鋼の錬金術師

□第16話
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溜まった感情を一気に吐き出した大声に、エドもアンも入ってきたばかりのウィンリィも目を驚愕に開いたまま固まった。

「…………好きで……こんな身体になったんじゃない………」

「あ………悪かったよ………」

エドは俯きがちに続ける。

「そうだよなこうなったのも俺のせいだもんな……だから一日でも早くアルを、元に戻してやりたいよ」

「本当にもとの身体に戻れるって保証は?」

「絶対に戻してやるから俺を信じろよ!」

「「信じろ」って!!この空っぽの身体で、何を信じろって言うんだ…………!!」

兄を信じる信じないの前に自分の存在が信じられない。

「錬金術において人間は、肉体と精神と霊魂の三つから成ると言うけど!それを実験で証明した人がいたかい!?」

アルの大声は廊下まで響き、廊下にいたヒューズは険しい表情をし、ロスとブロッシュは疑問符を浮かべ困惑している。

「「記憶」だって突き詰めれば、ただの「情報」でしかない……人工的に構築することも可能なはずだ」

『………アル……』

「お前、何言って……」

「……兄さん前に僕には怖くて言えない事があるって言ったよね」

「!」

「それはもしかして僕の魂も記憶も、本当は全部でっちあげた偽物だったって事じゃないのかい?」

自分は自分であってそれ以外の何者でもない。しかしそれでは自分と言う人間が存在していた証明にはまるでならない。
生身の身体がない為にその疑いは確信へと近付いて行ってしまう。

「そもそもアンに、僕の魂を鎧に定着させる理由なんてないだろう!?父さんが連れてこなければ、関わることもなかった赤の他人じゃないか!」

アルの言葉が刃となり、エドとアンを刺していく。

アンの黒い瞳が揺れ、頭の中では「赤の他人」という言葉がぐるぐると周り、思考が停止する。

「ねぇ兄さん、アン。アルフォンス・エルリックという人間が、本当に存在したって証明はどうやって!?
そうだよ……ウィンリィもばっちゃんも皆で僕を、騙してるってこともあり得るじゃないか!!
兄さんはアンにも怖くて言えない事があるって言ったけど、本当は僕を騙すための演技でアンもグルなんじゃないのか!!
どうなんだよ兄さん!!アン!!」

全て怒鳴って吐き出した。刹那、エドが机を思い切り叩きつけた。
振動でトレイの食事が揺れ、フォークが床に落ちる。

アンは傷口を抑え、もがく様に部屋を飛び出し、走り出す。

「──ずっとそれを溜め込んでいたのか?言いたい事はそれで全部か」

アルは小さくコクリと頷く。

「──そうか」

悲しそう笑うとに立ち上がり、アンが走って行った方へとエドも足を進める。

「エドっ……!」

ウィンリィがエド呼び止めるが、彼は立ち止まろうとしない。

「……カ……」

消え入りそうな微かな声が聞こえ振り向くと、大きくスパナを振りかぶったウィンリィがいた。

「バカーーーーっっ!!」



ごわん



病院を揺らすような大声と、鎧をスパナで殴った凄まじい音に、ヒューズ達は肩を揺らして身体を強ばらせる。

「いっ……いきなりなんだよ!!」

小刻みに震えるウィンリィは青筋を立てて荒い息を吐いているが、吊り上げた両目からはボロボロと涙が溢れる。

「ウッ……ウィンリ…………」

ウィンリィの涙に、びっくぅーっっ、と身体が飛び上がった。

「アルのばかちん!!」

「い゛」

再び額にスパナが振り下ろされた。

「エドの気持ちも知らないで!!エドが怖くて言えなかったことってのはね…………アルとアンがエドを、恨んでるんじゃないかってことよ!!」


機械鎧の手術が終わったエドは荒い息を吐き、額にタオルを乗せてベッドの上に横たわっていた。

「……アルとアンがあんな身体になったのは、俺のせいだ……あいつ食べる事も眠る事も痛みを感じる事も出来ないんだ……アンも長く生きられないし、髪の色も真っ黒になっちまった……
…………あいつらきっと俺を恨んでる…………!」

手術の熱と痛みに耐えるエドを見守るウィンリィとピナコが、彼の考えを否定をする。

「そんなことない!」

「アルもアンもお前を恨むような子じゃないよ。訊いてみればわかるだろ」

「怖いんだ……怖くて訊けないんだ」

もし「恨んでる」と言われた時の事を考えると、怖くて訊けないし言葉にならない。

「だから一日ても早く俺が元に戻してやらなきゃ……」

それは責任感から来る誓であった。



「機械鎧手術の痛みと熱にうなされながら、あいつ毎晩泣いてたんだよ」

ウィンリィはスパナで殴る事をやめずに言葉を紡ぐ。

「それを……それなのに、あんたはっ……自分の命を捨てる覚悟で偽物の弟を作るバカが、どこの世界にいるってのよ!!」

涙が零れ続ける俯かせた顔をあげ、ギュッと噛み締めていた唇を開いた。

「アンが赤の他人ですって?独りになったあいつがどんな思いで、あたし達と一緒に居たかわかんなかったの?」


エド、アル、アンの3人が旅立つ日の前日。

『ねぇウィンリィ』

「どうしたの?」

『あたしね此処に来て良かった。エドもアルもウィンリィもみんな、あたしの事をほんとの家族みたいに迎えてくれる
今は当たり前のこの生活は、憧れだったの』

当たり前の「おかえり」と「ただいま」が嬉しくて幸せだった。

『みんな大好き
あたしの勝手な意見だけど、エドとアルとウィンリィの事はもちろん他人とか知り合いでもないし、友達とか親友でもない。家族だと思ってるよ……迷惑かな?』

「ううん!そんな事あるわけないじゃない!」

『えへへ。ありがとう』




「本当の家族みたいな存在に……ううん……本当の家族に赤の他人呼ばわれした彼女の気持ちも考えなさよ。エドと一緒に命かけてあんたを連れ戻したんでしょ」

手を止め涙を拭う。

「あんた達たった二人の兄弟じゃないの。大切な家族じゃないの」

そしてエドとアンが出ていった方を、びしっと指差し、命令口調でいう。

「!?」

「追っかけなさい!」

「あ…………うん」

ゆっくりと立ち上がり部屋を出たアルに、ウィンリィは扉から身を乗り出し一言怒鳴る。

「駆け足!!」

「はいっ!!」










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