鋼の錬金術師
□第14話
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「困った子達ね。どうやって、ここの事を知ったのかしら」
「うが……」
血印を貫かれ、呻き声をあげる兄。
「あまり見られたくなかったけど、しょうがないわね」
アリサが兄を宙に放ると、ラストは鋭い爪で真っ二つに切り裂いた。
「兄者!!兄者!!兄者あ!!
ちくしょう!俺達はまだ闘える!!」
エンヴィーはスライサーの剣を拾い上げ、肩に担ぐ。
「身体をくれ……あたらしい身体をくれ!!」
驚愕するエドとアンの前を通って弟の前に立つ。そして、
「身体を………」
なんの躊躇もなく、弟の血印を貫いた。
「かっ……」
「ぐだぐだとやかましいんだよ
このボケが!おめーら貴重な人柱を、殺しちまうところだったんだぞ?わかってんのか?
おまけにこっちの事、バラすところだったしよ。計画に差し支えたら、どう責任とるんだコラ!なんとか言えコラ!ああ?」
そう言うエンヴィーの瞳には、情の欠片もない。
何度も何度も繰り返し突き刺され、微かに動いていた腕も落ちる。
「エンヴィー、もう死んでる」
「あ?あらー根性無いなぁ。本っ当、弱っちくて嫌になっちゃうね」
やれやれと両手を広げるエンヴィーは、エドとアンの目の前に、しゃがみ込む。
「あーそうそう。初めまして鋼のおチビさんと、雪のおちびさん。ここにたどり着くとは流石だね、ほめてあげるよ。でもまずいもの見られちゃったからなぁ………やっぱりあんた達も殺しとこうか?」
目の前にある、不気味な笑顔。
そんな彼の瞳がふいにアンへと落ちる。
「まぁもっとも、お人形さんは時間の問題だろうけどね」
ラストがチラッとアリサを見ると、彼女は気付いたようで、
「ごめんなさいね」
と言う。
「こ……の……」
アンをそっと床に降ろして、震える体に鞭を打ち、立ち上がる。
「お?」
そして、勢い良く蹴り上げる。が、ギリギリで躱される。
「おお!?あらー……やる気満々だよ、このおチビさん」
荒い息を吐きながら、エンヴィーを睨みつける。
エンヴィーは後頭部に手を当て、眉を顰める。
「やだなぁ、ケンカは嫌いなんだよね、ケガしたら痛いしさぁ」
「ちびちびとうるせーんだよ!」
両手をバシと合わせる。
「てめェが売ったケンカだろうが!!買ってやるからありがたく」
が、
「……え?」
機械鎧が、関節が外れた様にブランと垂れ、動かなくなった。
「なーーーーーーーーーーーー!!?こんな時にィィィ〜〜〜」
「機械鎧の故障みたいね」
「ラッキー♪」
子供のように無邪気に両腕を上げて喜ぶと、エドの三つ編みを掴み腹に重たい膝蹴を入れる。
「げふっ!!」
「殺すってのは冗談♡腕が壊れて良かったね。余計な怪我しなくて、済んだんだから」
『……エ、ド……』
三つ編みを放すとエドは崩れ落ちるように倒れ、痛みに表情を歪める。
「いいこと、坊や達。あなた達は"生かされてる"って事を、忘れるんじゃないわよ」
アリサはヒールを鳴らして横たわるアンに近付いた。
「だめよ」
「大丈夫、殺さないわよ」
ポニーテールを掴み上げ、顔を近付かせる。
『……う』
「よく覚えときなさい」
髪の毛を束ねているゴムを爪で引きちぎる。
「私はもう、あんたの親友じゃない」
腰からスラリと剣を抜き、艶のある綺麗な長い黒髪を切り裂いた。
「あんたの敵よ。「親友」なんて言葉、2度と口にするんじゃないわよ」
さらさらと斬られた髪と、支えを失った体が床に落ちていく。
強い衝撃ではなかったが、今のアンの意識を奪うには充分だった。
「アリサ」
「悪い子にお仕置きしただけよ」
「あなたは"お仕置き"のやりすぎよ
さて………もうここで石を造る必要もないし、爆破して証拠隠滅してしまいましょうか」
「でも本当にこの子達生かしといて、大丈夫かな」
「ここを嗅ぎ付けられたのは計算外だったけど、石の製造法を知っただけじゃ何もできないのよ」
「そう。計画はもう最終段階に入っているのだから」
──アル、アン。俺さ……ずっとお前らに言おうと思ってたけど、怖くて言えなかった事があるんだ……」
アルの頭の中で、兄の紡いだ言葉が思い出されていた。
──何だ……兄さんは何を言おうとしていた?
怖くて言えなかった事……言えなかった事……──
兄の言葉、バリーの言葉、自分の身体。
「オマエノ、人格モ、記憶モ、人工的ニ造リ上ゲタ物ナンダ」!?
足りないパズルのピースで、完成した絵は、アルをドン底に叩き落とすには充分すぎるものだった。
「!!」
巨大な包丁が腕に当たり、アルは現実に引き戻された。
腕には傷が一線できている。
「…………」
「どうした、どうしたァ!!急に動きが悪くなったぜェ!?
げはははははは!!人工的に造られた魂っつても、完璧じゃねェと見える!これくらいの揺さぶりで、動揺するんだもんなァ!!」
「う……うるさい!!僕は……」
お互いの腕が当たり、バリーはアルに顔を近寄せる。
「認めちまえよ、楽になるぜ」
「くっ……」
言葉の揺さぶりによって出来た隙を狙って、アルの腹に拳を殴ると、衝撃で膝をつく。
「げはははは!!スキだらけだぜデカブツ!!」
耳障りに笑い、巨大な包丁を振り上げた時、バリーのそれを握る手に、銃弾が撃ち込まれた。
手から落ちた巨大な包丁は、地面に突き刺さる。
「うェ?」
酷くまぬけな声を出し、手に空いた風穴を怪訝そうに眺める。
「動かないで!」
バリーの背後から静止の声が聞こえた。
「次は頭を狙います。大人しく大きい鎧の人を、こちらへ渡してください」
「ロス少尉…………」
エド、アルそしてアンの護衛を勤めるロスとブロッシュだ。
「なんだ、おめェら」
「その人の護衛を任されている者です」
「ああ、くそっ、護衛ふぜいがいい所でジャマしやがってよ!
門番の野郎何やって……ああ、俺がぶった斬っちまったんだっけかァ。失敗失敗」
ブロッシュは横目で、血の海に倒れる門番を見た。
「ふん……」
アル、ロス、ブロッシュを順に一通り見回す。
「面倒な事に、なっちまったな……」
すると、ズズズと建物が揺れる音が聞こえた。
「………………?何の音だ……?」
ズドン
刹那、第五研究所が崩れ落ちた。
「「「な…………なんだぁ!?」」」
「爆発!?軍曹!!退避よ!!何してるの、逃げるよ!」
呆然と崩れゆく建物を眺めていたアルはふと気付く。
「!!兄さんとアンが!!」
「ちょっ……どこへ行くの!!」
走り出したアルの腕を掴んで引き止める。
「兄さんとアンがまだ中にいるんだ!はなしてよ!」
「バカな事言わないで!!巻き込まれるわ!!」
「……うーむ……こりゃあアレだな」
崩れる建物を見ながら頭を掻いたバリーは、突然走り出した。
「素直にとんずら!!」
「あ……待て!!」
「おめーらも早く逃げねェと巻き込まれるぜェ!!げひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
「……くっ!!」
素早く拳銃を向けるが、バリーに言われ、くやしそうに手を引っ込める。
「兄さんがアンが……兄さんとアンが……!!」
「今はあなたが逃げる事を考えなさい!!」
膝をつくアルの腕を、ロスは引っ張りながら説得する。
ーー