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□黄金の自由戦記
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*黄金主視点









ガキィンッー







耳を劈くような金属音と己の小太刀から伝わる衝撃に思わず顔が歪んだ。それは振り向く間も無く首を飛ばす様に襲いかかってきた刃を防いだ結果だった。

一体なんなんだ、出会い頭に一撃?なんの恨みがあって?俺なんかした?心当たりが無いとは言い切れない辺りがなんだかちょっぴり悲しかったりするけど…でも流石に無いだろ、出会い頭に一撃とか…いや言ってしまえば出会い頭ですら無いのではないだろうか?だって背後からの一撃だもの。出会ってすらない。

一方的な攻撃の出所を確認する為に振り返れば、この時代誰もが手配書で見た事くらいはあるのでは、と思うであろう顔を視界に収めた。そうすれば相手も俺を見つめていて、バチっと目が合えば目の前の男は目を見開いた。まぁそんな事はどうでも良くて。兎に角、だ。俺はこの男に対して何かしただろうか?いいや、していないだろう(反語)。






「…鷹の目…じゃない?」


『間違える要素が一体どこにあるんだ』


「…ふいんき?」


『"雰囲気"だ。ってそうじゃない。雰囲気なんぞで首を飛ばされたなんて洒落にならん。偶々防げたから良いもののこれは完全にお前に非がある。だから俺は慰謝料を要求する。金を寄越せ。はよ』


「流れる様に慰謝料請求をされてる⁉」







無理もない。寧ろ俺は正論しか吐いてない。俺は被害者で目の前の男は加害者なのだ。慰謝料くらいでガタガタ言わないで欲しい。こちとら金欠極めてるんだ。常に金品を要求していくスタンスです。例えその相手がこの時代に置いて四皇だなんて大層な肩書きを持った相手でも、である。言ったろ?俺金欠なのよ。






「ベック!ヤベェ!人違いだった!」


「ああ⁉」







振り返る様にしてそう叫んだ男に対して、返事をした男が駆け寄ってくる。なので賺さず慰謝料請求。スタンスは崩さない。





『あ、保護者の方?殺人未遂的迷惑罪で慰謝料を要求します。金を出せ』


「…鷹の目?」


『え?無視?ウソだろ?』


「ではないな…お前誰だ?」


『俺が被害者だって理解てしくんね?』






ハッキリ言って全くもって言葉のキャッチボールが出来ていない件について。イラッと来て未だ引かれない剣を防いでいる俺の手に力が篭ってしまうのは最早不可抗力。つかどいつもこいつも鷹の目鷹の目って…鷹の目大好きかよ!残念人違いでしたー、ザマァ。

そんな俺の心の声が届いたてしまったのだろうか。ガチャリとライフルを突き付けられました。え?俺が悪いのか?突然襲いかかって来たのそっちじゃん?俺被害者だぜ?殺人未遂的迷惑罪もう一件追加するぜ?しちゃうぜ?ええの?






「答えろ。お前は誰だ?」


『人に名前を聞く時はまず自分から名乗るのが一般常識というものでは?』


「…ベン・ベックマン」


『知ってる。四皇赤髪の副船長。俺はしがない旅人で名前は葉月。よろしくついでに慰謝料はいくら程取り立てて良いだろうか?』







再び言おう。スタンスは崩さない!



そんなこんなしてれば遠くにいたであろう赤髪海賊団クルー2人がこの場に到着。うん、両方とも手配書で見たことある顔だ。流石は四皇の船。みんなお尋ね者ですね、分かります。






「なんだ?なんだ?ケンカか?」


「おう、鷹の目じゃねぇか!…ん、鷹の目?」


「似てるが別人ぽいな」






またもや鷹の目か。もう聞き飽きたわ。そんな事してればベン氏から溜息が聞こえた。あれ?溜息つくなら俺じゃね?え?違うの?あ、やっと銃下ろしてくれたな。それに習う様にこちらも剣を下ろしてくれた赤い髪。うんうん、これで俺も小太刀を仕舞えます、よかった、実はドキドキしてました。え?ウソっぽい?気のせいじゃない?




「俺はシャンクスだ!おい、葉月!お前鷹の目の息子か?息子がいるなんて話は聞いた事無ェぞ!」


『取り敢えず慰謝料請求しても?』


「…お前会話する気ある?」


『無い』


「オイッ!」


「葉月と言ったな。何処かで飯でも奢ろう」


『流石副船長話分かるな。俺あそこのメシ屋が良いんだけど』


「いいだろう」







やった、タダ飯ゲット。喜び。そして赤髪クルー4人プラス俺でメシ屋に入ればメシ屋の客はいそいそと店を出て行く。これ知ってる。営業妨害だ。すまんマスター。ここでメシ食いたいと言った俺が悪かった。でも大丈夫、俺が一杯食うから。あの客達の分まで。売り上げに貢献しますよ。勿論コイツ等の金で。





『取り敢えずこの辺の全部、あと酒』





店のメニューを指差して注文。遠慮?何それ美味しいの?そして俺が万年金欠の理由は主にコレ。良く食べ良く飲む。はい、分かりますね?お金が掛かります。エンゲル係数が高い故の金欠だ。




「それじゃあお前の話を聞かせてくれ」


『なんでもどうぞ?』






ほれ、聞いてみ?くらいのテンションで促す。物語の主人公みたいに壮絶な過去があったり、チープな不幸自慢が出来る様な過去も無い。つまり聞かれて困る様な事は何も無いのだ。






「お前は誰なんだ?」





ベン氏よ、最初の質問それ?それさっき答えなかったか?






『葉月。旅人』


「鷹の目の息子か?」


『さぁ?俺は生まれてこの方父親の顔を見た事が無いから否定も肯定も出来ん』


「出身は?」


『イーストブルー』


「年は?」


『21』


「母親は?」


『死んだ』


「…もう一度聞く。お前は誰だ?」


『葉月。旅人』






なんでもう一度聞いた?何度聞いた所で特に変わる事は無いんだが?ベン氏の溜息を尻目に料理を頬張る。美味い美味い。そんな俺はこの質問大会最早尋問大会じゃね?なんて突っ込みはしないぞ、ゴチになってるからな。タダ飯サイコー。





「なぁ、お前はなんで旅人なんてしてんだ?」





ベン氏に代わって聞いて来たのはシャンクスだった。




『定住地を探してる』





美味い物が多い島が良い。高級志向も良いがB級グルメも捨てがたい。




「何で元居た島を出たんだ?」


『…』





根掘り葉掘りと尋問が続く訳で、勿論俺がメシを食べる手も続く訳で。まぁさっきも言った様に聞かれて困る事は無いが色々と説明するには時間が掛かるだろう。ん〜何処から説明したらいいんだ?





「!あ〜、言いたく無ければ言わなくて良い!」




ハッとした様に静止を掛けられた。もしや言い辛いかと気を使われた?いやまぁそれで説明が省けるなら俺としては楽なので…このまま放置でいいかな?とか思う反面俺の無け無しの良心がこんなにもメシを奢ってくれた、というか奢ってくれている(現在進行形)相手とは真摯に向き合う可きであると囁いて…居なくも無く無く無い様な?ん?言ってて分からんくなったな。





「悪いな、別にお前を詮索したかった訳じゃねぇんー」


『母親が死んだからだ』


「「!」」








真摯に向き合えと言った。俺の無け無しの良心が。メシを食わしてくれるヤツに悪いヤツは居ない!…なんて本気で言う様な馬鹿であるつもりは無いが、まぁ目の前の奴らがそれ程悪い様な奴らにも見えない訳で。べ、別に食い物に釣られてる訳じゃねェから!






『俺の故郷の島の女は殆どが娼婦で俺の母親も例外じゃなかった。そんで俺の母親は巷じゃ噂の妄言女でな、島連中からの風当たりが強くて数年程前に病気に掛かった際誰も手を差し伸ばす者は居らずそのまま死んで行った。だから俺としては島で生きる理由が無くなったんでな、島を出た。さっきも言ったが今は定住地を探してる。だから旅人』





妄言女と遠巻きにされた娼婦の子供は矢張りと言うべきか遠巻きにされた。つまり俺はハブられ系男子だった訳だ。まぁ別にどうでも良かったが。ただ俺としては早々に島を出る事自体は決めて居たがいかんせん母親を1人残して行くのは心配で出来なかった。だが母親が死んだとなれば話は別だ。弔って墓を建てて颯爽と島を出た。生きた母親を置いては行けなかったが死んだ母親に執着する程でも無かった。そして俺は美味しい物が溢れるであろう外界に意気揚々と繰り出したのであった。完。あれ、終わっちまった。





「…悪いな、喋らせちまって」


『別に構わん』







ゴチになってっからな。ここ重要。というか空気が重くなったと感じてるのは俺だけじゃないだろう、絶対。え、何?俺可哀想な子認定でもされた?されちゃった?一体どの部分で?金欠以外でなら俺はこの旅を中々に謳歌していると言っても過言では無いくらいには楽しんでるが?





「じゃあお前は鷹の目とは関わりは無くて、本当に他人の空似って事かぁ〜!」




重くなった空気を吹き飛ばす様にそう言ったシャンクスに周りのクルーも「空似でこんなに似た奴居るもんなんだな〜」なんて言ってる。(意外とシャンクスは空気を読める男なのかもしれないと思った瞬間だった)それに対して『まぁな』なんて返してから、あ、でも、と思い当たる俺と鷹の目と呼ばれる男の唯一の関係、と言う名の記憶を思い出す。







『"貴方は私とミホーク様の愛の結晶よ"と母親には言われたがな』






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