捧げ物

□Happy Birthday !! Silver rose alchemist !!
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例えばその日は大きな世界の戦争の中条約が結ばれた日だったり。
例えばその日は恐ろしい爆弾の実験が禁止された日だったり。
例えばその日は新しい宗教の偉い人が決まった日だったり。
例えばその日は東の果ての国で初めて映画の会社が建った日だったり。

例えばその日は
異世界のお友達の誕生日だったり。


だから今、私の隣で実の兄が白い生クリームを泡立てて居て
私はオーブンの中で膨らんでいる生地を眺めている。
「アラン、焼き上がるよ。」
「うぃ、網の上で冷めるの待ってろ。」
オーブンが焼き終えた事を知らせる音楽を鳴らすと同時に取り出す。
熱いのでタオル越しに。
網の上にひっくり返して置く、その後にそう言えば果物を切っていなかったな、と思い出して冷蔵庫を開けば苺が沢山入っていた。
その赤色の果実を取り出して、水洗いして干していたまな板の上に乗せる。
包丁を一度水ですすいでからキッチンペーパーで拭う。
「何? 苺切ってなかったの?」
アランがそれを見て若干目を見開く。
私は今ここで反省している場合じゃないな、と思って苺を二つに切り始めた。
一部を残して切り終えた頃、ケーキの元に向かうとだいぶ冷えていたので型から外す。
そこにアランが泡立てられたクリームの入ったボウルを持ってくる。

今日は誕生日。
特別な日。
御祝をしないと。

ケーキのデコレーションが出来た頃にノックが聞こえる。
「彼女」が来るには少し早い。
焦りながら覗き窓を見ると見慣れたくすんだ水色。
ドアを開けた先にはミノリがいた。
「プレゼントの準備完了。ケーキは?」
と、悪戯っぽい笑みを浮かべてミノリは聞く。
私はそれに笑顔で答えた。

全ての準備が終わった頃、ノックが聞こえる。

ミノリとアランは悪戯っぽい笑みを浮かべると、ドアの影になるであろう場所に隠れた。
「鍵は開いてますよ!! 入ってください。」
私はクラッカーの紐に指をかける。
ドアが開くと見慣れた銀色。
思い切り紐を引けばカラフルな紙帯と紙片が飛び散る。
彼女は目を丸くした。
「お誕生日おめでとう御座います!!」
彼女が状況を理解し、いつもの通り皮肉を言おうとしながら、ドアを閉めたその瞬間。
「第二波っ!!」
ミノリの掛け声でドアの影からクラッカーが二つ飛び出した。
再び驚いて目を丸くした彼女がどこか呆れたような顔をした後。
顔を真っ赤にして二人と鬼ごっこを始める。


苺がふんだんに使われたケーキの上には彼女を頑張って模した砂糖菓子。

赤いリボンで結ばれたプレゼントボックスの中身は彼女の銀色のペンダントに合わせた、いつもの彼女とは少し違った黒のワンピース。


今日はテレビがカラーになった日で、最後のギロチンが落ちた日で、永世中立国が国連に加入した日で。

私達の友達の、誕生日。

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