鋼の錬金術師

□第9話
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時は太陽が山に沈む少し前。
オレンジ色に染まった空の下を、煙を吹きながら汽車は走っていた。

「我輩は機械鎧の整備師とやらを見るのは初めてだ」

「正確には外科医で義肢装具師で機械鎧調整師かな。昔からのなじみで安くしてくれるしいい仕事するよ」

「その整備師のいるリゼンブールとはどんなところだ?」

「すっげー田舎なんも無いよ」

エドは窓際に肘を付いて外の景色を眺めた。

「つーか東部の内乱のせいで何にもなくなっちゃったんだけどね
軍がもっとしっかりしてりゃにぎやかな町になってただろうなぁ」

『悪ぅございましたねぇ〜!』

「……耳が痛いな」

「そりゃいいもっと言ってやろうか」

アンは嫌味ったらしくべっーと舌を出し、アームストロングは居心地が悪そうに言った。

「…………本当静かな所でさ、何もないけど都会には無いものがいっぱいある
それが俺達兄弟とアンの故郷リゼンブール」

そこで、エドは恨みがましい視線でアームストロングを見上げた。

「ところでアルはちゃんと汽車に乗せてくれたんだろうな」

「ふっふーーーぬかりは無いぞ」








同じ頃アルは 家畜車両に入れられていた。

「…………」

「め〜〜〜〜」

「めへ〜〜〜」

「めめ〜〜〜」

沢山の羊に囲まれて。










「一人じゃさびしかろうと思ってな!」

「てめぇ俺の弟を何だとおもってんだ!!」

『アルぅううう〜〜〜!?』

エドは顔中に青筋を立てて怒鳴り散らす。

「むうッなにが不満なのだ!広くて安くてにぎやかでいたれりつくせりではないか!」

「ふざけんなーーーーっ!!!」

車内に響く言い争いを怪訝な顔をして眺める乗客。
そしてラストとアンの探しているアリサも同じ車両に乗っていた。








イーストシティからリゼンブールまでの道のりは長い。

途中の駅に停車中、エドは眠たそうに欠伸をし、アンはそんな彼にもたれて眠っており、アームストロングは本を読んでいる。

ふと窓の外を見ると1人の男が駅のホームを歩いていた。
途端にアームストロングが窓から身を乗り出す。

「うわ!?」

『ん……?』

驚くエドと目を覚ましたアンに構うこと無く声を張る。

「ドクター・マルコー!!ドクター・マルコーではありませんか!?」

男は不思議そうに振り向いた。

「中央のアレックス・ルイ・アームストロングであります!」

次第に白髪混じりの男性─マルコーの表情が青くなっていく。
そして彼は逃げる様に走り去った。

「あ……」

その後ろ姿を眺めながらエドは訊ねた。

「知り合いかよ」

「うむ……
中央の錬金術師機関にいたかなりやり手の錬金術師だ
錬金術を医療に応用する研究に携わっていたが、あの内乱のあと行方不明になっていた」

マルコーの説明を聞いたエドはすぐに座席を立つ。

「降りよう!」

「む?降りるのはリゼンブールという町ではなかったのか?」

「そういう研究をしてた人なら、生体錬成についてしってるかもしれない!
アン!起きろ!行くぞ!!」

『……んん〜?』

起きているのか寝ているのかわからないアンの手を引き、汽車を降りる。

「アルと荷物降ろさないと!早く!すいませーーん降ります!」

家畜車両から降ろされたアルには羊のニオイが染み付いている。

「うわ!アル羊くさっ!!」

「好きで臭くなったんじゃないやい!!」

家畜車両の前の車両でラストとアリサが扉に背中を預けて立っていた。

「ドクター・マルコー。ふぅん……」

「懐かしいわね」

「まさかこんな所にいるとは思わなかったけど……」







駅を出て、歩いていた町の人に声を掛ける。

「あの、さっきここを通った………えーーーと………」

実際ハッキリと顔を見たわけでは無し、名前を覚えているわけでもなく、困惑していると、アームストロングが手帳にマルコーの似顔絵を描いて見せる。

「こういうご老人がとおりませんでしたかな?」

「……少佐絵上手いね」

「わがアームストロング家に代々伝わる似顔絵術である!」

『凄い!そっくりだよ!』

「ああマウロ先生!」

「知ってる知ってる」

「マウロ?」

アームストロングは疑問符を浮かべると、町の人達は笑顔で答えてくれる。

「この町は見ての通りみんなビンボーでさ
医者にかかる金もないけど先生はそれでもいいって言ってくれるんだ」

「いい人だよ!」

「ああ。絶対助からないと思った患者も見捨てないで看てくれるよな」

「おお俺が耕運機に足を巻き込まれて死にそうになったときもきれいに治してくれたさぁ!!」

実際に治療してもらった男は患部であった膝を叩きながら豪快に笑う。

「治療中にこう……ぱっと光ったと思うともう治っちゃうのよ」

「そうそう」

聞き込みによって得た情報。
マルコーはマウロという偽名を使って暮らしている事。

「光……」

「うむおそらく錬金術だ」

光る治療をする事。
そして彼の住む家。
今4人はそんなマルコーの住む家へと向かっている。

「そうか偽名を使ってこんな田舎に隠れすんでたのか」

『でも、なんで逃げたんだろ……?』

「ドクターが行方不明になったときに極秘重要資料も消えたそうだ。ドクターが持ち逃げしたともっぱらのうわさだった………我々を機関の回し者と思ったのかもしれん」

階段を登り、エドがそっと扉を開ける。

「こんにち………わ」

出てきたのはマルコーではあるが、向けられたのは銃口。
気づいた時には発泡されてしまっていた。

「うお!!」

『ぎゃぁ!!』

慌てて避けるとエドの後ろにいたアンも咄嗟に避ける。

「何しに来た!!」

「落ち着いてくださいドクター」

「私を連れ戻しに来たのか!?」

アームストロングが説得する横で2人は胸に手を当てて落ち着こうとしている。

「もうあそこには戻りたくない!お願いだ勘弁してくれ…………!」

「違います話を聞いてください」

「じゃあ口封じに殺しに来たか!?」

興奮状態のマルコーと冷静なアームストロングを交互に見るエドとアン。

「まずはその銃をおろし……」

「だまされんぞ!!」

遂に堪忍袋の緒が切れたアームストロングは、抱えていたアルを木箱ごとマルコーに投げつけ、強制的に黙らせる。

「落ち着いてくださいと行っておるのです」

「『アル!』」










「私は耐えられなかった……………」

落ち着きを取り戻したマルコーの家になんとか入れてもらえた4人。
彼はイシュヴァール後、行方不明になった理由を話し始めた。

「上からの命令とはいえあんな物の研究に手を染め……そしてそれが東部内乱での大量殺戮の道具に使われたのだ……
本当にひどい戦いだった……無関係な人が死にすぎた……
私のした事はこの命をもってしても、つぐないきれるものではない
それでも出来る限りのことをと……ここで医者をしているのだ」

脳裏を蘇る、壮絶で残酷な戦い。大地をも真っ赤に染める赤色。
忘れられるはずが無いあの光景が頭の中をグルグルと駆け巡る。

「いったい貴方はなにを研究し何を盗み出してにげたのですか?」

マルコーは目頭を抑えて黙ってしまった。












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