鋼の錬金術師

□第8話
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破壊された機械鎧がバラバラと宙を舞い地面に落ちる。
エドも右腕を失いバランスが取れなくなり、肩の接続部を抑えながら地面に両膝を着く。

「に……」

「『兄さん!!/エド!!』」

次の瞬間。雷鳴が響き、雨が激しさを増す。

「神に祈る間をやろう」

「生憎だけど祈りたい神サマがいないんでね
あんたが狙ってんのは俺とアンだけか?弟……アルも殺す気か?」

「邪魔する者があれば排除するが今用があるのは、雪の錬金術師と鋼の錬金術師貴様等だけだ……」

「そうかじゃあ約束しろ弟には手を出さないと…………アンは逃げろよ」

「兄……」

「約束は守ろう」

「何言ってんだよ…………兄さん何してる!逃げろよ!!」

体を引きずって前へ出ようとすると、破壊された脇腹からボロボロと鎧の破片が落ちるがそんなことは気にならない。
たった1人の兄が殺されで、彼は生きる事を諦めようとしているのだ。

「立って逃げるんだよやめろ……やめてくれ」

男の右手が座り込んだエドの頭に向かう。

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

更に崩れる鎧を気にすること無く身を乗り出しながら大声で叫ぶ。

その時、アルの視界でアンの黒髪が揺れた。

「…………アン……?」

男の近くにエドがいるにも関わらず、アンは弾を撃った。

それを躱すと同時に男はエドから距離を取った。

『……そんな、生きるのを諦めるような事言わないでよ
3人で元に戻るんじゃなかったの?
エドがいなくなったらあたし達はどうしたらいいのよ!?』

エドに向かって怒号を飛ばすと体の向きを変え、男に突進する。

素早く男の背後に回り込み、頭を蹴りつけた。

「……ぐっ」

『え……』

衝撃によって落ちたサングラスで、隠されていた瞳の色は─。
アンは思わず絶句した。

『…………もしかして復讐の為に人殺ししてるの?』

「そのとおりだ。雪の錬金術師」

男は拾い上げたサングラスを掛け直す。

「己れの家族を殺した罪、償ってもらおう」

近付いてくる右手をギリギリで躱し、男の脇腹に合わせた両手を触れるとパキパキと音を立てて凍っていく。

「……ゔ……」

『あたしは……あんたを殺す
復讐は復讐しか産まない……あたしが産んだ復讐の連鎖はあたしが今ここで止める』

1度間合いを取り、凍った脇腹目掛けて蹴りを入れる。

「……貴様はまだ人を殺すというのか」

しかし右脚はいとも簡単に男の右手に掴まれて、ごぱっと内側から肉が裂けた。

『……ッあ゛っ……!!』

「「アン!!」」

憲兵やタッカーの頭のようにアンの脚は血が流れる。

「アンもう辞めろ!」

「僕達の事はいいから逃げるんだ!」

『……絶対に……嫌っ!!』

エド達の静止を聞く耳を持たずに、動きそうにない脚に鞭を打ち走り出す。

濡れた地面に合わせた両手を着いて、氷の突起物を男を囲む様に走らせる。

破壊だけでは間に合わないとジャンプする男。

空中に逃れたのをいい事にアンは銃を向けた。


バンバンバンバン


戸惑いなく急所を狙うが、弾が1発左足を掠めただけで致命傷にもならない。

『っ……!エドそこのナイフ貸して!!』

「お、おう」

生身の左腕で投げられた短剣を受け取り、男へ向ける。

『まずはその右腕斬り落としてあげる』

「貴様に2度も己れの家族を殺させはせん」

男の右腕目掛けて突進するアンと、アンの頭を目掛けて突進する2人は交差した。

短剣は掠めるどころか右手で破壊され、破片がアンの頬に刺さる。

頭に向かって伸びてくる腕。

──死ぬ──

そう思った時には反射的に頭の前に自分の右腕を出していた。

脚と同様に右腕にも割けるような痛みが走り、まだ残っていたのかと言う程の量の血が溢れ出る。

「「アンっ!!!!」」

『……まだ、死にたくないよ』

座り込んだアンは小さく呟く。
男はそれに構わず右腕を伸ばす。

「やめろぉぉぉおおお!!」

「アンっっ!!!」




ドン




銃声が響いた。
男は音のした方に瞳だけを動かして確認する。

「そこまでだ」

銃口を上に向けて発砲したロイと、武器を構えたリザやハボックと憲兵達が到着していた。

「危ないところだったな鋼の、アン」

『はは……』

エドは力無く笑うアンに駆け寄って生身の左腕で彼女を守るように抱き寄せる。

「大佐!こいつは……」

「その男は一連の国家錬金術師殺しの容疑者…………だったがこの状況を見て確実になったな
タッカー邸の殺害事件も貴様の犯行だな?」

エドはぎっと男を睨み付ける。

「……錬金術師とは元来あるべき姿の物を異形の物へと変成する者……それすなわち万物の創造主たる神への冒讀
我は神の代行者として裁きをくだすものなり!」

男はそう言いながら胸の前で右手の拳を掲げた。

「それがわからない
世の中に錬金術師は数多(アマタ)いるが国家資格を持つものばかり狙うというのはどういう事だ?」

「…………どうあっても邪魔をするというならば貴様も排除するのみだ」

ロイの目の色が変わった。

「……おもしろい!」

後ろにいるリザに持っていた銃を投げ渡す。

「マスタング大佐!」

「お前達は手を出すな」

そして、1歩前へ出ながら発火布の手袋を手に装着する。

「マスタング……国家錬金術師の?」

「いかにも!「焔の錬金術師」ロイ・マスタングだ!」

発火布にかかれた錬成陣を男に見せ付けるように構えた。
すると男も指の関節を鳴らして吠える。

「神の道に背きし者が裁きを受けに自ら出向いてくるとは……今日はなんと佳(ヨ)き日よ!!」

「私を焔の錬金術師と知ってなお戦いを挑むか!!愚か者め!!」

ロイは指に力を込め戦闘を開始しようとするが、彼は1つ重大な事を忘れている。

その「重大な事」にはっと気が付いたリザは、素早くロイの足を払った。

「おうっ!?」

バランスを崩したロイの頭上を男の右手が通り過ぎる。

そこでリザが自分とロイから受け取った銃で発砲するが、男は後ろへ飛び退いて避けた。

「いきなり何をするんだ君は!!」

「雨の日は無能なんですから下がっててください大佐!」

声を荒らげるロイに、弾を補充しながら冷静に容赦無く答える。

「あ、そうかこう湿ってちゃ火花出せないよな
てことは雨の日だとアンが有利だよな」

ロイの頭上に「無能」の漢字2文字が落ちてきた。

大まかに言えばロイの焔の錬金術は発火布である手袋を強く擦り合わせ、摩擦によって火花を出すと言うもの。
つまり、雨で湿っていれば火花は出せないのだ。
反対に空気中の水を使い、雪や氷を錬成するアンにとっては好条件な天候だ。

「わざわざ出向いてきた上に焔が出せぬとは好都合この上ない
国家錬金術師!そして我が使命を邪魔する者!この場の全員滅ぼす!!」

「やってみるがよい」

突然聞こえた声。間一髪アームストロングの手甲のはめられたパンチを躱す。

「む……新手か……!!」

「ふぅーーーむ我輩の一撃を躱すとはやりおるやりおる」

殴られた壁は崩れている。
手甲があったとは言え、アームストロングの腕力は最早人間のものではないとまで思わせてしまう。









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