鋼の錬金術師

□第2話
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「すべての子らに光の恩寵があらんことを…」

コーネロが町中に流れる放送を終え、スイッチを切りマイクを置くと彼の部下が部屋に入って来た。

「お疲れ様です。教主様」

「教主様、本日もありがたいお言葉感謝いたします」

「教主様!」

そこに現れたのは先程まで店にいたロゼ。

「おお、ロゼかいつも感心だね、えらいぞ」

彼女の登場にコーネロは笑みを浮かべる。

「いえ、当然のことです。それであの…いつになったら…」

「ああ君の言いたい事はよくわかっているよ、神は君の善行をよく見ておられるからね」

少し俯いていたロゼの顔がぱぁっと明るくなり、持ち上がる。

「それじゃあ…」

コーネロがロゼの肩に手を置き、優しく子供に言い聞かせるように話す。

「だがなロゼ、今はまだその時期ではない、わかるね?ん?」

「………そう、そう…ですよね…まだ…」

「そう、いい子だねロゼ」

肩を落とすロゼに分からないに、にんまりと口角を吊り上げて笑った。










エドとアルとアンはコーネロの教会を訪れていた。今居るのは礼拝堂。そこに丁度ロゼがやって来た。

「あら、たしかさっきの…レト教に興味がおありで?」

「いや、あいにくと無宗教でね」

「いけませんよ、そんな!神を信じ敬うことで日々感謝と希望に生きる…なんとすばらしい事でしょう!」

そして、拳を握り力説する。

「信じればきっとあなた方の身長も伸びます!」

「んだとコラ」

『それぐらい信じずとものびるわッ!!』

「悪気はないんだから。」

アルは今にも暴れ出しそうなエドとアンを落ち着かせた。

「…ったく、よくそんなに真正直に信じられるもんだな。神に祈れば死んだ者も生き返る…かい?」

「ええ、必ず…!」

エドは溜息をつきながら手帳を開きおもむろに科学用語を並べる。

「水35ℓ、炭素20kg、アンモニア4ℓ、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g、イオウ80g、フッ素7.5g、鉄5g、わケイ素3g
その他少量の15の元素…」

「…は?」

淡々と喋るエドの声が広い礼拝堂の反響するだけで、ロゼは訳が分からず疑問符を浮かべる。

『大人一人分として計算した場合の人体構成成分だよ。今の科学ではここまで判ってるのに、実際に人体錬成に成功した例は報告されてないの』

「"足りない何か"がなんなのか…何百年も前から科学者達が研究を重ねてきて、それでも未だに解明できていない。不毛な努力って言われてるけど、ただ祈って待ち続けるより、そっちの方がかなり有意義だと思うけどね」

パタンと開いた手帳を閉じる。

『ちなみにこの成分材料ね市場に行ったら、子供のお小遣いでも全部買えるよ。人間ってお安くできてるよね』

「!人は物じゃありません!創造主への冒涜です!天罰がくだりますよ!!」

「あっはっは!錬金術師ってのは科学者だからな、創造主とか神様とか、あいまいなものは信じちゃいないのさ。この世のあらゆる物質の創造原理を解き明かし真理を追い求める…神様を信じないオレ達科学者が、ある意味神に一番近い所にいるってのは皮肉なもんだ」

「高慢ですね、ご自分が神と同列とでも?」

ロゼの態度が少し刺々しくなり、強く反論する。

『──そういえば、なんかの神話にあったっけ。「太陽(カミサマ)に近づきすぎた英雄は蝋で固めた翼をもがれ地に堕とされる」…ってね』

ロゼはアンの言った意味がこの時はわからず疑問符を浮かべたが、直ぐに分かる事になるだろう。











教会前の広場に大勢の信者が集まりコーネロは片手をあげた。信者の歓声を浴びながら手に乗せた小さな花を両手で包み込むと、赤い光を輝かせながらひまわりに変えて見せた。

「…どう思う?」

「どうもこうもあの変成反応は錬金術でしょ」

『それ以外って言われたらあたしは夢を見てるんだって頬っぺたつねる』

「だよなぁ…頬っぺたはつねらん」

人混みの一番後ろでコーネロの「奇跡の業」を見ていた。アルは身長が高いのでそのままで十分見えるのだが、背の低いエドとアンは全く見えない為エドはトランクの上に乗り、アンはアルの肩に乗らしてもらっていた。

『それにしては法則がね…』

皆が1点へと注目している中、大道芸人と間違われる程の目立つ3人組をロゼは見つけ声を掛ける。

「あ、3人共来ていらしたのですね。どうです!まさに奇跡の力でしょう、コーネロ様は太陽神の御子です!」

「いや、ありゃーどう見ても錬金術だよ。コーネロってのはペテン野郎だ」

『そうだよ!ハゲでデブで!あたし見た目だけでも嫌いっ!』

尊敬する人をいつまでも否定されていては気持ちのいい物ではない、ロゼは青筋を浮かばせた。

「でも、法則無視してんだよねぇ」

「うーーーーーーん。それだよな」

「法則?」

「一般人が見たら錬金術ってのは、無制限になんでも出せる便利な術だと思われてるけどね。実際にはきちんと法則があって──」

アンはアルの肩から抜群の運動神経で、一切バランスを崩すこと無く着地しすると続きを話し出す。

『大雑把に言えば、質量保存の法則と自然摂理の法則の事。術師の中には四代元素や三原質を引き合いに出す人もいるんだよ!』

「???」

ロゼのまわりには疑問符が飛び回っている。説明が突然アルからアンに切り替わり、しかも内容が難しい為に更にややこしくなる。

「えーとね、質量が一の物からは同じく一の物しか、水の性質の物からは同じ水属性の物しか錬成できないってこと」

「つまり、錬金術の基本は「等価交換」!!何かを得ようとするなら、それと同等の代価が必要って事だ。その法則を無視してあのおっさんは錬成しちまってんだ」

『ぶっちゃけあたしは等価交換なんてくそくらえっておもってるけどね
やっぱり法則は法則だからさ』

「だからいいかげん奇跡の業を、信じたらどうですか3、人共!」

どれだけわかりやすく説明されても奇跡の業は奇跡の業。ロゼは声を荒らげた。

「兄さんアンひょっとして」

「ああひょっとすると…」

「『ビンゴだ(ぜ/ね)』」

そして、くるとロゼに振り返る。

「おねぇさん。ボク、この宗教に興味持っちゃったなぁ!ぜひ教主様とお話したいんだけど案内してくれるぅ?」

「まあ♡やっと信じてくれたのですね!」















部屋で紅茶を啜りながら休憩をしていた所に幹部が入って来た。

「教主、面会を求める者が来ております。子供2人と鎧を着た3人組でエルリック兄弟とケリーと名乗ってますが…」

「なんだそれは。私は忙しい、帰ってもらえ。!いや待て、エルリック兄弟とケリーだと?エドワード・エルリックとアン・ケリーか!?」

「はぁ、たしか子供の方がそう名乗ってましたな…お知り合いで?」

「〜〜〜〜ッまずいことになった!"鋼の錬金術師"エドワード・エルリックと"雪の錬金術師"アン・ケリーだ!」

「!!なっ…こんなちっこいガキでしたよ!!?冗談でしょう!?」

「バカ者!錬金術は年齢がどうこういうものではない!国家錬金術師の称号を得たのが12歳と5歳のときだと聞いてはいたが…そうか…本当に噂通り子供(ガキ)だったか…」

「その国家錬金術師がなぜここに!?まさか我々の計画が…」

「軍の狗はよほど鼻がよいとみえる」

「追い返しますか?」

「いや、それではかえってあやしまれよう。追い返したところでまた来るだろうしな…奴らはここに来なかった──というのはどうか?」

「!神の御心のままに…」

コーネロの企みに部下もニヤリと怪しく笑った。










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