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□吊り橋効果なんかじゃない
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図書室で勉強していたら、いつの間にか寝てしまったらしい。

すっかり暗くなってしまった廊下を、教室に向かって走る。

部活道の生徒もほぼいないらしく、しんと静まり返った校内には、私が走る足音だけが響く。

タッタッタッタッ・・・

ヒタ、ヒタ、

タッタッタッタッ・・・

ヒタヒタ、ヒタ

タッタッタ・・・
・・・・・・・・・

気のせい・・・だと、思うけど。

タッタッタッタッ・・・

ヒタヒタ、ヒタヒタ

タッタッタッタッ・・・

ヒタ、ヒタ

タッ!!

・・・・・・・・・

足を止めて、耳を澄ます。
まさか・・・ね。

・・・・・・

ヒタ、ヒタ・・・

「!!!!」

ダダダダダダッ!!!!

弾かれたように、私は走り出す。

私が走っている方向に、例の足音もついて来る。

わーわー!ちょっと待って、ほんとに!
私、霊感なんてないはずなのに!

暗い校内の景色が、まるで私を絡めとるみたいに迫ってくるようで、一気に恐怖心が増していく。

足音のヒタヒタが、こころなしか大きくなっているようにも感じる。

頭の中で「わーわー」言いながら、私は教室に飛び込んだ。

案の定、教室の中は真っ暗。

私は慌てふためきながら、教卓の下に潜り込んで息を潜めた。

ヒタヒタ、ヒタヒタ、ヒタヒタ。

・・・近づいてくる、例の足音。

ヒタヒタ、ヒタ。

・・・教室の前で止まった。

ガラガラガラ。

!!!・・・入ってきた!!

ヒタ、ヒタ、ヒタ、ヒタ・・・

足音が、ゆっくり迫ってくる。
ああ、もう、だめだ・・・

ギュッと目をつぶって覚悟を決めた、その時。

「何してるんですか?」

話 し か け ら れ た 。

「わぁぁぁぁぁ!!!」

「わっ!」

叫びながらのけぞり、思い切り頭を教卓にぶつける。

声の主も驚いてよろけている。

「あ、あれ?奏くん?」

「びっくりしましたよ、本当に・・・大丈夫ですか?」

そう言いながら白い手袋をした手を差し出してくれたのは、まぎれもなく奏くんで。

「あ、や、あ、はい。ありがとう・・・」

それまでの恐怖と、一気に訪れた安堵とでうまく言葉が出ないまま、そっとその手を取る。

手袋越しでも、しっかりと体温を感じられるその手に、安心感を覚える。

「ごめんね、幽霊かと思っちゃって・・・」

「失礼ですね」

「だから、ごめんってば。暗くて怖かったんだよ」

「まあ、いいですけど。こんな遅くまで残ってるなんて珍しいですね」

「あ、勉強しに図書室に」

「それも珍しいですね。それにしても、こんな時間まで・・・よほど集中してたんですね」

「あ、いや、実は寝ちゃって・・・気がついたらこんな時間に」

「・・・はぁ」

私の答えに、気の抜けたような呆れたようなため息を漏らす奏くん。

あ、正直に答えなきゃ良かった、なんて一瞬思う。

「そ、そういう奏くんは?」

「俺は、委員会の資料をまとめるのに時間がかかってしまったので」

私の手を掴んで、そのまま片手でグイッと引っ張り立たせてくれる。

繊細そうな見た目なんだけど、結構力あるんだよなぁ。
腕とか、割とたくましいし。

「?どうしました?」

じっと、奏くんの腕を見ていたら不思議そうな声でそう聞かれた。
あわてて手を離し、視線を外す。

「いや、なんでも・・・」

「そうですか」

すっと私の脇を通って、自分の席に向かう奏くん。
鞄にササッと荷物をつめて、スタスタと教室を出ていく。


・・・と思いきや、ドアの前でぴたりと止まり、こちらを振り向く。

「何してるんですか?」

「え?」

「帰らないんですか?」

「あ、帰ります」

「じゃあ、早くしてください」

「?」

「だから、帰りますよ。・・・一緒に」

「!」

言ったあとに、ちょっと下を向いた奏くんの耳が、ちょっと赤くなっている。

私の耳も、多分今同じなんだろうな。




(吊り橋効果なんかじゃない)

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