遠い日の約束〜完結〜

□三十六章
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資金繰りが上手く波に乗り、里はまた1つ安定した。
まだまだしなければならない事は山のようにあり、皆あくせくと働いていた。
「あ!イズナ!!どうしたの?」
「やあ、やよい。兄さんいる?」
「どうした、イズナ」
突然イズナが執務室に入ってきて、柱間や扉間までが驚いていた。
「久しいの、イズナ!!体調はどうだ?」
「…」
あからさまに嫌そうに顔を歪めるイズナ…しかし柱間は一切気にせず嬉しそうにニコニコする。
「何かあったのか?」
扉間をチラリと見、マダラ、やよいを見据えながらここにくるまでの出来事を語り始めた。
「来る途中、うちはの子供が他族の者から暴行を受けていた。俺がその場を止めたけど…」
「またか…」
「一族という壁がなかなか難しいんぞ…一族に囚われる事なく、木の葉の里の民であってほしいのに…」
「兄者は考えが甘い。そう簡単に打ち解けれるはずがないだろう」
「何が言いたい、扉間…」
「言葉のままだ」
イズナと扉間が鋭く睨みあう。
「私達でさえこんなんだしね…」
「警務隊や暗殺特殊部隊をおくか」
マダラの一言に皆一斉に振り向いた。
「警務隊、暗殺特殊部隊…いいな」
扉間はマダラの意見にいち早く反応を示した。
「悪くない案ぞ!!さすがマダラ、頭が切れる!!」
「てめぇはポヤッとしすぎだ!」
「仮に出来たとしても、何処の一族も嫌がるだろうね…」
「何を言っている。言い出したうちはが担えばいいことだ。」
ガタン!!
「貴様…ふざけるなよ、どこまでうちはを!!」
「勿論、最大限の権限もくれてやる、文句あるか?」
「!!」ギリィッ…
イズナは更に扉間の襟首をこれでもかと言わんばかりに締め付け、噛み締めた唇からは一筋の血が流れていた。
「扉間!!」
「イズナ、よせ」
「しかし、兄さん!!」
「イズナ…扉間も…」
二人を落ち着かせ、不穏な空気が漂う。
「扉間、言い過ぎぞ。」
「俺は間違ったことを言っていない。うちはは千手と並び称される一族だ。他の一族にも対応できる。
相手もうちは一族と分かれば、余程の馬鹿でない限り素直に従うだろう」
「確かに、扉間の言い分も一理ある。でも、今この時点でその役職をうちはだけに押し付けるのは横暴よ。」
扉間はやよいを見つめ、溜め息をついた。
「この話は保留だ。
扉間、柱間…俺達うちはは千手と協力しているだけで、お前達千手の犬になったわけではない。勘違いするなよ」
「勿論、分かっている。」
「…」

突然一羽の鷹が部屋に舞い込んできた。足元に括られている巻物を解いてやると再び飛びだって行った。
「柱間宛みたい…」
やよいは柱間に渡し、柱間はその場で読み始めた。
柱間の顔が徐々に曇り、険しい顔になっていく。
「どうした?兄者」
「いや…」
「火影に選ばれたか?柱間よ」
「「「「!」」」」
「精々里の長としてしっかり頑張るんだな」
「マダラ!俺は」
「分かっている」
「マダラ…」
マダラは静かに部屋を出、イズナは慌てて後を追った。
やよいも柱間に祝いの言葉を述べマダラを追った。
「良かったじゃないか、皆も納得する」
「…なんでなのかの…」
「兄者?」
柱間は巻物をギリギリと握りしめ、地面を睨みつけていた。


「兄さん!!」
「なんだ」
「なんだって…兄さん、いいのかよ!!?里の長が千手で!」
「柱間はまだ信頼できる。それに里全体が柱間を長に選んだ。それだけだ」
「一族はどうなるんだよ!?」
「イズナ…気付いているだろう。同族の皆も今や俺より柱間だ。俺自身も柱間を推薦した。」
「なんだって!?どういう事だよ!?」
フーッフーッと息を荒げ、怒りからか握った拳がブルブル震え、血が流れた。
「黙っていてすまない。しかし、俺は一族の長だ。一族は絶対守る。」
「兄さん…」
「勿論、イズナ、やよい…お前達もな」
「!やよい」
「あれぇ、バレてた?」
「気配を消してもわかる。今日は帰るぞ」
やよいは走ってマダラに抱きついた。
「随分嬉しそうだな」
「だって、マダラとの時間を沢山過ごせれるんだよ!?幸せ過ぎて恐いくらい」
「なんだよ、それ…」
「ほらマダラ、イズナ!!早く帰って修行しよう!!」
「お前ってやつは…」
マダラとイズナは子供みたいにはしゃぐやよいを呆れたように、また嬉しそうに微笑んだ。


…お前の笑顔に俺はいつも救われる…


やよい達は帰るなり風呂を焚き、お稲荷さんとちらし寿司の下ごしらえをしてから三人共に庭に出た。
「先ずは組手をする。最初は俺とイズナ、次は俺とやよい、少し休んでやよいとイズナでする。いいか」
二人が頷き、やよいは下がり、イズナとマダラは互いに向かい合う。
「始め!」
合図と同時に二人は拳や蹴りをぶつけ合い始める。
互いに譲らず、凄まじい攻防を繰り広げ両者共に本気を出しているのは目を見てわかった。
しかし、イズナがマダラ相手に写輪眼なしでここまで体術ができようとは…傷を負って生死をさまよったとは思えない程の回復力だ。
イズナの目…写輪眼を直せる力が私にあったら…いや、まだ可能性はあるかもしれない。

ドカッ!!
「ぐっ!!」ドサッ

鈍い音とイズナの声でやよいはハッとし二人を見る。
僅かに息を乱しているがまだ余裕のなマダラと、地に背中をつけ倒れているイズナがいた。
「そこまで!」
やよいのその言葉にマダラはイズナを立たせやよいの横へイズナを座らせた。
「負けた…兄さん強すぎだよ」
「一族の長だからね、仕方ないよ」
二人でクスクス笑っていると、マダラがやよいに早くしろと言い、やよいはマダラの元へと駆けて行った。

「はじめ!!」
イズナの声でピンとはりつめる空気にやよいは間合いをとる。
「先方は譲ってやる、こい」
「あら、優しい旦那様ですこと。でも…」
油断大敵よ?
「!」
かなりの速さでマダラの背後に立ち拳を叩き付けようとしたが、間一髪でマダラに交わされた。
「いい動きだ。だが」
やよいの拳をそのまま掴み引き寄せ、マダラは蹴り上げた。
が、やよいは地面を蹴り、体をひねってなんとかかわした。
一気にやよいはマダラを攻めつづけ、拳や蹴りを叩きこむ。
「そろそろ俺からも行くぞ」
「!!!っ!!」
マダラの蹴りをやよいは両腕で防ぐが、速さに加え重さが半端なく骨がミシミシと悲鳴をあげる。
「どうした?終わりか?やよい」
「ふっ、まさか」
再び二人の激しい攻防が始まった。


ーーー
「いい加減諦めろ」
「っ諦め…悪いから」
「…」
フラフラと危ない足どりで立っているやよいを見てイズナも止めの合図を出すが双方動かず見つめ合う…
ジャリ…
マダラが少し動いた瞬間やよいはマダラに突っ込んでいった。
「無駄なあがきをするな」
渾身の一撃と言わんばかりの拳をマダラに難なく受け止められ捻り上げられ、鼻で笑われた。

ここだ!

やよいは捻り上げられた拳に構わず、上体をあげた瞬間ゴキンッと鈍い音と同時に激痛が走る。
あまりの痛さに顔が歪むが歯を噛みしめ、反対の拳をマダラの体に叩き込み、マダラは小さく呻き体がぐらついた。
もう一発!!と思ったが、次の瞬間にはやよいは地面に押さえつけられていた。腕の痛みで涙が滲む…
「まさか、自分の腕を犠牲にするとはな…油断した。褒めてやる。」
「ぅぐっ!!」
「あぁ…痛みで泣くお前も可愛らしいな…」
「…づっ!!この…変態…」
「しかし、躾も必要か…」
「あ゛ぐっ!!」
「兄さん!!」
イズナの声にマダラは残念そうにやよいから体を起こし、やよいを優しく抱き抱え縁側へと横にさせた。
「兄さん、やりすぎだよ。やよいも剥きになって体を犠牲にしない!」
「だって…」
「いや、さすが俺が選んだ女だけある」
「本当!?マダラ!!」
キラキラと目を輝かせるやよいに、呆れた溜め息を漏らすイズナに、優し気な顔をするマダラ。
三人は笑って一休みをした。

やよいは怪我した腕を治療し始め、イズナとマダラはそんなやよいを見つめていた 。
「やよいさぁ…今チャクラってどうなってるの?」
「ん!?ん〜…あの水も、周りにできていた果物とかなくなったから、今はこの体にあるチャクラが全てかな?」
「あとどのくらいあるの?」
イズナの声が不安気だ。きっとマダラも難しい顔してるだろう…
やよいはマダラ達を不安にさせないように努めて明るい声で話した。
「えっとね…皆のチャクラが100だとすると、今あるのはたぶん99ぐらいかな?ちなみにクラマのチャクラを抜いたらね、それを入れて考えると100以上の力かな…ん〜難しいな…」
「クラマ?」
「九尾狐の事だ」
「クラマならここだよ?」
やよいはおもむろに服をめくり、みせた。
「ちょ!!やよい、それは!」
イズナはいきなり服をめくり、臍周りの印を恥ずかしげもなく見せるやよいに顔を赤くした。
「どうしたの?!痛っ!!」
ゴン!!とマダラの拳骨をくらいやよいはあまりの痛さに涙しよう浮かべながら頭をさすった。
「はしたないだろ。考えて行動しろ」
「う…はーい…」
「もう…で?もし、やよいのチャクラが切れた時は…どうなるの?」
「私が死んで、クラマが表に出てくるだろうね…まあ、私の命はクラマに握られているようなもんかな?今もチャクラちょくちょくくれるいい友人だよ」
「忌々しい狐だな」
「こら!マダラ、そんな事いっちゃ駄目!!友人の悪口は許さないよ?」
「ふん…」
「今は大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!!あ!」
「なんだ?」
「そういえば、出産時に私自身のチャクラが極度に弱まるんだって。下手したらクラマ出てくるって言ってた」
「は!?」
「おい」
「ん?いだだだだ!!マダラ!!痛い!!」
「やよい、それいつ聞いたの?」
「いつだったか…かなり前のような…痛い痛い痛い!!頭!!」
「なぜすぐに言わなかった!!」
「忘れてたの!!すみません!痛い痛い!!」
頭をマダラの両拳でグリグリとされ、叫ぶやよいに、何も言わず呆れたように笑うイズナがおかしく、マダラも笑った。


この時からマダラが何を感じ、何を思い、何を求めていたのか私はまったく気が付かなかった。
マダラが少しずつ変わっていったのもこの頃だったように思う…

少しずつ

闇が

静かに浸食していく…
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