鋼の錬金術師
□外伝1
1ページ/1ページ
それは何気ない会話から始まった……。
「──なぁ。マスタング大佐とエドワードとアンって、誰が1番強いんだろうな」
東方司令部。煙草をふかすハボックが突然言い出した。
「そりゃあ大佐でしょう」
と、ロイが強いと言うフュリー。
「いや、鋼のもあなどれんぞ。体術はかなりのもので、錬金術もバリエーションに富むと聞いてる」
と、エドに一票入れるファルマン。
「接近戦に持ち込んだらエドが有利か?」
と、同意するブレダは続ける。
「大佐とアンだったら、アンじゃねぇの?水属性が得意分野だろ」
「発火布さえ濡らされなかったら、大佐も張り合えるじゃないですか?」
「じゃあエドワードとお嬢は?」
「組手はアンの方が強いって聞いたが、錬金術になるとなぁ……」
と、ブレダは首を傾げた。
ロイ、エド、アン誰が強いのか……。その疑問は、日に日に東方司令部内に広まっていった。
「どうなんだ実際」
「鋼のとケリー中佐は、あちこちで派手にやってるそうだぞ」
「おいおい、お前ら東部の内乱の時の大佐を知らんのか?」
「でも大佐は焔。中佐は水だ。」
「誰か対戦カード組めよ」
その話は勿論ロイにも届いており、彼は仕事を進めながら、リザに話しかける。
「……近頃、東方司令部内(ココ)で私と鋼のとアンと、誰が強いのかという話で、盛り上がっているようだが」
「気になりますか、大佐」
「バカバカしい。子供相手に私がムキになるとでも?だいたい対戦しようにも、鋼のとアンは各地をフラフラしてて捕まらんだろう。私の勇姿を見せられないのは残念だが、まぁ仕方がないと言うものだ」
「エドワード君とアンはちょうど今、査定で中央にいるらしいてす」
はっはっはと笑うロイにリザは受話器を向けた。
電話の向こうからは、
《喧嘩なら買うぞ、コラァ!!》
《あはは。何それおもしろそう!》
エドの怒鳴り声と、アンの笑い声が聞こえる。
「いや、我々人間兵器が本気でぶつかったら、周囲に多大な被害がだな……」
「中央のヒューズ中佐が上にかけあって練兵場を空けてくれるそうです」
電話の向こうからは、
《わははは》
ヒューズの笑い声が聞こえてくる。
「……そもそもそんな事を、大総統閣下が許すわけなかろう!!」
逃げ場を無くしたロイは、机をバン!と叩いた。
受話器を持った大総統は、愉快そうに笑いながら許可を出す。
「面白そうじゃないか。良い、許す」
《戦いたまえ》
リザの持った電話機の受話器を持つロイは唖然とした。
中央の練兵場に大勢の軍人が集まっていた。
《レッディース、アーンド、ジェントルメン!!中央の練兵場へようこそ!! 》
今回の司会者であるヒューズの声が、マイクを通して響いた。
《今日はめでてェお祭りだ!なんてったって!うちの娘の2歳の誕生日なんだぜ、イエア!!》
櫓の上でガッツリとポーズを決めるヒューズに、ブーイングが飛ぶ。
「「「「「知ったことかーーーーっ!!」」」」」
そんなブーイングを気にも止めずに続ける。
《OK!!ページもないからサクッといこう!!》
「身も蓋もない!」
投げ付けられた缶が頭に当たるが、やはり気にせず続ける。
《本日のメイン、焔VS鋼VS雪の、国家錬金術師対決総当たり戦だ!!
まずは赤コーナー!!鋼の錬金術師エドワード・エルリック!!》
エドが入場すると、飛んでくる言葉は禁句ワード。
「うわ、ちっさーい!!」
「小学生並み!!」
「豆粒頑張れー」
やっぱり、エドはキレる。
「ちっさい言うな!!」
《青コーナー!!雪の錬金術師アン・ケリー!!》
飛んでくるのは、やはり彼女にとっても禁句ワードのそれ。
「相変わらず小さいぞー!!」
「行けー!!豆粒対決だ!!」
『誰が豆粒よ!!』
《READY!FIGHT!!》
ヒューズの合図が響いた。
刹那、アンは突進するように走り出す。
それを見たエドは構えた。
少し身を屈めアンの腹を狙った拳は、呆気もなく彼女に取られてしまう。
アンはエドの腕を両手でがっちり掴むと、投げた。
「うおおおおおおおおぉぉぉい!」
それはポーイと綺麗に投げた。
綺麗な弧を描き観客席まで投げられたエドは身を起こし、アンに突っ込もうとする。が、
『場外だよ〜エドワードくん』
「んなっ!!卑怯な!!」
嫌味ったらしいアンの笑顔。訴えるエドだが、ヒューズの声が響く。
《ページがない。次行こう!!》
「そんなの認めるかァア!!」
勝利の笑みを浮かべるアンを中心にして湧き起こる拍手の合間に、エドの怒鳴り声が響いた。
《続いて、赤コーナー!!焔の錬金術師ロイ・マスタング!!》
ロイが入場すると、周りから悪口が飛んでくる。
「自分だけうまいこと、出世しやがってーーーーっ!!」
「仕事しろーーっ!!」
「滅べー!!」
「俺の彼女かえせー!」
しかし、ロイは知らんぷり。
《青コーナー!!鋼の錬金術師エドワード・エルリック!!》
「次は頑張れよー」
「負けるなー!」
「ほっとけ!!」
送られた声援を、怒鳴って黙らせる。
「くっくっく……アンに負けたけとはいえ、公衆の面前で堂々と大佐のスカした面に、ぶちかませる日が来ようとは……」
「兄さん勝算あるの?アンに負けてたけど」
観客席からのアルの言葉に、グッと拳を握り、悪人の如く高らかに笑う。
「ゲンコでボコるのみ!!」
──どこが錬金術戦だよ……──
アルは呆れることしか出来なかった。
《READY!》
ロイは片手をポケットに突っ込んだまま、やれやれと溜息をつく。
《FIGHT!!》
と同時にロイが発火布を擦り合わせると、エドの目の前で大爆発が起こる。
「げぇ!!」
そしてエドに反撃の暇を与えずに、攻撃を続ける。
「いきなりか畜生!!」
「「兵は拙速を貴ぶ」戦は早く攻め、早く勝負をつける方が良い、という事だ」
「でえええええ!!しかも遠慮無しかよ!!」
エドは場内外を分ける、厚みの薄い柵の上を走った。
ロイはエドを狙って柵を吹き飛ばすが、同時に観客ごと吹き飛ばしてしまう。
「ひー」
「どわー」
「うーむ。的が小さいとなかなか当たらないものだな」
「小さいって言うな!!」
反射的に反応するエドだが、これも作戦の1つ。
「「怒らせてこれを乱せ」敵の挑発に乗ってはいけない」
「いっ……」
もう遅い。エドの目の前に現れた火花が大爆発を起こした。
「うおおおおおおおお」
「む………少々やりすぎたな。煙で何も見えん」
爆発の煙で視界が悪くなり、ロイは目を細めた。
その中で、エドがコートを揺らして立っている。
──そこか……!──
指を擦り合わせるが、それはダミー。
べーっと舌を出し、エドのコートを羽織り、腹には「スカ」の二文字。
ロイの背後から煙を殴り飛ばすようにして現れたエド。
「!!」
機械鎧の刃物でロイの発火布を破る。
「くっ…………」
「これでもう炎は出せねぇな!」
「しまった!」
「この勝負もらった!!」
ロイは焦りの表情を浮かべ、反対にエドは勝ち誇った笑みを浮かべた。
が、
「……などと焦ったふりをしておいて……」
ずっとポケットに突っ込んでいた左手を出す。
そこには錬成陣のかかれた発火布。
「実は左手も発火布だ。「兵は詭道なり」!騙し討ちも立派な戦略だよ、鋼の」
げ。と顔を真っ青にしたエドは、次の瞬間大爆発の犠牲となった。
エドは空に舞い上がった。
当然だ。と言うように笑うロイ。
するとアンの声がマイクを通して響く。
《第3ラウンド!!れでぃ……ふぁいとぉ〜〜!!》
「!?」
不意打ちでロイに出来た僅かな時間。
その時間の間に手に持っていたマイクを上空に投げ、そして合わせた両手で水の玉を作り、ロイに浴びせる。
「しまった!!」
発火布諸共全身濡れて火花は出せないロイは攻撃など出来ない。
落ちてきたマイクをキャッチし、ニッコリと笑う。
《あたしの勝ち》
この戦いがいつ始まっていつ終わったのか、訳のわからないままアンの勝利が決まり、会場は呆然とする。
因みに全身に火傷を負ったエドはタンカーで運ばれていった。
「うむ、みごとみごと。素晴らしい戦いだった。ケリー中佐、
マスタング大佐」
「はっ!おほめにあずかり光栄です」
『そりゃどーも』
ビシッと敬礼するロイ。そして相変わらず冷たい態度のアン。
そして大総統はニコニコと笑って告げた。
「では早速。皆で後片付けをするように」
「…………やっぱりですか」
練兵場は死屍累々。
「だから戦うの嫌だったのに……」
上着を脱いだロイは、地面の盛り上がった所に座って、はーと溜息をついた。
「さぼらんでくださいよ大佐!」
と、腕まくりをして壊れた柵を運ぶブレだ。
「あーもーやってらんねー」
「たくよー」
「あれ?ヒューズ中佐とアンは?」
同じ頃。部屋の扉を開けたアームストロングは首を傾げる。
ヒューズはコーヒーを啜り、アンはジュースを飲んでくつろいでいた。
「む?中佐殿、アン・ケリー。今日は練兵場に行っていた筈では?」
「「三十六計逃げるにしかず」ってな」
『そゆこと〜♪』
ーー