいっぱい死ぬ?」

「そうね死ぬわね」

「死んだの全部食べていい?」

「ダメよ食べちゃ」

涎を垂らすグラトニーの頭にアリサが手をポンっと置いた。

「ところでエンヴィーいつまでその口調と格好でいるつもり?」

「気持ち悪いわよ」

すると、コーネロの口調が変わり身体中が変成反応を起こす。

「気持ち悪いなんて心外だなぁノリだよノリ
でもどうせ変身するならさぁやっぱりムサいじいさんより──────」

老人の体から若い少年の姿に変わっていく。

「────こういう若くてかわいい方がいいよね」

中性的な顔立ちで、長い黒髪をバンドで纏めあげ、黒い服を身に纏っているが露出度は高い。
そして左の太ももにはウロボロスの刺青が刻まれている。

「中身は仲間内で一番えげつない性格だけどね」

「ケンカ売ってんのラストおばはん」

「しょうがないわよエンヴィー実際にそうだもの」

呑気に笑うラストに青筋を立てる。

「ばっ……化け物……!!」

突然の声に振り向くとコーネロの部下が顔を真っ青にして立っていた。

「どういう事だ……教主は……本物のコーネロ教主はどこへ行った!?
なんなんだお前たちは!!」

「…………どうする?」

「化け物だってさ失礼しちゃうよね」

「食べていい?」

グラトニーは涎を垂らしながらコーネロの部下を見ていた。














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