書庫

□僕が貴方を望むから
3ページ/4ページ











僕の憶測は多分間違っていない筈。これが壮大なドッキリであったなら話は別ですが。それもまた有り得ない話。ここが異世界と言うなら、色々説明が付くのですから。




必然でも偶然でも何でも良い。ただ今はそうでしか説明が付かないと言う現実があるだけなんです。








「…ならお前はこの世界(ここ)とは違った場所から来たとでも言うのか?」


疑いの目で見つめられる。ただそれでも…


『それが妥当かと。頭の可笑しな奴とでも思って貰って結構です』









残念ながら考えれば考える程、そうとしか思えない。でもこれは多分体験した人間だからこそ納得出来る様な物ですよね。そうでなければやはりどう見たってイタい奴だと思うでしょう。だって僕なら絶対そう思いますもん。



ぼへーっとそんな事を思いながら、男性の方をチラリと盗み見ると眉間に皺を寄せて何かを考え込む様な仕草…をしたかと思えば



「ちょっと待ってろ」



短く言い放ち部屋を出て行った。




僕の言った通り頭の可笑しな奴とでも思ったのでしょうか。だとしたらお医者様でも呼びに行ったのでしょうか。











彼の目は少し僕に似ていた様な気がした。暗くて闇を映す様な目。世界を見限った目。鏡の中の僕はいつもそんな目をしてた。そして彼もまた。でも一つ違う。たった一つ。されど一つ。彼にはきっと明確な''生きる意志''がある。暗い目に強く、ギラリと光るもの。何となく生きてしまっている僕とは全く別の生き物と言えるくらい違う。そんな彼が少しだけ羨ましく感じたのは、多分気の所為じゃない。













物思いに耽っていると、先程出て行った男性が戻って来た。手には一冊の本。とあるページを開いてそれを僕に手渡してきた。


『コレは?』


「読め」







完結に且つ命令形。俺様で無駄を嫌うタイプ、なのでしょうか。あ、でも船長さんだと言ってましたもんね、命令形は彼にとっての普通なのかもしれません。




渡された本に視線を落とせばそこに書かれていたのは…









【彼らは世界を知らないと言う。
だけど僕らは彼らと言葉を分かち合う。
彼らは世界を知らないと言う。
だけど僕らと彼らは共に生きて行ける。
彼らは世界を知らないと言う。
だから彼らは元の世界に恋い焦がれる。
それもその筈。だって彼らは…
異海人】






『……異海人?』


「違う世界から来た、そういう奴が過去存在したらしい。たかが噂、たかが戯言だと思ってたが、どうやら真実(ホントウ)らしいな。実物を見たなら疑う理由は無ェ」






先程までの疑いの表情から一転。今度はニヒルな笑みを浮かべている。この人綺麗な顔しているから妙に絵になる。と言うか…





『何故信じるんです?僕が嘘を付いてるとは思わないんですか?』


「嘘なのか?」


『いいえ』


「フン、嘘かどうかは俺が決める」








変な人ですね、こんな話を信じるなんて。



疑って欲しい訳では無い、だからと言って信じて欲しい訳でも無い。そもそもあまり興味が無い。ただ自分なら信じないだろうと思うから、信じる彼が不思議ではあった。





「それよりお前、これからどうするんだ。行く宛あんのか?」




ガラリと話を変えてきた男性。正直今の話から僕に行く宛てが無いのは明白。それでも態々聞いてくるのは…









選択を与えられているのか


それともただの嫌味か


はたまた別の理由か









『あると思いますか?まぁ、このままこの船に乗せてくれ、と言うのは迷惑だと分かっていますから。…そうですね。なら…』








ここは異世界。来た理由は分からない。戻る方法も分からない。別に戻りたい訳でも無い。だからと言ってこの世界に居たい訳でも無い。そんな僕に残された道は2つだけ。











生きるか



死ぬか
















この2つの選択肢、僕は迷わず選ぶ。










選んだそれに最上級の微笑みを添えて僕は言う。











『その刀で一思いに殺して頂ければ有り難いです』


「⁉」


『痛いのは苦手なので、首を刎ねて貰えると嬉しいです。…あぁでも、刀を汚してしまいますね。甲板まで案内して頂ければ海に身を投げましょう。苦しいのは避けたいですが、立場上あまり我が儘言えませんからね』










得体の知れない物を見る様な目で見つめられる。とても居心地が悪い。でもね?これが一番合理的な答えだと思うんですよ。








僕が今まで居た場所は至って平和で、平々凡々とした場所。だからこそ僕の様な子供が一人ふらりと姿を消せば、やれ誘拐だ、やれ殺人だと大騒ぎだ。だから生きてた様なもの。








物心付いた頃に近くに居たのは祖母と思しき人物だった。必要最低限の面倒は見てくれた。自分の事は自分でやる様にと教育された。ある程度の歳になる頃には自分で生活できる様になった。その頃から祖母は僕に関わらなくなった。そしてふらりと姿を消した。しばらく経って育児放棄の肩書きを纏い警察のお世話になって帰って来た。その時彼女はこう言った。


''なんで私がこんなガキの面倒を見なくちゃいけないんだい''


この日を境に僕は親戚中を盥回しにされ出した。親戚達はみんな僕を押し付け合っていた。僕は両親の顔も名前も知らないけど、言い争う彼らの言葉を聞いて碌な人達では無かったんだなと漠然と思った。


''なんであんな女の子供を預からなきゃいけないのよ''
''嫌よ、あの女とは関わりたくない''
''男はさっさと国に帰ったらしいぜ''
''面倒見る気が無いなら産まなきゃいいのに''
''可哀想に、誰にも望まれないなんて''


結局何処の家に行っても腫れ物の様に扱われた。最低限の面倒は見てくれた。何処の家も世間体を気にするのは同じだった。だから僕は出来るだけ迷惑にならない様に気を付けた。泣かない、我儘言わない、言い付けを守る。それでも最後に言われたのは…


''子供らしくない子供ね、気味悪いわ''

じゃあ子供らしくすればいいの?

''家の子でも無い癖に図々しいガキ''


結局何したって気に入らない様だ。八方塞がり、残念ながら詰みだ。身の振り方を悩んでも仕方ない、だって身を振る余地も無いのだから。いっそ家出でもしようかとも思ったけど、子供の足で行ける所なんて限界がある。速攻補導されて強制送還が良いところ。いっそ死んだ方が楽そうかなとも思ったけど、世間体を気にする彼らにとっては迷惑極まり無いだろうと断念。なんだかんだで生きるしか道が無かった。













そんなこんなで出来上がったのが今の僕。









「…随分潔いじゃねぇか。未練の一つも無ェのか」


理解出来ない、まるでそんな顔。


『未練?有りませんよ、そんなもの。元の世界(あっち)にも勿論この世界(こっち)にも。僕にとっては希望も無ければ絶望も無い世界でしたから』




希望が無ければ絶望も存在しない。その逆もまた然り。そして恨みも憎しみも持ち合わせてはいない。だからこそ期待も希望も無い。そんな僕だから、ホラ…
































こんなに上手に笑える。







.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ