鋼の錬金術師
□第16話
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白物干し竿に干されたシーツが風に靡く屋上で、アンは柵の上に腕を置いていた。
それを見つけたエドはゆっくりとアンに近付き、同じ様に柵の上に腕を置いた。
「──前の話の続き聞いてくれないか?」
『うん、いいよ』
「……俺、怖くてお前に言えなかった事があるんだ」
俯くエドの声は微かに震えている。
『うん』
「…………俺の事……恨んでないか……?」
『何で?』
「……俺が母さんを生き返らせようなんて思ったから、お前は髪と目の色素も寿命も持ってかれちまった……俺があんな事思わなかったら……」
『恨んでなんかないよ……恨んでなんかない。だって髪の毛の色も目の色も寿命も、全部取り戻せばいいだけの話じゃん』
前向きな言葉にも関わらず、アンの表情は重くて暗い。
『だから恨んでなんかない』
嘘偽りの無い真っ直ぐな瞳。
しかしその奥には寂しさと苦しさが入り混じっている。
エドはその瞳をずっと見ている事が出来なかった。
そしてアンをギュッと抱き締めた。
意図があっての行為では無い。例えて言うなら、熱いものに触れた時に咄嗟に手を引くような反射的な行為。
『……エド?』
「お前は赤の他人なんかじゃねー」
『……』
「お前は俺の妹でアルの姉貴で、俺達の大切な家族だ」
『……うん、ありがとう……』
扉を開けば手摺に腕を置くエドとアンの姿が目に入った。
少し考えを巡らせ、台詞を組み立てる。
「………兄…………」
「そういえば、しばらく組手やってないから、体がなまってきたな」
そう言うと、両腕を腰に当てスリッパを脱ぎ捨てる。
「へ?まだ傷が治ってないのに何いってんだよ……わぁ!?」
突然右脚の蹴りが繰り出された。
「ちょっ……」
次々に飛んでくる攻撃を受け止める。
「待った!待った兄さん!!」
治り切っていない傷口がズキンと痛み、荒い息を吐いて表情を歪ませている。
「傷口が開いちゃうよ!!」
エドは干してあったシーツを掴み、アルの目の前に広げて目眩ましをする。
「……っ!?」
そこを狙ってアルの足に両手を付き、顔面を狙った蹴りを入れる。
「あう」
「勝った!」
バランスを崩し倒れたアルを見下ろすエド。
「へっへ……初めてアルに勝ったぞ」
「……ずるいよ、兄さん」
『いつもの事じゃん』
「うるせーや勝ちは勝ちだ!」
2人はアルの様に仰向けに寝転がった。
「……………小さい頃からいっぱいケンカしたよな、俺たち」
「うん……女の子のアンも一緒になって」
『男女平等だよ、アル』
「今思えば、くっだらねぇ事でケンカしたよな」
「二段ベッドの上か下か……とかね」
「あの時、俺負けたな。でアンが『間をとってあたし』とか言ってな」
「おやつの事でいつもケンカしてたっけ」
「あ〜〜〜勝った覚えがねぇや。おもちゃの取り合いとか」
「僕が勝った」
「レイン川で遊んだときも」
「俺、川に突き落とされたっけな」
「あれはアンが兄さんを押したんだよ」
『あぁ!バラさないでよ!!』
「なっ!てめェ!やりやがったな!!」
『しーらない』
「師匠の所で修行中も、ケンカしたよね」
「「やかましい」って師匠に半殺しにされたからドローだろ、あれは。俺がアルの本に落書きしたときもな」
「僕の圧勝だったね
「ウィンリィをお嫁さんにするのはどっちだ」ってケンカもした」
『え!?そんな喧嘩あたし知らないよ!!?』
「え!?そんなの覚えてねーぞ!!」
「やっぱり僕が勝った。でも二人ともふられた」
「……あっそう……」
アルはエドにしか聞こえないように、ボソッと小声で言う。
「ちなみにアンの取り合いもしたよ」
「えっ!!……で?」
「そしたらアンがいつのまにかケンカにまざってて、僕と兄さんが負けた。それでアン「あたしは二2人のお嫁さんじゃなくて2人の家族が良い」って言ってた」
「あいつらしいな」
「うん」
ーー