鋼の錬金術師

□第12話
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その時廊下からドカドカとこちらに近付いて来る足音と声が聞こえて来た。

「ちょっ……お待ちください!!」

「3人とも休んでいるところですので…………」

「「『!?』」」

軋んで震えるドア。ノックをしているつもりなのだろうが、もうノックどころではなく、まるで攻撃されているかのよう。

「エルリック兄弟!!アン#・#NAME2##!!居るのであろう!?我輩だ!!ここを開けんか!!」

アームストロングの声に3人の表情が引き攣る。

「う・わーーーーー」

「どうしよう?」

『ムシムシ!!』

「そうだ。シカトだシカト!!鍵かかってるし居留守きめこむぞ!!」

「むん!!」


がきょ

ぼりん


何の音か。聞くまでもないだろう。
鍵をかけたドアノブを破壊した音だ。

「聞いたぞ、エドワード・エルリック!!アン・ケリー!!」

右手に壊れたドアノブを持ったアームストロングが強制的に入ってきた。

「…………」

背後では止めきれなかったブロッシュが涙を流している。

これには3人共表情を歪ませ、飛び上がった。

そんな彼等の横で、涙を流しながら拳を握るアームストロング。

「なんたる悲劇!!賢者の石にそのような恐るべき秘密が隠されていようとは!!」

ロスとブロッシュは冷や汗を流しながら、申し訳無さそうに立っている。

「しかもその地獄の研究が、軍の下の機関で行われていたとするならば、なんと由々しき事態である!!我輩だまって見過ごす訳にはいかん!!」

この事実を知っているのは、兄弟、幼馴染と護衛の2人だけの筈。

「……………………」

青筋を立て、犯人であろう2人を無言で睨み付ける。

「ごごごごめんなさい……」

「あんな暑苦しい人に詰め寄られたら喋らざるをえなくて……」

以前もロイがアームストロングに詰め寄られ、3人の過去を喋ってしまった事がある。
それ程なのだ。アームストロングの暑苦しさは。

ブロッシュがふと、剥き出しの機械鎧を見て疑問符を浮かべた。

「……あれ?右手義手だったんですか」

「ああ……えーと東部の内乱の時にちょっとね………」

「そそそれでもとの身体に戻るのに、賢者の石が必用でして」

『ほら、賢者の石ってすごいじゃん!』

慌てて誤魔化す3人。

「そうですか……それがあんなことになってしまって残念ですね」

「真実は時として残酷なものよ」

受け入れ難い真実など、この世に数え切れない程あるし、いつかは自分に訪れる。

それはそうと、「真実」という言葉が何かにひっかかった。

「『真実……?』」

「どうしたの。兄さん、アン」

いきなりポツリと呟く2人にアルは疑問符を浮かべた。

『エド』

「ああ」

エドとアンが顔を見合わせて頷くが、残りの4人は訳が分からない。

「マルコーさんの言葉おぼえてるか?」

「え?」

「ほら、駅で言ってただろ」

『「真実の奥の更なる真実」…………』

「そうか……まだ何かあるんだ……何か…………」

エドは顎に手を添えて呟いた。











アームストロングに用意してもらった地図を机に広げ、それを全員で囲む。

「軍の下にある錬金術研究所は、中央市内に現在4ヶ所」

『そのうちドクター・マルコーが所属していたのは第三研究所』

「ここが一番あやしいな」

「うーん……市内の研究所は、俺が国家資格とってすぐに全部回ってみたけど、ここはそんなにたいした研究はしてなかったような………」

そして、何かに気付いたアンが地図上を指差す。

『これ……この建物、何?』

「以前は第五研究所と呼ばれていた建物ですが、現在は使用されていないただの廃屋です。崩壊の危険性があるので立入禁止になっていたはずですが」

ロスは資料を見ながら説明した。

「これだ」

「え?なんの確証があって?」

『となりに刑務所がある』

ブロッシュの質問に、地図上を指差しながら答えた。

「えっと…………」

「賢者の石を作るために、生きた人間が材料として必用って事は材料調達の場がいるって事だ
たしか死刑囚ってのは、処刑後も遺族に遺体は返されないだろ?表向きは刑務所内の絞首台で死んだ事にしておいて、生きたままこっそり研究所に移動させる。そこで賢者の石の実験に使われる……そうすると刑務所に一番近い施設が、あやしいって考えられないか?」

「……囚人が材料……」

するとロスが顔を真っ青にした。

「嫌な顔しないでくれよ。説明してるこっちも嫌なんだからさ」

「刑務所がらみって事はやはり政府も一枚かんでるって事ですかね」

ブロッシュは顎に手を添えて言っ
た。

『一枚かんでるのが、刑務所の所長レベルか政府レベルかはわからないけどね』

「………なんだか、とんでもない事に首を突っ込んでしまった気がするんですが」

やっと、とんでもない話をしている事に気が付いた、ロスとブロッシュが揃って青い顔をする。

「だから聞かなかった事にしろって言ったでしょう」

「うむ。しかし現時点では、あくまでも推測で語っているにすぎん。国は関係なくこの研究機関が、単独でやっていた事かもしれんしな」

「うん」

「この研究機関の責任者は?」

「名目上は"鉄血の錬金術師"バスク・グラン准将という事になっていたぞ」

『そのグラン准将にカマかけてみるとか……』

「無駄だ。前日スカーに殺害されている」

提案はスッパリと切り落とされてしまった。
その上、スカー絡み。アンは悔しそうに拳を握った。

「スカーには軍上層部に所属する、国家錬金術師を何人か殺された。その殺された中に、真実を知るものがいたかもしれん。しかし本当にこの研究にグラン准将以上の軍上層部が、関わっているとなるとややこしい事になるのは必至。そちらは我輩が探りを入れて後で報告しよう」

そう言うとクルリと地図を丸め、脇に抱える。

「それまで少尉と軍曹はこの事は他言無用!エルリック兄弟とアン・ケリーは大人しくしているのだぞ!!」

「「『ええ!?』」」

3人は今夜、第五研究所に忍び込もうと思っていた為に、思わず声を上げる。

「むう!!さてはお前達!!この建物に忍び込んで中を調べようとか思っておったな!?」

少しの沈黙。アームストロングは地図を広げ、第五研究所を指差す。

勿論図星で、3人は体を強ばらせる。

「ならんぞ!!
元の身体に戻る方法がそこにあるかもしれんとは言え、子供がそのような危険なことをしてはならん!!」

鼻息を荒くしながら言うアームストロングが鬼のように見え、エドは手をブンブンと振りながら訴える。

「わかったわかった!!そんな危ない事しないよ」

「僕達少佐の報告を大人しく待ちます」

アルも首を振って頷くが、アンは違った。

『あたしは行く!!』

「ダメだ!!」

『行く!!』

真剣で鋭い瞳。こうなるとアンは決して折れない。
エドやアルは勿論、アームストロングも知っていた。

「大人しくしておれっ!!」

『…………かは……っ!?』

鳩尾に鉄拳が入り、足下から崩れ落ちるアンをエドが抱き止める。

「おいっ!!何すんだ!!?」

「少々手荒だが彼女を止めるためだ。ちゃんと見張っておくように」

「「はっ!!」」

ロスとブロッシュは敬礼をして、出ていくアームストロングを見送った。












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