鋼の錬金術師

□第3話
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夕暮れ時の6時過ぎ。

「なんだか今日は下がさわがしいな…
──っておい、何してる!鐘の時間はとっくに過ぎてるぞ!」

何時まで経っても鳴らない鐘。男は紐を握ったまま呆然とあるはずの鐘を見上げていた。

「鐘が…」

「あ?」

「鐘がない」

「はい?」

ソレは口笛を吹くアルの手元にあった。









場所を移動してロゼはアルに問う。

「さっきの話だけど、まだ信じられない。そうまでしないと錬成できないなんて…」

「言ったろ。錬金術の基本は「等価交換」って、何かを得ようとするならそれなりの代価を払わなければいけない。兄さんもアンも「天才」だなんて言われてるけど「努力」という代価を払ったからこそ、今の2人があるんだ」

「でも、そこまでの犠牲を払ったからにはお母さんはちゃんと…」

目尻を下げるロゼにアルは一瞬黙り混むが断言した。

「人の形をしていなかった」

「……!!」


自分らが錬成したそれは母親、それ以前に人とは遠くかけ離れた醜いものだった。

その光景を幼い3人は呆然と見つめ、自分等の間違いに気が付いた。

「そんな…なんで!!兄さんとアンの理論は完璧だったはずだ!!」

「ああ、理論上では間違っちゃいなかった…間違ってたのはオレ達だ…」

『…死んだ人間は…生き返らない…絶対に…』




「人体錬成はあきらめたけど、それでも兄さんとアンはボクの身体だけでも元に戻そうとしてくれる。ボクだって2人を元に戻してやりたい。でも、そのリスクが大きいのは、さっき話した通り…報いを受け、命を落とすかもしれない。ボク達が選んだのはそういう業の道だ」

チョークで練成陣を書き終え立ち上がる。

「だからロゼ、君はこっちに来ちゃいけない」



人は失って初めて気付く物があるという。彼等の場合母親のありがたみじゃあない。


人体錬成をして、身体を失って、左足を失って、寿命を失って、右腕を失って、色を失って初めて気付いた事。


それは人体錬成をしてはならない事。


人体錬成とは人間が立ち入ってはならない領域だと言う事。


死んだ人間は決して甦らないという事。














「ったく、ほんとしょーがねぇ奴」

『わるーございましたねぇ』

といいながら近くにあった布を錬成してアンの開いた傷口を止血する。

「ほら、終わった」

『…ありがとう』



バン!



「小僧どもォォーーーもう逃がさんぞ〜〜〜〜ぜはー、ぜはー、ぜー」

教会中を走り回って息を切らしたコーネロが、勢い良く扉を開けて入ってきた。

「もうあきらめたら?あんたの嘘も、どうせすぐ町中に広まるぜ?」

「ぬかせ!教会内は私の直属の部下だしバカ信者共の情報操作などわけもないわ!」

『やれやれ、あんたを信じてる人達もかわいそうだね』

「信者どもなぞ戦のための駒だ!ただの駒に同情など不要!!それになあ、神の為だと信じ幸福のうちに死ねるなら、奴らも本望だろうよ!」

自ら本性を晒していくコーネロにニヤニヤが止まらない。

「錬金術と奇跡の業の区別もつかん信者を量産して駒はいくらでも補給可能!これしきの事で我が野望を阻止できるとでも思ったか!!うわはははははははは」

「『くっ…(ぶ/あ)ははははは!!』」

耐えていたが耐えきれなくなり盛大に笑ってしまうが、彼等にとってそんなものは利益にも不利益にもならない。

「!?何がおかしい!!」

「だぁーーーーからあんたは三流だっつーんだよ、このハゲ!くっくっ」

「小僧!!まだ言うか!!」

「『(これ/それ)なーんだ♪』」

エドが見せるのはONのスイッチ。アンが指差すコーネロの足元にはマイク。それはアルの錬成していたスピーカーに繋がっている。

「まっ…」

コーネロは気付いた。

《まさか…貴様らあーーーーーーッ!!!!いつからだ!!そのスイッチいつから……》

《最初から♡》

《もー全部だだもれだよ♡》

《なっなっなっ…なんて事を〜〜〜〜っっ》

3人の会話はスピーカーやラジオを通して街中が聞いていた。化けの皮が剥がれたコーネロの本性を知らない物は、この街に誰もいないと言っても言いだろう。

「…このガキども…ぶち殺」

「遅ェよ!!」」

怒りに震えるコーネロが杖をガトリング銃に錬成し終わる前に、エドが機械鎧を刃物に錬成する。



バキン



やっと錬成し終えたガトリング銃がエドのそれに切断され床に転がる。

「言っただろ?格が違うってよ」

「私は…私はあきらめめんぞ………この石があるかぎり、何度でも奇跡の業で…」

追い詰められたコーネロは奥歯をぎりっと噛み締め、再びガトリング銃を錬成する。

「ちっ……」

刹那。




ばちいっ




「…っぎゃああああああ」

錬成途中のガトリング銃とコーネロの腕が融合してしまい激痛に絶叫する。

「う…腕っ…私の腕が!!」

『な……』

「なんで…いったい…」

「あああああああ痛ああああ」

その腕を抑え悲鳴を上げるコーネロを鬱陶しく思い、胸倉を掴み彼の額に頭突きをする。

「うっさい!!」

「ぶあ!!」

「ただのリバウンドだろうが!!腕の1本や2本でギャーギャーさわぐな!!」

「ひィィイイイ〜〜〜」

「石だ!賢者の石を見せろ!!」

「ひィ…いっ…石!?」

その途端、指輪にはめられた賢者の石が崩れ落ち、サラサラと塵の様に消えてなくなった。

「『壊れ…た…』」

「どういう事だ!「完全な物質」であるはずの賢者の石がなぜ壊れる!?」

「し、知らん、知らん!!私は何もきいていない!!あああぁたすけてくれお願いだ。私が悪かった〜〜」

目を疑うしかない。昔、本で見た【賢者の石は完全な物質である】という文章。なのに壊れたと言う事はつまり…

「偽物…?」

「石がないと、私は何もできんたすけてくれェェェ〜〜〜」

「ここまで来て…やっと戻れると思ったのに…偽物……」

助けを乞うが脱力したエドとアンの耳には届かない。聞く余裕すらない。エドはヨロヨロと立ち上がりコーネロに背を向け、座り込んだ。

「(くくく…スキあり!!こうなったらこの小僧だけでも、ぶち殺ス!!)」

ちゃーーんすと、変形した腕を構える。

「おい、おっさん、あんたよォ…」

「はいィ!?」

低く威圧感のある声にコーネロの動きは止まった。

両手を合わせ地面につく。

「街の人間だますわ、オレ達を殺そうとするわ」

「え…?」

教会が大きく揺れ始め、外にいたアルとロゼもその揺れに気付く。

「お?」

「しかも、さんが手間かけさせやがってそのあげくが「石は偽物でした」だぁ?」

「うわぁ!!」

建物から出来上がったのは自分が作り上げた偽物の神、レト神、その像だ。

「ざけんなよコラ!!」

顔に青筋を幾つも立て言葉を吐き捨てる。

「神の鉄槌くらっとけ!!」

まるで生きているかのように振り下ろされる鉄槌はコーネロのギリギリに落ちた。

彼は勿論の事ながら気絶した。











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