鋼の錬金術師

□第21話
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──記憶の糸をたどるといつも最初に出て来るのは書斎で研究にふけるあいつの姿だ。──


暗い書斎のデスクで明かりを灯して研究に励む父親の後ろ姿を、幼き頃のエドは扉を少し開けて、その隙間からそっと覗いていた。


──錬金術師だったあいつに親らしい事をしてもらった思い出は全くと言っていい程無い。──

──あいつが出て行った日、理由をたずねても母さんは「しょうがない」と言うだけで淋しそうに笑っていたが、影で泣いていたのを知っている。──

──母さんが病に倒れる、この世を去ったのはそれから間もなくの事だった。──














見上げる程の巨大な男の登場に、エドとアンは暫し言葉を失う。

「…………エド……か?」

大男に訊ねられ、背筋が凍り付く感覚を覚えながらも笑顔を浮かべる。

刹那、彼の目がカッと見開かれ、大きく右手を突き出したかと思うと、エドの頭を鷲掴みにした。

突然の行動に何も出来ず、ただ青冷めて固まっていると、力強く頭を撫でられた。

「よく来た。大きくなったな」

だが、撫でるなんてレベルの力ではない為に物凄く痛い。

「(ちぢむ………!!)」

そろそろ離してくれ。と思った時、大男の目線はエドの隣で呆然と立つアンに移った。

「…………アン……か?」

『…あ、うん……そう、だよ…』

途端、大男の手がエドの頭を突然離れたかと思えば、勢いよく突き出された彼の大きな左手がアンの頭を掴んだ。

「アンも大きくなったな」

『(大きくなったって言われた…)』

久しぶり。いや、初めてか。記憶は曖昧だが、「大きくなった」と言われ感激するアンから、大男の目線が鎧のアルに移る。

「こっちは?」

「アルフォンスです。ごぶさたしてます」

「そうか。すごく大きくなったな」

大男は、わしわしと鎧の頭を撫でた。

「(鎧になってから初めて頭なでられた…)」

小さな幸せに浸るアルの横で、大男は彼等がタブリスに訪れた訳を訊ねていた。

「急にどうした」

「師匠(センセイ)に教えてもらいたい事があって…」

「ああ、こっち来な。メイスンしばらく店たのむ」

「へーい」

メイスンに包丁とエプロンを渡すと、肉屋に隣接する自宅に案内する。

『シグさん、師匠の身体の具合は?』

「そこそこ元気だが、まぁ病弱にはかわり無いな。おいイズミ、エルリックとケリーのチビ共が来たぞ」

大男─シグは開け放たれた窓から、師匠─イズミを呼ぶ。

その頃、イズミはベッドに寝込み、本を読んでいた。

「エドとアルとアンが?」

「起きれるか?」

「大丈夫。今日は少し体調がいいから」

イズミを待つ間にエド、アル、アンの3人はヒソヒソと話す。

だから、部屋の奥から近付いてくる足音に気が付かなかった。

「師匠、具合悪くて寝てたんだ」

『そうみたいだね』

「また身体、悪くなったんじゃねー?」

『あたし達が師匠の部屋に行った方が…』

突然、勢いよく開け放たれたドアから強烈な蹴りが繰り出された。

ドアの丁度前に佇んでいたエドは、攻撃を受け、悲鳴をあげながら転倒する。

「もぎゃあああああああああ」

目の前で吹っ飛んで行ったエドを横目に固まるアンと、壁に身体を密着させて怯えるアル。

エドを蹴り飛ばした人物が、左足を強く踏み下ろし、憤怒の低い声を出して現れる。

「おまえ達の噂はタブリス(ココ)までよ〜〜〜〜〜く届いてるぞ。この馬鹿弟子が。軍の狗に成り下がったって?ああ?」

鎖骨にフラメルの刺青をしたイズミは腕を組んで怒鳴る。

具合が悪いだって?

何が病弱にかわり無いだ。

寧ろ常人より元気ではないかと言わんばかりの猛攻撃。

「なんとか言え!!」

「無理だよ。イズミ」

しかしシグに服を掴まれ持ち上げられたエドは、身体は既にボロボロで、口からは魂が出ていた。

これぞまさに伝説のニューネッシー。

次にイズミは鬼の形相で、固まるアンを見た。

目が合った瞬間に背筋に走る悪感と、全身に立つ鳥肌。そしてだらだらと吹き出す嫌な汗。

思わず戦闘態勢を取ったアンだったが、イズミは鬼の様な表情を柔らかくして優しそうに微笑みながら彼女に握手を求める様に手を差し出した。

それに答えるべく、戦闘態勢を解いたアンも恐る恐る手を差し出すが、掴まれたのは手首。

『へ?』

疑問符を浮かべた直後、突然尋常ではない力で引っ張られ、いきなりの事に体は前へと崩れて行く。

そして背中に感じた重みと、全身を打ち付けられる痛み。

『ふべッ!!』

それはイズミが強く踏み下ろした右足だった。

見事に地面と「こんにちは」をしたアンは、床に打ち付けられてジンジンと来る痛みに耐えながらイズミを見上げた。

まさに鬼。

「いつになったら軍の狗を辞めるんだ。あァん!?初めの約束を忘れたとは言わせんぞ!!何とか言え!!この馬鹿弟子がァ!!」

『すいませんでしたぁーッッ!!』

その間に踵を返して逃げようとするアルだったが、イズミに見付けられる。

彼女はアンを踏み付けたまま問う。

「ん?この鎧はどちら様?」

「あっ…おっ…弟のアルフォンスです。師匠っっ、あああ、あのっ」

「アル!ずいぶん大きくなって!」

イズミが手を差し出すと、アルも慌てて手を出して握手をする。

この時彼は忘れていた。どういう経緯でアンが今の状態に至っているかを。

「いやぁ、師匠も変わりないよう、で?」

直後、アルの視界は反転し、そのまま地面に叩き付けられる。

「鍛え方が足りん!」

起き上がったアルは涙を流して訴える。

「師匠具合悪いんじゃなかったんですか〜〜〜〜〜」

「何を言う!おまえ達が遠路はるばる来たというからこうして…」

突如、イズミは大量の血を吐き出し、言葉は途中で遮られた。

「無理しちゃダメだろ。ほら薬」

「うーー、ゲホ、ゴホ」

シグが眉を下げて咳き込むイズミに薬を差し出し、肩に手を添える。

「ごほごほ。いつもすまないねぇ」

「おまえ、それは言わない約束だろう」

「あんた…!!」

ひしっと抱き合う、相変わらずの惚気全開の2人に、エドとアルそしてアンは引いていた。

「え〜と………」

『…あらためて』

「お久しぶりです」

「うん、よく来た!」

『「でっっ」』

改めて挨拶をした3人。イズミはエドとアンの頭を思い切り叩いて歓迎した。











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