鋼の錬金術師

□第7話
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グラトニーが骨を砕き、肉を食い契るえげつない音をBGMに3人は話を進めていた。

「はぁ……あなたたちといると私は化け物呼ばわれよ」

「じゃあ抜ける?」

「遠慮しとくわ
化物呼ばわれだけど居心地はとってもいいから」

「これも冗談じゃないの?」

「生憎冗談じゃないわ」

上品に笑うアリサと妖美に口端を上げて笑うラストに呆れたような顔をして話題を変える。

「そういえばさぁ
イーストシティのショウ・タッカーが殺されたって」

「タッカー……ああ錣命の錬金術師
いいんじゃないのべつにあんな雑魚錬金術師」

「タッカーの事はいいんだせどさ
また例の"奴"なんだよね」

"奴"に表情を険しくしたラストとアリサ。

「イーストシティって言ったら焔の大佐がいたかしら」

「そ、ついでに鋼のおチビさんと雪のおチビさんも滞在中らしいよ」

「鋼の雪の……私達の仕事の邪魔してくれたのは腹が立つけど、死なせるわけにはいかないわね」

「大事な人柱だし」

そこで丁度コーネロの部下を食べ終わったグラトニーが声を上げた。

「ラスト〜〜〜〜〜ごちそうさまでした〜〜〜」

「ちゃんと口のまわりふきなさいグラトニー」

グラトニーが言われた通りに口のまわりの血の汚れをごしごし拭く。

「どこの誰だか知らないけど予定外のことされちゃ困るのよね
わかったわこの街もあらかたケリがついたしそっちは私達が見ておきましょう」

「なら今度は私、ラストについていくわ」

「わかったわ……
────で何て言ったっけ例の"奴"」










「「傷の男(スカー)」?」

「ああ、素性はわからんから俺達はそう呼んでる」

「素性どころか武器(エモノ)も目的も不明にして侵出鬼没」

アームストロングが額を指差す。

「ただ額に大きな傷があるらしいということくらいしか情報が無いのです」

「今年に入ってから国家錬金術師ばかり中央で5人国内だと10人はやられてるな」

「ああ東部(コッチ)にもその噂は流れてきている」

「ここだけの話つい5日前にグランのじじいもやられてるんだ」

「「鉄血の錬金術師」グラン准将がか!?軍隊格闘の達人だぞ!?」

腕を組んだまま驚愕の声をあげる。

「信じられんかもしれんがそれ位ヤバイ奴がこの街をうろついてるってことだ

悪い事は言わん護衛を増やして暫く大人しくしてくれ
これは親友としての頼みでもある」

国家錬金術師とは人間兵器として戦線に立つこともある程の腕利き。
事実その資格を持つ猛者達が次々と殺られて来ている。

そして今、その犯人がこの街に潜んでいる可能性がある。

「ま、ここらで有名と言ったらタッカーとあとはお前さんだけだろ?
タッカーがあんなになった以上お前さんが気をつけてさえいれば……」

顎にてを当てるロイの脳裏を過ぎるのは「鋼」を背負う少年と「雪」を背負う少女と鎧の少年。

彼等が狙われないと断言など出来ない。

「まずいな……」

「?おい!」

「エルリック兄弟とアン・ケリーがまだ宿にいるか確認しろ至急だ!」

疑問符を浮かべるヒューズを無視して、憲兵に指示する。
丁度そこへやって来たリザがロイの指示を耳にして声を掛ける。

「あ大佐
私が司令部を出るときに会いました
そのまま大通りの方へ歩いていったのまでは見ています」

「こんな時に……!!
車を出せ!手のあいているものは全員大通り方面だ!!」

ロイの怒鳴るような指示を受け、大通りへと急いで向かう。












時刻は9:00前。
雨が振り続ける中、エドとアルとアンの3人は時計台の下に座り込んでいた。

「兄さん、アン」

「ん?ああ……なんだかもういっぱいいっぱいでさ
何から考えていいかわかんねーや

……昨日の夜から俺達の信じる錬金術ってなんだろう……ってずっと考えてた」

「……「錬金術とは物質の内に存在する法則と流れを知り分解し再構築する事」」

「「この世界も法則にしたがって流れ循環している人が死ぬのもその流れのうち。流れを受け入れろ」師匠にくどいくらい言われたっけな
わかってるつもりだった、でもわかってなかったからあの時…………母さんを……そして今もどうにもならない事をどうにかならないかと考えている」

脳裏に浮かぶニーナの笑顔と元気いっぱいのアレキサンダー。

知っている。どれだけ手を伸ばしてもその笑顔には手が届かない事ぐらい。

だからこそ辛いのだ。苦しいのだ。

「俺はバカだあのときから少しも成長しちゃいない

外にでれば雨と一緒に心の中のもやもやしたものも少しは流れるかなと思ったけど
顔にあたる一粒すらも今はうっとうしいや」

空を見上げて溜息を吐いた。
雨は心にまとわりついた泥を洗い流してはくれない。

「でも……肉体がない僕には雨が肌を打つ感覚もない
それはやっぱり寂しいし辛い
兄さん僕はやっぱり元の身体に……人間に戻りたい」

雨を感じるかのように伸ばした手はそれを感じる事は出来ずに、握り締める。

「たとえそれが世の流れに逆らうどうにもならないことだとしても」

初心に帰ったかのように決意し、兄弟も前へと進もうとしている。

『ねぇ』

「あ!いたいたエドワードさん!アンさん!エドワード・エルリックさん!!アン・ケリーさん!!」

座り込む彼等を見つけて駆け寄る憲兵の横をすれ違う男が足を止めた。

「……ケリー……?……エルリック……?」

「ああ無事でよかった!捜しましたよ!」

「アン…………ケリー……エドワード…………エルリック……」

「何?俺に用事?」

「至急本部に戻るようにとの事です」

いつの間にか男はエドとアンの目の前の憲兵の背後に立っていた。

「実は連続殺人犯がこの……」

「アン・ケリー……雪の錬金術師!!エドワード・エルリック鋼の錬金術師!!」

男と目が合った瞬間。男の殺気が全身を駆け巡り、ありえないぐらいの恐怖で顔が真っ青になる。

「額に傷の……」

「よせ!!」

憲兵が腰に携えた銃に手を掛ける。
一瞬で駄目だと悟ったエドは叫び、アンは手を伸ばす。



ごぱ



憲兵の顔を右手で掴むと内側から血が溢れ出し、地面に倒れた。

返り血がエドの頬に飛び散る。

男は指の関節をゴキンと鳴らした。

……なんなんだこいつは

「何だ」

「うわぁ」

通行人は悲鳴を上げて後ずさる。

一瞬の内に武器を持った憲兵が殺られ、男の狙いは完全にエドとアン。
逃げたくても体は金縛りにでもあったかのように動いてはくれない。

やばい!やばい!!やばい!!!
身体の芯が「逃げろ」って悲鳴あげてんのに足が動かねぇ……!!ダメだ………………死ぬ<


その時、時刻が丁度9:00になり、時計の鐘が鳴り響く。
その音ではっと体の呪縛のようなものが解けた。

「…………っアル!!アン!!逃げろ!!」

「……逃がさん」

一目散に逃げ出した3人を男は追いかけた。









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