鋼の錬金術師

□第8話
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「国家に仇なす不届きものよ」

アンもエドもハボックも苦い顔をする。

「この場の全員滅ぼす……と言ったな」

アルは鎧なので表情はわからないが、きっと彼等と同じ様な表情をしている事だろう。

「笑止!!ならばまず!!」

ロイは未だに「無能」と言う言葉にショックを受け、両手両膝を着いて落ち込む。

「この我輩を倒してみせよ!!」

リザは眉間に皺を寄せ、顰めっ面をする。

「この「豪腕の錬金術師」……アレックス・ルイ・アームストロングをな!!」

崩れ落ちる壁を背後に、アームストロングは手甲に刻まれた錬成陣を見せるように掲げた。

「……今日はまったく次から次へと…………こちらから出向く手間が省けるというものだこれも神の加護か!」

サングラスの奥の瞳が鋭くアームストロングを睨みつけた。

するとアームストロングは瓦礫を頭上高くへ投げ、ぐりんぐりんと右肩を回す。

「ふっふ………やはり引かぬか
ならばその勇気に敬意を表してみせてやろう!
わがアームストロング家に代々伝わりし芸術的錬金法を!!」

落ちてきた瓦礫を手甲で殴れば、それは槍へと錬成される。

首を傾け、槍を躱す。
それは男の後ろの壁に勢いよく突き刺さった。

「もう一発!!」

今度は地面を殴り付けて錬成し、男まで辿り着いた所で尖った棘のようなものが襲う。

「この……」

右手で払う様にその棘を破壊する。

「少佐!あんまり市街を破壊せんでください!!」

叫ぶハボックの横でエドとアンは明らかに嫌そうな顔をしていた。

「何を言う!!
破壊の裏に創造あり!創造の裏に破壊あり!破壊と創造は表裏一体!!
壊して創る!!これすなわち大宇宙の法則なり!!」

そう言ったと同時に何故か軍服を脱ぎ捨て、自慢の筋肉を魅せつける。
そんなアームストロングには、スポットライトの光が当たっているようにも見えた。
これには寡黙な男も唖然とした。

「なぜ脱ぐ」

「て言うかなんて無茶な錬金術…………」

ハボックとリザの辛辣な言葉を気に止めずに、笑みを浮かべる。

「なぁに……同じ錬金術師なら無茶とは思わんさ
そうだろう?傷の男(スカー)よ」

「錬金術師……奴も錬金術師だと言うのか!?」

やっと立ち直ったロイが驚きの声を上げる。

「やっぱりそうか
錬金術の錬成課程は大きく分けて「理解」「分解」「再構築」の3つ」

「なるほどつまり奴は2番目の「分解」の課程で錬成を止めているということか」

「自分も錬金術師って……じゃあ奴の言う神の道に自ら背いているじゃないですか!」

「ああ……しかも狙うのは決まって国家資格を持つものというのはいったい……」

首を捻るロイ達だが、男─スカーの目的を知っているアンはギュッと唇を噛み締めた。

その頃スカーはアームストロングの錬金術や体術を躱しながら、後ろへ下がっていっていた。
そんな状況でも冷静にアームストロングの戦い方を分析していた。

──ふむ……大柄な身体に似合わぬ軽いフットワークと…………常人離れの破壊力
更に錬金術とのコンビネーション
たしかにやっかいではあるが──


いつの間にか壁際まで追い詰められていた。

「追い詰めたり!!」

アームストロングが拳を大きく振りかぶる。

──………ここぞというところで大振りになる──

ごきんと関節を鳴らす。

──ここだ!!──

がら空きの腹に右手を伸ばすが、前進していたアームストロングの足は止まり、そして軽やかに後ろへと下がった。

──ここまで追いつめておきながら間合いをあけるだと!?──

アームストロングはニヤリと笑った。

罠に気がついた時には既に遅く、ライフル銃を構えたリザが弾を撃つ。




ドン




ドンドンドンドン




5発目でスカーのサングラスが落ちた。

「やったか!?」

「速いですね。一発かすっただけです」

スカーは足で踏ん張った為、倒れずに済んだが、こめかみからは血が流れる。

ぎっとこちらを睨む瞳に全員が目を見開いた。
サングラスというモノが壊れ、隠されていた瞳の色は赤。

褐色の肌に赤い瞳それはある民族の事を示している。

「褐色の肌に赤目の……!!」

「イシュヴァールの民か…………!!」

緊張感が漂う中、誰も口を開こうとはしない。
そんな沈黙を破ったのはスカー。

「……やはりこの人数を相手では分が悪い」

「おっと!この包囲から逃れられると思っているのかね」

逃げるのを悟ったロイが片手を挙げると、憲兵達が銃を構える。

スカーは右手を大きくあげ、地面へ当てる。
すると彼を中心に円のような亀裂が入り、地面は一瞬にして憲兵達を巻き込みながら崩れ落ちた。

すぐさま穴に駆け寄り、中を見下ろすがスカーの姿は無く、瓦礫が散乱していた。

「あ……野郎、地下水道に!!」

「追うなよ」

「追いませんよあんな危ない奴」

「すまんな包囲するだけの時間をかせいでもらったというのに」

「いえいえ
時間かせぎどころかこっちが殺られぬようにするのが精一杯で……」

溜息混じりに話していると、路地からひょっこり安全を確認したヒューズが顔を出した。

「お?終わったか?」

「ヒューズ中佐……今までどこに」

「物陰に隠れてた!」

アームストロングの質問に親指をグッと立てた。

「お前なぁ援護とかしろ!」

「うるせぇ!!俺みたいな一般人をお前等デタラメ人間の万国ビックリショーに巻き込むんじゃねぇ!!」

「デタ……」

「オラ!戦いが終わったら終わったでやること沢山あるだろ!
市内緊急配備人相書き回せよ!」

ロイが青筋を立てる横でその場の憲兵に指示を出すと、憲兵達は慌てて指示通りに動く。














「アルフォンス!!」

エドの声が響いた。

「アル!大丈夫かおい!!」

壁に背をあずけて俯くアルは右の脇腹と足が破壊されていた。
もし、彼が生身ならば死は免れないであろう傷。
そんな弟に兄と幼馴染が駆け寄った。

「……この……バカ兄!!」

大きな声で叫びながら思いっきりエドの頬を殴る。
殴られた彼は頬を抑えながら唖然とする。

「なんで僕が逃げろって行った時に逃げなかったんだよ!!」

エドの額にアルの角が突き刺さるまで顔を近づけ、怒号を飛ばす。

「だからアルを置いて逃げる訳には……」

『それが馬鹿だって言うんだよ!!』

今度はアンがエドを懇親の力を込めて殴り飛ばした。

「そういうアンも同じだ!!」

『へ?』

「「へ」じゃない!そりゃあアンは僕達より強いよ!でも、君は怪我人なんだ!無茶するなって言っただろ!!」

『……』

黙り込むアンの横で起き上がったエドが反論する。

「なんでだよ!俺だけ逃げたらお前等殺されたかもしれないじゃんか!!」

「殺されなかったかもしれないだろ!!」

「……でもなんでか知らねぇけどアンは確実だったじゃねぇか!!」

『だったらあたしを土台にしてでも生きようとしてよ!!』

「そんなのもダメだ!!生きのびる可能性があるのにあえて死ぬ方を選ぶなんて馬鹿のすることだ!!」

「あ……兄貴に向かってあんまりバカバカ言うなーーーーっ!!」

憲兵やロイ達の目線がこちらに向いているのにも関わらず、言い合いを続ける3人。












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