鋼の錬金術師

□第6話
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研究室には成功例とは言い難い様々な合成獣が檻の中に入っていたり、瓶漬けにされていた。

「うわぁ……」

「いやお恥ずかしい
巷では合成獣の権威なんて言われてるけど実際のところそんなに上手くはいってないんだ。こっちが資料室」

恥ずかしそうにそう言いながら案内されたのは広い部屋で、見渡す限りの本棚。
しかも本棚には収まりきらない書物が床に山のように積み重なっている。

思わず感嘆の声をあげてしまう。

「『おーーーーー!!』」

「すげ〜〜〜」

『図書館並みだね』

「自由に見ていい私は研究室の方にいるから」

「よーし俺はこっちの棚から」

「じゃあ僕はあっちの棚から」

『あたしはあの辺からにするね』

「私は仕事に戻る君達には夕方迎えの者をよこそう」

「はい」

だがロイに返事をしたのはアルだけで、エドとアンは既に本の世界。
集中して資料に書いてあることを知識として脳に入れていく。

「すごい集中力ですね
あの子達もう周りの声が聞こえていない」

「ああ……あの歳で国家錬金術師になるくらいですからね
ハンパ者じゃないですよ」

「いるんですよね天才ってやつは」

タッカーは穏やかな表情を無くして恐ろしいぐらいの無表情でそう言った。











ゴーンゴーンゴーン

午後5時を知らせる鐘が鳴り、エドは本から時計に視線を移す。


「あ、やべっ、読みふけちゃった
アル!アルフォンス!アン!アン!」

弟と幼馴染の名前を呼んでみるが返事が返ってくる気配がない。

「おかしいなどこいった……」

立ち上がろうとした途端真っ白な犬─アレキサンダーが飛び掛って来た。

「ぎにゃーーーーー!!」

「あ兄さん」

叫び声を聞いて本棚の横からニーナを肩車したアルがひょっこり顔を出した。

「「あ兄さん」じゃねーよ!!
資料も探さないで何やってんだ!!」

「いやあニーナが遊んでほしそうだったから」

「なごむなヨ
つーかアンは?」

「まだ資料読んでると思うよ
アンも呼んで来て皆で遊ぼうよ」

「じゃあ俺呼んでくる」

こういう場合1番に遊び出しそうなアンが見当たらずエドは立ち上がって探しに向かった。

ある本棚の角を曲がると荷物に背をあずけ、伸ばした細い足の上に開いた本を乗せたアンがいた。

「アンアルがニーナ達と外で遊ぼうって…………」

近付いて声を掛けるが全く反応しないアンの顔を覗いてみると、瞼を閉じて小さな寝息を立てていた。

「ったく……疲れてんなら言えよな」

溜息を吐きながら後頭部に手を当てた。
着ていた赤いコートを掛けようとアンの横にしゃがみ込むと、ゆっくりと瞼を開けた。

『……ん………………あっ……エド』

「お、起きた」

『んー寝ちゃったのか……』

ぐしぐしと眠たい目を擦るアン。
まだまだ眠たいのか、今にも瞼は閉じてしまいそうで隣にしゃがむエドに頭を寄せる。

「なっ///」

『眠い……』

初心なエドにとって突然の不意打ちは咄嗟に逃げ出したくなが、その気持ちを抑え本題に切り替える。

「そ、そうだ!アルとニーナが………………ぶっ!!」

「アレキサンダーもお兄ちゃんに遊んでほしいって」

アレキサンダーにエドの顔は舐め回されて唾液でベドベド。
怒りの表情で唾液をハンカチで拭う。

「ふっ……この俺に遊んでほしいとはいい度胸だ……
獅子はウサギを狩るのも全力を尽くすと言う……
このエドワード・エルリックが全身全霊で相手してくれるわ犬畜生めッッ!!!」

大声で叫びながらアレキサンダーを追いかけてドタドタ走っていった。

──子供だ……──

「あはははははは」

1人と1匹の様子を見て心で呟くアルと、その上で楽しそうに笑うニーナ。

ふと視線をしたに向ければうつ伏せに倒れたアンがいた。

「……何してるの?こんなところで」

『犬に……アレキサンダーに……潰された……』

「……大丈夫?」

『大丈夫だよ』

つまりアレキサンダーはエドに頭を寄せていたアンを踏み潰し、彼を舐め回したのだ。

「お兄ちゃん!今度はお姉ちゃんも一緒に遊ぶ」

「アンいい?」

『もちろんよ!何して遊ぶ?』

起き上がったアンはニーナを見てふにゃっと笑った。

アルから降りたニーナはアンの胡座の上に座り、彼女を見上げる。

「じゃあはお歌うたって!!」

『歌〜?あたし上手くないよ?』

「そういえば一緒にいるけど僕も聞いたことないなアンの歌」

『だって人前で歌ったことないもん』

「じゃあニーナとお兄ちゃんが初めてのお客さんだね」

『……うん、いいよ
ニーナとアルがあたしの初めてのお客さんね』

ワクワクした可愛らしい笑顔を見せられては断るに断りきれず、歌う事になってしまった。

「やったぁ〜〜!!」

『じゃあいくね』

そう言ってすうっと息を吸い込んだ。


──let it all out

let it all out

強がらなくていいんだね

誰かが描いてった壁の落書きの花が揺れる

自分らしさなんて誰もわからないよ

長い長い道の途中でなくしたり拾ったり

急に寂しくなって泣いちゃう日もあるけど

涙も痛みも星に変えよう

明日を照らす灯りをともそう

小さく迷ってもふたりでつくろう星屑を

強くひかる永遠を探そ──

(福原美穂 Let it out)




『おしまい!』

「わぁ!お姉ちゃんお歌とっても上手!!」

「アンすごいよ!!僕感動しちゃった!」

『ははは歌ったの久し振り』

誉められて器用に喜べなくて、照れ隠しにアンがニーナの頭を優しくわしゃわしゃと撫でてやるとニーナは気持ち良さそうに笑って彼女に抱きついた。

「お姉ちゃん大好き〜」

『あたしもニーナ大好きだよ』

「こうして見てると姉妹みたいだね」

『ニーナみたいな妹ほしかったなぁ』

「じゃあニーナがお姉ちゃんの妹になってあげる!!」

『本当??』

「うん!」

『やったぁ〜〜!!ニーナ大好きっ!!』

アンは嬉しさと可愛さのあまりニーナをギュッと抱き締めた。
ニーナもそれに答えるようにアンをギュッと抱き締める。

──アンも子供だなぁ……──

国家錬金術師であっても中佐であってもアンは自分と殆ど年の変わらない幼馴染みなのだ。
兄のエドと同じで大人ぶっていてもまだまだ子供なのだ。

『ねぇ次はさ!
エドとアレキサンダーも入れて皆で鬼ごっこしようよ!』

「やりたぁい!」

『んじゃあ鬼はアルね!』

ビシッとアルを指差すとニーナの手を引いて逃げ出す。

「えっ!?ちょっと待ってよ!!」

慌ててアルも2人の事を追い掛け始めた。

『待つもんですかー♪』

「あははははは」

手を繋いで走るアンとニーナは本当に姉妹のようだ。











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