鋼の錬金術師

□第13話
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少しの間黙ったバリーだったが、低い声で下品に笑い出す。

「兄貴!幼馴染み!げっへっへっへ。そうかい兄貴と幼馴染みが!」

「何?」

「げひゃひゃひゃひゃ!!いや、悪ィ悪ィ。ところでおめェ兄貴と幼馴染みを信頼してるか?」

「当たり前だよ。命がけで僕の魂を錬成してくれたんだもん」

「おうおう兄弟愛とか友情とかってのは美しいねェ。たとえ偽りの愛情だとしても」

不気味に光る、目の光はまるで嘲笑うようなものだ。

「……どういう意味?」

「おめェら本当に、兄弟なのかってことよ」

「そりゃ、性格が違いすぎるとか、弟の僕の方が身長高いとか、言われてるけどさ……」

「いやいやそういう意味じゃなくて…………おめェよ…………」

次のバリーの言葉でアルの魂の中の何かが壊れた。

「その人格も記憶も、兄貴と幼馴染みの手によって、人工的に造られた物だとしたらどうする?」

それはアルに深く深く、刺さり込んでいく。

「そっ…………そんな事があってたまるか!!僕は間違いなくアルフォンス・エルリックという人間だ!!」

「げはははははははは!!」

動揺するアルとは裏腹に、バリーは嘲笑い、楽しんでいる様子。

「"魂"なんて目に見えない不確かな物で、どうやってそれを証明する!?兄貴も幼馴染みも回りの人間も、皆しておめェをだましてるかもしれないんだぜ!?」

更に言葉でアルを追い詰めていく。

「そうだ!おめェという人間が、確かに存在していた証は!?肉体は!?
それに家族でもねェ幼馴染み?もともとは赤の他人じゃねーか。そいつに魂を錬成されたァ?話が上手すぎると思わねェのか?」

「……じゃああんたはどうなんだ!!」

そこへ建物の門番をしていた憲兵が銃を構えて、バリーの背後に現れる。

「そこの者動くな!!ここは立入禁止になっている!!すみやかに退……」

しかし最後まで言い終わる前に、バリーの巨大な包丁で顔を真っ二つに斬られた。

「うるせェよ」

即死した憲兵は血飛沫をあげて倒れていく。

「「じゃああんたはどうなんだ」だと?簡単なことだ!!」

溢れた血溜まりを、力強く踏みつける。

「俺は生きた人間の肉を、ぶった斬るのが大好きだ!!殺しが好きで好きでたまんねェ!!」

巨大な包丁から憲兵の血が滴る。

「我殺す故に我在り!!俺が俺である証明なんざ、それだけで充分さァ!!!」

ゲラゲラと狂ったように笑い出した。













「──たとえお前の仲間が、私の連れを倒しここに向かっていたとしても、この建物は複雑な造りになっている。
ここまでたどり着くのに、かなりの時間を費やすだろう」

それはおそらく賢者の石の製造を知られない様にする為の構造。

「…………それはどうかな」

エドはスライサーの背後の出入口をちらっと見て叫ぶ。

「アル!!今だ!!」

仲間がたどり着いたと察したスライサーは咄嗟に振り返り、切っ先を向ける。

「いつの間……………………に!?」

しかしそこには誰もいない。

──ハッタリか!!──

そして、刃でスライサーの頭を胴体から切り離した。

「うぬ……卑怯な…………」

「ケンカに卑怯もくそもあるか」

鎧の胴体は倒れ、頭は転がり、エドは機械鎧を元の形に戻す。

「さてと…………」

「どうしたまだ私の血印は壊されていないぞ。さっさと破壊し……あ」

スライサーの話の途中で、彼の頭から映える長い毛を掴みあげた。

「魂が頭(コッチ)にあるんだから切りはなしちまえば、胴体はただの鉄塊だろ。それにあんたには訊きたい事がある!」

「…………賢者の石についてか?」

「知ってる事、洗いざらい吐いてもらおうか」

「言えんな」

「おいおい負け犬がきばるんじゃないよ」

ニヤリと笑うとスライサーも笑出す。

「はっはっはっは!まだ負けてなどおらん」

その時、エドの背後でガシャと何かが動く音がした。

振り向く前に素早い剣裁きで、脇腹を斬った。

「………………バカな」

目を見開いて見ると、血印から切り離された筈の胴体だけが動いている。

「ひとつの鎧にひとつの魂とは、限らねーだろ」

「言い忘れていたが「スライサー」という殺人鬼は…………」

「兄弟二人組の殺人鬼だったって訳よ」

頭が兄で、胴体が弟。頭と胴体それぞれに1つずつ血印。

「頭と胴体で別個かよ……反則くせ〜〜〜」

脇腹をおさえて床に座ったエドは悔しそうに言う。

「「ケンカに卑怯もくそもあるか」と言ったのは誰だったかな」

「そうそう俺達の仕事は、ここに入り込んだ部外者を排除するのが最優先だ。悪く思うなよ。さぁ第2ラウンドと行こうぜおチビさんよ」

弟は剣を構えて、背中の内側にある血印を指差す。

「と……その前に兄者にならって、俺も血の場所を教えといてやるか。いいか俺の血印はここだ!きっちり狙って壊せよチビ!──ってそのふらついた足元じゃ、無理っぽいな!うははははは!!」

「ぐ…………なめんじゃ…………」

震える足。震える両手を合わせるが、錬成させまいと突っ込んでくる。
それを錬成を断念し、ふらつきながらも避ける。

──くっそ……血ィ出すぎた…………マジでくらくらしてきやがった……──

剣を持ち替え、斬られた脇腹に柄を叩き込まれる。

「ぐっ……は……!!」

──……マジやべて!!ここで死んじまうのか──

脇腹を抑えるエドに、再び剣が向けられる。

──死ぬ……?死…………──

死を間近に感じたエドの脳裏に、あの殺人鬼─スカーが浮かんだ。

──死!!!──

壁に追い込まれ、浮かぶのはスカーの破壊の右手。

エドは両手を合わせた。

「………………あー、くそ…………」

「錬成するヒマは与えんと言っている!!」

剣の切っ先を向けて突っ込んでくる弟と、破壊の右手で迫るスカーの姿が重なった。

「イッイリャアァ!!」

弟の剣はエドの頬を掠め、壁に刺さる。彼の手は鎧の腹に触れた。

「嫌な奴思い出しちまった」

そこから亀裂が入り、鎧は破壊された。
それはまるでスカーと対峙したときのアルの様。










「私の事よ。忘れたとは言わせないわ。なんせ私達は親友だもの」

張り付けたような笑顔で女性は言った。

『もしかして……アリサ?』

女性─アリサは肯定も否定もせずに、ただ笑っていた。が、少しして口を開いた。

「そうよ。久しぶりね。大きくなったわね?」

『何でそこ疑問形なんだよ!』

思わず突っ込んでしまった。


あの時、故郷で行方不明なのか、死んだのかも分からなかった親友。アリサ・クレメンス。

会いたかった。旅に出たのは、賢者の石を探すのは勿論、アリサを探す為でもある。

そんな、彼女が今、ここに、目の前にいる。


──生きてた──

『………それより生きてたんだ……よかった。会いたかったよ……!!ずっと探してたんだよ』

「私も会いたかったわ。けど……昔みたいに……なんて言わないでよね」

『?』

「私ね、殺したい人がいるの。その人を殺す為に今の仲間といるの……」

と、その時。スライサーの弟が破壊された。
それに目をやるとアリサは溜息混じりに言う。

「あら?負けちゃったのね……処分しなきゃね……」












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