鋼の錬金術師

□第13話
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「やられた!!」

ロスの声が3人の部屋に響いた。
開いた窓。窓際に置かれたベッドの柵から外に伸びるロープ。勿論部屋はもぬけの殻。

「やけに静かだと思ったら…………」

「ああ〜〜〜。職務怠慢でアームストロング少佐に、しぼり上げられるぅ〜〜〜」

「……あのガキども〜〜〜っ!!護衛(コッチ)の身にもなれって言うのよ!!」

頭を抱え涙を流しブロッシュ。ロープを片手に沢山の青筋を立てるロス。

そして、コートを羽織りながら外へ走り出した。

「行くわよ!」

「え……どこへ!?」

部屋から半身を出すブロッシュは疑問符を浮かべた。

「決まってるでしょう!元第五研究所よ!!」











「ぅおらァあッ!!」

同じ頃エドとスライサーが刃と剣を交えていた。

激しく衝突し合う度に火花が散る。

そんな時、右肩の機械鎧の付け根あたりからピシッと音が聞こえた。

──何だ…?肩に違和感が……──

感じた違和感に、ウィンリィの言葉がよみがえる。


「今回の機械鎧は、錆びにくくしたかわりに強度が下がったからあんまり無茶は………」


「はっ!!そーいえば!!」

青ざめている間にも頭上を剣が通り抜ける。

「っとぉ!!」

──こりゃ早く、ケリつけないとヤバいな!──

刀を突き刺そうとまっすぐに右腕を伸ばす。

スライサーは屈んで躱し、剣の柄を持ち変える。
反るようにして避けるが、前髪を掠める。

スライサーはエドの左手を使ったバク転の途中で、左肩を斬り付ける。

「つ……」

柱に追いやられたエドの頭上で剣が振られる。
屈んで躱すと、柱に一直線に傷が入る。

素早い斬撃をしゃがみ込んで避け、串刺しにするような攻撃は回転して回避する。

「ぶはぁっ」

「……まるでサルだな」

「んだとコラ!!」

「はっはっは。久しぶりに、手応えのある元気な獲物で嬉しいぞ」

そして床に刺さった剣を抜く。

「だが、その傷と疲労では勝負は見えている。表にいるお前の仲間は、今頃私の連れが始末しているはずだ。助けに来ることはできんだろう」

「…………よう。その連れって強いのか?」

エドは乱れたままの呼吸で言う。

「強いぞ。私よりは弱いがな」

「あっはっは!!だったら、心配いらねーや」

突然笑い出したエドは

「よっこら」

と、立ち上がる。

「俺昔っからあいつと喧嘩して、勝ったことないんだ」

不敵に笑いながら、こめかみから流れる血を拭った。












丁度アンはあの女性と戦っていた。
咄嗟に1歩退がれば、一瞬前まで自分のいた場所に剣が振られた。
切っ先が僅かにアンの服を掠めた。

『……あんた誰だよ!?』

「私の望みを叶えてくれる組織の一員と言うのかしらね」

『望み?』

「知りたい?」

『別に』

錬成した氷の刃振り下ろすが、目の前にいたはずの女が消えていた。

『!?迅い……』

「あら?あんた、それで本当に軍人?」

『舐めないで!!』

後ろから聞こえた声。左足を軸に回し蹴りを女性の腹に入れる。

「舐めないで欲しいのは、こっちのセリフよ」

アンの右足を素手でガッチリと掴み、彼女の足にまかれた包帯を眺めて口端を上げる。

「たいそうな怪我ね。あなたの腕みたいに、ナイフでも刺したら動けなくなるかしら?」

怪しく笑う女性から足の自由を取り戻す。

アンの顎を狙った蹴りを仰け反って躱す。

2人の刃が衝突する。
押し負けたアンが弾かれるが、回転して受身を取った。

「ふふふ。ねぇ、わからない?」

『何がよ』

アンの質問には答えず、ニヤリと笑った。















アルの鉄拳が66の頬を強く殴り、彼は吹き飛ばされる。

「でえぇぇぇ!!にゃろォ〜〜〜〜〜〜〜!!」

起き上がった66は、素早く巨大な包丁を構える。

「ちっとは……大人しく、斬られ、やがれってんだ……」

武器を振るが、叩かれ、更に流される。

「このデカブツ!!痛くしねェからよ!!」

「んなこと言われても………」

腕で攻撃を受けながら、退がっていると足元の瓦礫につまづき、バランスを崩す。

「あ!?」

「ラッキ!!」

声を弾ませ66が、もう片方の包丁でアルの腕の関節を突き刺す。

「肩ロースいただき!!ムヒョーー」

そして、巨大な包丁を振りかぶるが、アルは腕を曲げ、刺さった包丁を折る。

「うェ!?」

66の顎を押した瞬間、彼の鎧の身体は倒れ、鎧の頭は外れた。

「!?」

そしてゆっくりと身を起こした66に、構えの体勢をとったまま固まった。

「野郎……頭が落ちちまったじゃねェか」

中身の無い、空洞で空っぽな身体。
驚きを隠せない。
自分以外に、魂が血印で鎧につなぎ止められた人物がいたなんて思ってもみなかった。

「その身体……」

「げっへっへっ。ちょいと訳ありでなァ…」

66は落ちた頭を指の上で器用に回して、元に戻す。

「───そうだ、昔話をしてやろう
おめェも聞いたことあるだろ。バリーっつう肉屋の話だ」

そして急に昔話を始めた。

「昔、ここ、セントラルシティにバリーという肉屋のおやじがいました。バリーは肉を斬り分けるのが、それはもう大好きでした
でもある日牛や豚だけで、我慢できなくなったバリーは……夜な夜な街に出ては、人間を解体するようになったのです
やがてバリーは捕まりましたが、それまで餌食になった人間は23人!!中央市民を恐怖のどん底に叩き込んだその男の行き先は、当然絞首台でした。めでたし、めでたし!」

話が終わったと思われたが、それはまだ続く。

「……てのが世の中に出回ってる昔話。ところが昔話には実は続きがあってよォ。バリーは絞首台で死んだことになってるのが、表向きの話だ。奴はとある場所のガードマンになる事を条件に死刑をまぬがれた……ただし、肉体を取り上げられ魂のみ鉄の身体に定着させられてなァ」

66は声を上げて、高らかに笑う。

「そう!今てめェの目の前にいるこの俺!!バリー・ザ・チョッパーとは俺の事だァ!!!」

「誰?」

首を傾げるアルに、66─バリーはショックを受けて固まる。

「僕、東部の田舎の生まれだから、中央で有名だった人殺しの話なんて、知らないし」

「ぶあ!!田舎者!!
知らないにしたって、俺の身体見てそれなりのリアクションてもんがあるだろうォ。ノリが悪ィぞおめェ!!」

身振り手振りで欲しいリアクションを表現する。

「もっとこう……ギャー!!とか、わーー!!とか、なんだその身体!!とかよォ!」

そこでアルが鎧の頭を取ると

「ギャーーーーーーーーーーー!!」

バリーが絶叫し、そしてアルを指差して言う。

「わーー!!なんだその身体!!変態!!」

「ううっ……傷つくなぁ……」

「なんでェ死刑仲間かよ、ビビらせやがって。ふーやれやれ」

安心するバリーに対してアルはプンプンと怒る。

「僕は犯罪者じゃなーい!!」

「あァ?じゃあなんで、そんなナリしてんだよ」

外した頭を元に戻しながら答える。

「ちょっと訳ありでね。生身の体が全消失した後に、僕の兄と幼馴染みが、魂を錬成してくれたんだ」







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