鋼の錬金術師

□第10話
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「これでよし」

右膝から下につけられた機械鎧ではない義足。
ぎっぎっと音を鳴らしてそれの調子を確認する。

「おっいい感じです。さすがピナコ先生」

「どうだい、おもいきって機械鎧にしてみないかい?」

「はは……冗談でしょう?
確かに便利かもしれませんが、手術後の痛みとかリハビリが大変だと言うじゃありませんか」

「いい年して何をビビってんだい。右手と左足をいっぺんに機械鎧にしたガキもいるってのに」

「私にはそんな勇気はありませんよ。じゃあ」

ピナコの誘いを苦笑いしながら断った男性は帰り支度を済ませ、手を軽く挙げると帰って行った。
それを見送ったピナコが一服していると愛犬─デンが道の向こうに向かって吠えた。

「ん?なんだい、デン」

ピナコもその方向を見ると口端をあげた。

「───おや、来たね。ウィンリィ!」

家の中へ向かって叫ぶ。

「上客が来たよ!ウィンリィ!」

ウィンリィと呼ばれたつなぎの少女は作業をする手を止めて振り向く。

「ふん…………元気そうじゃないか」

緑に囲まれた一本道をエド達は家族の待つ家へと歩いている。

『ピナコばっちゃん!!』

「また頼むよ」

それぞれ持っていた荷物やアルを降ろすと、初めて顔をあわせるアームストロングを紹介する。

「こっちアームストロング少佐」

「ピナコ・ロックベルだよ」

握手を交わす2人の横で、デンが木箱のアルを覗き込む。

「デン久しぶりー」

「しかし暫く見ないうちに……エドもアンもちっさくなったねぇ」

エド、アンとアームストロングを対象物としたピナコの発言に、彼等の堪忍袋の緒は容易く切れた。

「だれがちっさいって!?このミニマムばば!!」

『少佐とくらべるなぁっ!!小学生ばば!!』

「言ったねドちび共!!」

「『豆つぶばば!!』」

「マイクロちび!!」

「『ミジンコばば!!』」

そのやり取りを遠目に眺めるアルとアームストロング。
一方、ウィンリィはそれを聞きながらドカドカと部屋を歩く。

「───あのバカ共!来るときは先に連絡入れろってあれほど言ってんのに……」

つなぎの上半身を脱いで、へそ出しチューブトップ姿になる。

「こらーー!!エド!!アン!!」

名前を呼ばれた2人は真っ青な顔になった。
次の瞬間。がいんとエドの後頭部に当たるスパナ。

「ごふ!!!」

それは見事にバウンドしてアンの顔全体に当たる。

『うげ!!!』

「メンテナンスに来る時と帰ってくる時は先に電話の1本でも入れるように言ってあるでしょーーーーーー!!」

前に倒れたエドは起き上がり、後頭部をおさえながら怒鳴る。

「てめーウィンリィ!!殺す気か!!」

後ろに倒れたアンも起き上がり、鼻血を垂らしながら怒鳴る。

『ウィンリィ!!?鼻が折れるかと思ったよ!!』

そんな怒号を飛ばす2人にウィンリィは楽しそうに笑う。

「あはは!おかえり!」

「おう!」

「ただいまー」

『ただいま!』












「んなーーーーーーーーーーーーっ!!」

絶叫するウィンリィが指差す先は、エドの機械鎧の腕が無くなった接続部分。
本人はソファに座ってコーヒーを飲みながら言う。

「おお悪ィぶっ壊れた」

「ぶっ壊れたってあんたちょっと!!
あたしが丹精こめて作った最高級機械鎧をどんな使い方したら壊れるって言うのよ!!」

「はっはっはっ。いやそれがもう粉々のバラバラに」

「バ……」

ウィンリィは驚愕のあまり顔を真っ青にしてよろよろと倒れかけた。

そしてコーヒーを啜るエドの頭にはスパナが突き刺さり、血がダラダラと流れている。

「で、なに?アルも壊れちゃてるわけ?アン右半身ミイラじゃない?
あんたらいったいどんな生活してんのよ」

「いやぁ」

『あはは』

腰に手を当てボロボロな幼馴染達を順に見るウィンリィの額には青筋が立っている。








「──でその資料とやらを手に入れるために1日も早く中央に行きたいって言うのかい?」

「そう大至急やってほしいんだ」

タンクトップと短パン姿になったエドの足の機械鎧を見てもらっている。

「うーーん腕だけじゃなく足も調整が必要だね」

「あら一応身長は伸びてんのね
この前測った時は✕✕✕cmだったっけ」

悪戯な表情で暴露するウィンリィの言葉にエドはモザイクをかけた。

「足の方は元(コレ)があるからいいとして、腕は一から作り直さなきゃならんから……」

ピナコは煙管で機械鎧をカンカンと叩く。

「ええ?1週間くらいかかるかな」

一刻も早く中央に行きたい気持ちと一から作り直さなければらない現実から不安が募る。

ピナコは煙管を吸いながら考え、

「舐めんじゃないよ、三日だ」

煙を吐きながらニッと笑った。

「とりあえず三日間はスペアで我慢しとくれ」

「うん」

足の機械鎧を外し、代わりにスペアをはめる。

「と…………やっぱ慣れてない足は歩きにくいな」

試しに歩いてみると、歩き方はぎこち無く少しフラフラしている。

「削り出しから組み立て微調整接続仕上げと……うわカンペキ徹夜だわ」

「悪いな無理言って」

指折り作業工程を確認するウィンリィに謝ると、彼女は口端を上げた。

「一日でも早く中央に行きたいんでしょ?だったら無理してやろうじゃないのさ」

キョトンとした顔をしていると、ウィンリィはばしっとエドを叩く。

「そのかわり特急料金がっぽり払ってもらうからね!」

慣れない足の為に簡単に吹っ飛んだエドは逆さまに荷物の山に倒れ込んだ。

「あ、慣れてない足だっけ」













することの無い3人とデンは庭に座っていた。

「……ったくなんなんだあの狂暴女は!!」

『それでこそウィンリィって感じじゃん』

「ははは。何を今さら」

「はーーーーー三日か……」

溜息混じりにエドは芝生に寝転んだ。

青い空には白い雲が流れ、風で木は揺れ、鳥が飛んでいる。

視界に広がる穏やかで落ち着ける景色だが、忙しくアメストリスを駆け回っていたエドとアンは落ち着くことが出来ない。

取り敢えずアンはエドの様に芝生に寝転ぶ。

『………………とりあえずやることがないと本当にヒマだね』

「ここ図書館もなんもないしな」

「ここしばらくハードだったからたまにはヒマもいいんじゃない?」

「〜〜〜〜ヒマなのは性に合わねぇ!!」

──だろうね……──

ジタバタと手足を動かし暴れるとデンも隣で真似して暴れる。
そんな2人を見てアルは提案する。

「そうだそんなにヒマなら母さんの墓参りに行っといでよ」

「墓参りか……でもお前そんなナリじゃ行けないじゃん」

「少佐に担いでいってもらうのも悪いからボクは留守番してるよ
機械鎧が直ったらすぐ中央に行くんだろ?だったらヒマなうちにさ」

「そーだな……ちょこっと行って来るか……」

提案に乗ったエドは立ち上がると、自分のお腹の上に頭を乗せるデンを撫でるアンに手を差し出す。

「アンも行くぞ」

『……んー』

少しの間を開けてエドの手を掴んで、立ち上がった。














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