遠い日の約束〜完結〜

□三十六章
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茶菓子やお茶を盆にのせ、やよいは扉間が教えてくれた部屋へ向かう。
「(なんか、ドキドキしてきた;)」
部屋の前に立ち、控えめなノックをすると柱間の声がした。
「失礼します」
「おぉ!!やよい!すまないな。こちらは火の国の方々だ。」
「初めまして。うちはやよいと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
ザワッと周りは驚き此方をみてコソコソ耳打ちしている。
居心地悪い…
やよいは笑顔を崩さないよう皆に茶菓子等を置いて行く。
その間にも柱間と火の国の代表者同士で再び話し合いが始まった。
「では、この里は木の葉隠れの里でよろしいのですかな?」
「いかにも」
「では、里長は決められたのですか?」
「まだ、決まってはおりませんが、うちはマダラをと自分は思っております。」
「うちはマダラだと!?」
「それは何故に!?」
「マダラは皆が思うような冷たい人間ではないのです。冷静に周りを判断し、繊細で情が深く、里を誰よりも愛しております。自分より責任感が強い。自分はマダラを誰よりも信頼している。如何か?」
「しかし…」
「千手柱間、貴方が成れば皆も納得するのでは?」
「そなたはどう思う?」
「え!?」
やよいはいきなり話を振られ間抜けな声を出してしまった。
慌てて柱間を見ると柱間は小さく頷いた。その目は正直に言えと言っているように見える。
やよいは沈思し静かにゆっくり話出した。
「私個人としては…マダラを長に据えても問題ないと存じます。しかし、柱間に対しても同じ事は言えます。二人はこの里の長に相応しい器です。」
きっとうちはマダラの妻だからマダラを押すと思ったのだろう…
マダラだけでなく柱間も名が上がった事が意外だったのか周りはザワつき始めた。
「ふむ…この件はもう少し考慮するとしよう。次は資金の話だが我ら火の国からは全体的な軍資金の支援をさせて頂こう。」
「誠ですか!?かたじけない!!」
「しかし、此方にもある程度頂く。
売り上げの半分で如何か?」
「ちと厳しいので4割にしていただきたいのだが…」
「全体的な支援もするのだ。無理を言わないで頂きたい」
「そこをなんとか!!」
やよいはこれ以上居るのもどうかと思い席を外そうと柱間の側を通った瞬間、何かに足を取られやよいは思いっきり相手にダイブする形で倒れ込んだ。
「大丈夫かね?」
「!申し訳ございません!!」
「いや、気にするでない…にしても美しい。今宵は空いているかな?」
「…は?」
「やよいは今日空いているみたいなので、今宵の宴にでも呼びましょう」
「!?ちょ…柱間?」
「では楽しみにしていよう」
それからはまた違う話になり、会合を終えた。部屋から出る際、必ず来るように言われ、やよいは断る隙もなかった。
皆が居なくなった瞬間、やよいは柱間に詰め寄り非難を浴びせた。
「柱間!どういうつもり!?」
「ぐぇ…や…やよい、そんなに揺さぶられると…
とにかく一度部屋に戻ろう、な?;」
やよいはギリッと奥歯を噛み、柱間を乱暴に離し二人は部屋に戻った。


「なるほどな…」
事の成り行きを扉間に伝えた。
「いいチャンスだ。上手くやれば此方に有利になる。
やよいには悪いが今晩付き合って貰い再度交渉するとしよう」
「扉間まで!!私は」
「嫌だろうが里の為だ。分かるだろう?」
「でも…」
「心配するな。お前を一人にさせないし、俺達も行く。作戦もある。
兄者はマダラに伝えておいてくれ。」
「やよい!すまない!でもどうか里の為と思って、この通り!!」
「………今回だけだからね!!」
「安心しろ! マダラといい案を考えとくからな!」
「…わざと足引っ掻けてこうなるよう仕向けた人の言うことじゃないね…」
「はて?」
なんの事ぞ?と惚ける柱間に溜め息を付き、やよいはマダラを探しに部屋から出ていった。


「会合はどうだった?兄者?」
「ここ木の葉の里の長を決めるよう言われ、長にはうちはマダラをと言った」
「何だと!?」
「何ぞ?不服か?」
「勝手が過ぎるぞ!!兄者!」
扉間は柱間の机を思いっきり叩きつけた。
「マダラを長の候補として推薦するまではいい。だが、決定は火の国と里の民意を聞きつつ上役と相談して決める。
そして、うちはマダラが長に選ばれる事はまずない。
皆分かっている。里を作った立役者は兄者の方だと…
それに何をしでかすかわからぬ連中だ」
「そういう言い方はよせ、扉間!!
ん?」
柱間はゆっくりと窓に向かい開けた。
「ここに誰かいたようや気がしたぞ…お前なら分かるだろう?」
「いや…今はチャクラを練っていない。話を反らすな!兄者!!これからは民主的な運営をやっていく、異議はあるか?」
「いや、それでいい…」
柱間は手にしていた見覚えある葉がふいに綺麗に二つに切れたのを見て、心に小さな不安が過った。
扉間は話は終わりだと言うように、仕事を始めようと体を起こし扉を開けた。
「…」
視線を床に下ろすと、よく見ないとわからないぐらいの小さな血が一滴落ちていた。


マダラは柱間とやよいで語りあった里が見渡せる崖に来ていた。
自分一人だと思ってきたが先客がいた。
その先客は体をこれでもかというぐらい丸めていて、何かに耐えているようにも見える。
マダラは静かに近寄り横に座った。
「…」
「…」
敢えて互いに聞かない。
聞かずとも相手が誰で、なぜここにいるのか、どうしたのか不思議と分かっていた。

「…おい「ねぇ」」
「何だ?」
「マダラこそ…」
「俺はいい…どうした」
マダラは本当に優しいな……
やよいはフッと自然に笑みが溢れた。
「今日の夜…火の国の人に飲みに誘われたんだけど…」
「知っている。大方、柱間に仕組まれたんだろう…」
「知ってたんだ…?」
「フン…」
やよいとマダラは眼下に広がる里を眺めていた。ザッと風が吹き上げる。
「マダラ…」
「…」
「里…抜けちゃおっか」
「!」
マダラは驚きやよいを見た。
「里ってさ、家みたいなものじゃん。帰ってきたいって、心が安らぐ場所であるべきで……
我慢して、辛い、悲しい思いをする場所じゃないと思うんだ…」
やよいはマダラに微笑んだ。
「私の家に来ない?マダラ…」
「…すまない」
「マダラ?」
「お前を巻き込んだのは俺だ。辛い思いさせてすまない」
二人はどちらからともなく互いを抱き締めた。
「私…マダラに里の長になって欲しくないな…」
「何だと?」
マダラはやよいを離し見た。
不安気に揺れるマダラの目を見つめながら、ゆっくりとはっきり言った。
「マダラと過ごせる時間を奪われたくないから…」
「お前ってやつは…」
互いにおでこをくっつけ、笑った。
穏やかな時間が二人を包み込む。


「マダラは何でここに?」
「さぁな…」
やよいはマダラの服を不意に掴んだ。
マダラもやよいの突然の行動に驚いた。
「どうした?」
「マダラが…どこか遠くに行きそうだったから…」
「やよい」
「ん?」
「もし…俺が……いや、なんでもない」
「…マダラとならいいよ」
「!お前って奴は…敵わないな…」
二人は暫くの間里を静かに見下ろしていた。
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