鋼の錬金術師

□外伝2
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ちょこん


東方司令部の一室に置かれた、黒と白の子犬と一回り小さい茶色と白の子犬。

それを見たリザは単刀直入に訊ねる。

「…………なんですか、これは」

「「イヌ」食肉目イヌ科。学名Canis familiaris。原種はオオカミとされ、群れを作って狩りをする習性を持つ」

「そんな事を訊いてるんじゃないのよファルマン淮尉」

キリッとイヌをまるで辞書の如く説明するが、リザに斬り捨てられる。

「すみません!僕が、今朝、拾ってきた犬です!」

タオルと小皿を持ったフュリーが、慌てて理由を説明する。

「へえ、こいつら飼うのか、フュリー曹長」

「いえ、うちは寮なので、飼えないんですよ」

子犬達を抱き上げ、持ってきたタオルで濡れた体を拭ってやる。

「世話が出来ないのなら、拾って来てはダメよ」

「この雨の中ふるえてたから、かわいそうでつい……」

「そうだ。誰かこの子達、飼ってくれませんか?」

「うち、寮だから無理だな」

ファルマンには腕を組んで答えた。

「ブレダ少尉は…………」

「犬嫌い!!大っっっ嫌い!!」

「……ダメですか……」

ブレダは扉の影に身を潜め、顔だけを覗かして叫んだ。

「じゃあ、俺がもらおう」

横からひょいっと手が伸び、フュリーから子犬達の首根っこを掴む。

「俺、犬は好きだぞ」

「うわぁ、ありがとうございます。ハボック少尉!」

ぱぁっと笑顔を見せたフュリー。

ハボックは真面目な顔で、子犬達を目の高さまで持ち上げると、

「炒めて食うと、美味いらしい」

とんでもない事を言い出した。

「ここからはるか東の方の国じゃ、食用に飼っててな。赤犬が1番美味いっていう…」

リザがハボックの手から救出した子犬達を、フュリーに渡す。

「他の飼い主を探しましょうね」

「はい…」

「冗談っスよ」

そこへ、

『こんにちはー!』

元気な声で挨拶をしながらアンがやって来た。

「あら、アン、今日はどうしたの?」

『ロイさんに用事があって…ってその犬どうしたの?』

ふと目に入ったのは、フュリーに抱かれた2匹の子犬達。

「雨の中ふるえてたから、拾ってきちゃったんだ。アンちゃん飼えないかな?」

『…あたしはいいんだけど、エド達がなんて言うか…』

「そうね…アン達はね……」

アン達は旅から旅への根無し草、その上激しい戦闘を繰り広げる時だってある。
そんな彼等に何も出来ないペットが、付いていれば邪魔なだけ。

『とりあえずエド達ん所行こうよ』

そう言うと、がっくりと肩を落とすフュリーから、茶色と白の子犬を摘み上げた。













「「犬?」」

犬の飼い主探していると言う話をすると、エドとアルは声を揃えた。

『うん』

しかし、エドはきっぱりと断る。

「無理だよ。オレらみたいな根無し草が、ペットなんて」

「やっぱりダメかぁ…」

「だいたい曹長は人が良すぎだよ。飼う資格も条件も揃ってないのに、動物を拾ってきちゃダメだろ。なっ、アル」

そう言って、話しかければ、アルはギクリと体を強ばらせた。

その時、鎧の中から、

「にゃーーーーーーー」

聞こえる猫の鳴き声。

「カリカリカリカリカリカリ」

そして爪を立てる音に、エドは青筋を立てる。

「また、猫拾って来て、中で飼ってるなアル!!」

「にゃおーーん」

「だって雨の中で、寒そうにしてたんだもん!!飼っても良いでしょ!?」

「ダメ!!元の所に捨てて来い!!」

「兄さんのバカ!!ひとでなし!!」

アルは涙を流して鎧をガチャガチャと揺らしながら、走り去る。

「に゛ゃーーー!!」

鎧の中からネコの悲痛の鳴き声が聞こえて来た。

「走るな!!ネコかわいそう!!」

「…」

その様子を呆然と見つめるフュリーに、アンは声を掛けた。

『あたし、この子飼うよ』

「えっ!?でもさっきエドワード君が…」

『大丈夫!バレないように飼うから!!』

「バレないようにって!そんな事…!!」

『大丈夫だってば!』

他に飼い主候補も無く、あまり納得が行かないもフュリーは笑うアンに子犬を引き渡した。












フュリーがもう1匹の子犬の飼い主候補を探して歩き回っていると、ロイと出くわした。

そして、訳を説明すると、

「ほぉ犬か!犬は好きだぞ。ははは」

ロイは笑いながら犬の頭を撫でた。

「本当ですか!?」

「何よりその忠誠心!!主人の命令には絶っっっ対服従!過酷に扱っても文句を言わんし給料もいらん!そう!まさに人間のしもべ!いいねぇ、犬!!大好きだ!!はははは」

目を光らせ言い放つロイに、フュリーは胸中で思う。

「(この人に飼わせてはいけない)」











「そうか、飼い主が見つからない時はまた捨てて来いと…」

「はい…」

「中尉も冷たいです。こんな雨の中にまた放り出せなんて…」

フュリーは雨が降り続ける空を見上げた。

「なに、心配する事は無い。ホークアイ中尉は、ああ見えても優しい人だよ」

ロイはそう言って微笑んだ。

「…………はぁ……」

その時、

「飼い主は見つかったの。曹長」

突然かけられた声に肩を震わせ、狼狽える。

「あ…あの、いや、その……………」

「みつからなかったのね?」

「はい…約束通り元の場所に…」

リザは肩を落とすフュリーから、子犬を抱き上げた。

「そうね。飼い主候補がいないなら、しょうがないわね。私が引き取ります。うちのしつけは厳しいわよ?」

「中尉……!!」

手を組んで感激の涙を流すフュリーの横で、ロイは笑う。

「だから言っただろう、彼女は優しい人だと。ははははは」









「よかったなぁ。飼い主がみつかって」

子犬は皿の中の牛乳を美味しそうに飲んでいる。

「中尉ならしつけもきちんとして、かわいがってくれそうだしな」

「ひと安心です」

「だが、まさか大将がオーケーするとはなぁ」

「違いますよ。アンちゃんがエドワード君達に秘密で飼ってくれるらしいんです」

「まじかよ!大丈夫か…?」

「…正直不安でいっぱいです…」

なんて溜息を零していると、子犬が壁際で後足をあげて粗相を始めた。

「あ。あーあ早速、粗相を…」

仕方ないなと言うふうに笑うフュリー。その時、飼い主は教育を始めた。





ドカドンドンドンドン





部屋中に響き渡る発砲音。
容赦ない躾に、ロイ達は青ざめる。

涙目で壁に張り付く子犬の周囲に撃ち込まれた弾丸。

「だめよ。トイレはここ、わかった?」

リザがトイレを指さすと、子犬は震えながら何度もコクコクと頷く。

「そう、いい子ね」

「仕事しよう!!」

一騒動去って「中尉には絶対に逆らわないでおこう」と誓った、東方司令部の面々であった…。














おまけ。

「我が家の愛犬、名をブラックハヤテ号と言います」

「君、ネーミングセンスは無いんだね」




おまけ2。

それから何日後かの話。

「なぁ、お前最近、犬臭くね?」

『え!!?犬!?』

「うん。犬」

『き、気のせいだよ!!』
















2015/05/23
 

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