鋼の錬金術師

□外伝1
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それは何気ない会話から始まった……。

「──なぁ。マスタング大佐とエドワードとアンって、誰が1番強いんだろうな」

東方司令部。煙草をふかすハボックが突然言い出した。

「そりゃあ大佐でしょう」

と、ロイが強いと言うフュリー。

「いや、鋼のもあなどれんぞ。体術はかなりのもので、錬金術もバリエーションに富むと聞いてる」

と、エドに一票入れるファルマン。

「接近戦に持ち込んだらエドが有利か?」

と、同意するブレダは続ける。

「大佐とアンだったら、アンじゃねぇの?水属性が得意分野だろ」

「発火布さえ濡らされなかったら、大佐も張り合えるじゃないですか?」

「じゃあエドワードとお嬢は?」

「組手はアンの方が強いって聞いたが、錬金術になるとなぁ……」

と、ブレダは首を傾げた。

ロイ、エド、アン誰が強いのか……。その疑問は、日に日に東方司令部内に広まっていった。

「どうなんだ実際」

「鋼のとケリー中佐は、あちこちで派手にやってるそうだぞ」

「おいおい、お前ら東部の内乱の時の大佐を知らんのか?」

「でも大佐は焔。中佐は水だ。」

「誰か対戦カード組めよ」

その話は勿論ロイにも届いており、彼は仕事を進めながら、リザに話しかける。

「……近頃、東方司令部内(ココ)で私と鋼のとアンと、誰が強いのかという話で、盛り上がっているようだが」

「気になりますか、大佐」

「バカバカしい。子供相手に私がムキになるとでも?だいたい対戦しようにも、鋼のとアンは各地をフラフラしてて捕まらんだろう。私の勇姿を見せられないのは残念だが、まぁ仕方がないと言うものだ」

「エドワード君とアンはちょうど今、査定で中央にいるらしいてす」

はっはっはと笑うロイにリザは受話器を向けた。

電話の向こうからは、

《喧嘩なら買うぞ、コラァ!!》

《あはは。何それおもしろそう!》

エドの怒鳴り声と、アンの笑い声が聞こえる。

「いや、我々人間兵器が本気でぶつかったら、周囲に多大な被害がだな……」

「中央のヒューズ中佐が上にかけあって練兵場を空けてくれるそうです」

電話の向こうからは、

《わははは》

ヒューズの笑い声が聞こえてくる。

「……そもそもそんな事を、大総統閣下が許すわけなかろう!!」

逃げ場を無くしたロイは、机をバン!と叩いた。

受話器を持った大総統は、愉快そうに笑いながら許可を出す。

「面白そうじゃないか。良い、許す」

《戦いたまえ》

リザの持った電話機の受話器を持つロイは唖然とした。

















中央の練兵場に大勢の軍人が集まっていた。

《レッディース、アーンド、ジェントルメン!!中央の練兵場へようこそ!! 》

今回の司会者であるヒューズの声が、マイクを通して響いた。

《今日はめでてェお祭りだ!なんてったって!うちの娘の2歳の誕生日なんだぜ、イエア!!》

櫓の上でガッツリとポーズを決めるヒューズに、ブーイングが飛ぶ。

「「「「「知ったことかーーーーっ!!」」」」」

そんなブーイングを気にも止めずに続ける。

《OK!!ページもないからサクッといこう!!》

「身も蓋もない!」

投げ付けられた缶が頭に当たるが、やはり気にせず続ける。

《本日のメイン、焔VS鋼VS雪の、国家錬金術師対決総当たり戦だ!!
まずは赤コーナー!!鋼の錬金術師エドワード・エルリック!!》

エドが入場すると、飛んでくる言葉は禁句ワード。

「うわ、ちっさーい!!」

「小学生並み!!」

「豆粒頑張れー」

やっぱり、エドはキレる。

「ちっさい言うな!!」

《青コーナー!!雪の錬金術師アン・ケリー!!》

飛んでくるのは、やはり彼女にとっても禁句ワードのそれ。

「相変わらず小さいぞー!!」

「行けー!!豆粒対決だ!!」

『誰が豆粒よ!!』

《READY!FIGHT!!》

ヒューズの合図が響いた。

刹那、アンは突進するように走り出す。

それを見たエドは構えた。

少し身を屈めアンの腹を狙った拳は、呆気もなく彼女に取られてしまう。

アンはエドの腕を両手でがっちり掴むと、投げた。

「うおおおおおおおおぉぉぉい!」

それはポーイと綺麗に投げた。

綺麗な弧を描き観客席まで投げられたエドは身を起こし、アンに突っ込もうとする。が、

『場外だよ〜エドワードくん』

「んなっ!!卑怯な!!」

嫌味ったらしいアンの笑顔。訴えるエドだが、ヒューズの声が響く。

《ページがない。次行こう!!》

「そんなの認めるかァア!!」

勝利の笑みを浮かべるアンを中心にして湧き起こる拍手の合間に、エドの怒鳴り声が響いた。








《続いて、赤コーナー!!焔の錬金術師ロイ・マスタング!!》

ロイが入場すると、周りから悪口が飛んでくる。

「自分だけうまいこと、出世しやがってーーーーっ!!」

「仕事しろーーっ!!」

「滅べー!!」

「俺の彼女かえせー!」

しかし、ロイは知らんぷり。

《青コーナー!!鋼の錬金術師エドワード・エルリック!!》

「次は頑張れよー」

「負けるなー!」

「ほっとけ!!」

送られた声援を、怒鳴って黙らせる。

「くっくっく……アンに負けたけとはいえ、公衆の面前で堂々と大佐のスカした面に、ぶちかませる日が来ようとは……」

「兄さん勝算あるの?アンに負けてたけど」

観客席からのアルの言葉に、グッと拳を握り、悪人の如く高らかに笑う。

「ゲンコでボコるのみ!!」

──どこが錬金術戦だよ……──

アルは呆れることしか出来なかった。

《READY!》

ロイは片手をポケットに突っ込んだまま、やれやれと溜息をつく。

《FIGHT!!》

と同時にロイが発火布を擦り合わせると、エドの目の前で大爆発が起こる。

「げぇ!!」

そしてエドに反撃の暇を与えずに、攻撃を続ける。

「いきなりか畜生!!」

「「兵は拙速を貴ぶ」戦は早く攻め、早く勝負をつける方が良い、という事だ」

「でえええええ!!しかも遠慮無しかよ!!」

エドは場内外を分ける、厚みの薄い柵の上を走った。
ロイはエドを狙って柵を吹き飛ばすが、同時に観客ごと吹き飛ばしてしまう。

「ひー」

「どわー」

「うーむ。的が小さいとなかなか当たらないものだな」

「小さいって言うな!!」

反射的に反応するエドだが、これも作戦の1つ。

「「怒らせてこれを乱せ」敵の挑発に乗ってはいけない」

「いっ……」

もう遅い。エドの目の前に現れた火花が大爆発を起こした。

「うおおおおおおおお」

「む………少々やりすぎたな。煙で何も見えん」

爆発の煙で視界が悪くなり、ロイは目を細めた。
その中で、エドがコートを揺らして立っている。

──そこか……!──

指を擦り合わせるが、それはダミー。
べーっと舌を出し、エドのコートを羽織り、腹には「スカ」の二文字。

ロイの背後から煙を殴り飛ばすようにして現れたエド。

「!!」

機械鎧の刃物でロイの発火布を破る。

「くっ…………」

「これでもう炎は出せねぇな!」

「しまった!」

「この勝負もらった!!」

ロイは焦りの表情を浮かべ、反対にエドは勝ち誇った笑みを浮かべた。

が、

「……などと焦ったふりをしておいて……」

ずっとポケットに突っ込んでいた左手を出す。

そこには錬成陣のかかれた発火布。

「実は左手も発火布だ。「兵は詭道なり」!騙し討ちも立派な戦略だよ、鋼の」

げ。と顔を真っ青にしたエドは、次の瞬間大爆発の犠牲となった。

エドは空に舞い上がった。

当然だ。と言うように笑うロイ。
するとアンの声がマイクを通して響く。

《第3ラウンド!!れでぃ……ふぁいとぉ〜〜!!》

「!?」

不意打ちでロイに出来た僅かな時間。

その時間の間に手に持っていたマイクを上空に投げ、そして合わせた両手で水の玉を作り、ロイに浴びせる。

「しまった!!」

発火布諸共全身濡れて火花は出せないロイは攻撃など出来ない。

落ちてきたマイクをキャッチし、ニッコリと笑う。

《あたしの勝ち》

この戦いがいつ始まっていつ終わったのか、訳のわからないままアンの勝利が決まり、会場は呆然とする。

因みに全身に火傷を負ったエドはタンカーで運ばれていった。

「うむ、みごとみごと。素晴らしい戦いだった。ケリー中佐、
マスタング大佐」

「はっ!おほめにあずかり光栄です」

『そりゃどーも』

ビシッと敬礼するロイ。そして相変わらず冷たい態度のアン。

そして大総統はニコニコと笑って告げた。

「では早速。皆で後片付けをするように」

「…………やっぱりですか」

練兵場は死屍累々。












「だから戦うの嫌だったのに……」

上着を脱いだロイは、地面の盛り上がった所に座って、はーと溜息をついた。

「さぼらんでくださいよ大佐!」

と、腕まくりをして壊れた柵を運ぶブレだ。

「あーもーやってらんねー」

「たくよー」

「あれ?ヒューズ中佐とアンは?」














同じ頃。部屋の扉を開けたアームストロングは首を傾げる。

ヒューズはコーヒーを啜り、アンはジュースを飲んでくつろいでいた。

「む?中佐殿、アン・ケリー。今日は練兵場に行っていた筈では?」

「「三十六計逃げるにしかず」ってな」

『そゆこと〜♪』











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