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□今からお前は俺様の継子だ!
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鬼殺隊"音柱"宇髄天元は任務を終えて帰ろうと山の中を木々を伝う様に駆けていた。その途中に宇随は音を拾った。どうやら鬼と対峙中の隊士が居るようだ。


音の方向に向かって駆ければ、それは簡単に見つかった。





一人の隊士と一体の鬼。





そして、隊士の背後にはどうも腰を抜かしたのか、座り込んで怯えている女がいた。どうやら庇いながら戦っている様だ。





宇髄は直ぐに加勢に入る可く準備をした。鬼殺隊の中でも最強と言われる柱という階級に位置する宇髄。十二鬼月でも無いただの鬼など大した敵ではない。



だが宇髄はピタリと動きを止めた。









"音"がおかしいのだ。









元忍である宇髄は非常に聴力が優れていた。人の心音を聞き取る事が出来、そこから人の感情の変化を察知する事も出来る。故に、音に違和感を覚えた。






女からする怯えの音。


鬼からする興奮の音。













隊士からする凪いだ音。












これは余りにも不自然な状況だった。










女が怯えているのは分かる。一般人だ、鬼を目の当たりにして怯えない訳がない。鬼が興奮しているのも分かる。人を喰う鬼だ、人を殺す事を楽しむ鬼など珍しくもない。ではー










「(アイツは何だ?)」












一応は構えている物のその姿は何処か隙が多く、階級も大して高く無い隊士だろうと予想できる。なのになんでこうも音が凪いでいるのか。



鬼に対する感情が一切無い。



劣勢を思わせる焦燥も動揺もない。かといって余裕や傲りも無い。人ならば有るべき感情の起伏が余りにも無い。そんなのはー










普通じゃない。










この時宇髄はいつでも鬼の頸を斬る事が可能だった。だが、動かなかった。助けに入らなければという思考よりも、可笑しな隊士への好奇心が勝ってしまったのだ。











「鬼狩りよ、足掻いても無駄だ!後ろの女諸共喰ってやろう!」




高らかに喋る鬼にもやはり隊士の心音は凪いでいる。表情も変わる事無く、ただジッと鬼を見詰めるのみ。きっと鬼には分からないだろう、いや、宇髄程の聴覚を持たねば分からないだろう。








その隊士の異常さなど。








「だが俺は品のある鬼なのだ!食事だってそうさ!がっついて貪る様な真似はしない!ー




細切れにして上品に食してやろうではないか」







鬼の周囲で風が音を立て出す。鬼の血鬼術の様だ。それは空気を切り裂く様な鋭い音。






「(マズいな…)」







隊士は女を庇いながらの戦いだ。階級も低く単独の一般隊士には少々荷が重い。流石の宇髄も見学はここまでかと飛び出す為に体に力を込めた。








だが、またしても宇髄は動きを止めた。









「(この状況でも音変わんねェのかよ…⁉)」








鬼の血鬼術で生んだ風は無数の刃となって隊士を襲う。



隊士はただ静かに刀を構えるだけだった。




ドドドドドドッ‼‼










激しい豪音と共に鬼は高らかに笑った。





「ふははははは!いい感じに細切れになってくれたか?…嗚呼ッ!人間の血の香りだ!良い香りだ!やはりまずは香りから楽しむというのが乙だろう!」



鬼の血鬼術により土埃が上がり隊士と女の状況は見えない。ただ鬼は血の匂いに気付き、恍惚とした表情で嬉々として語る。



「さぁ…どの部分から食そうか!」












この時宇髄は体の力を抜いた。





勝負が付いたと。







何故なら、女の怯えた音も、相変わらずの凪いだ音もー










消えていない。













土埃が舞いまだ視認するには難しいが、鬼は血の匂いが誘う食欲から待てずに近づいた。そうー









近づいてしまった。












次の瞬間ー








ザクッ!











鬼の頸が飛んだ。



「…がッ……なん、だと?」










土埃に円形の穴が空き、巻き捨てる様に霧散した。そこに居たのは頸の無い崩れ出した体と未だ怯える女だけ。隊士は鬼の背後から少し離れた所に立っていた。









「(…決まった。にしても今のは雷の壱…か?それにしちゃあ随分と…)」



宇髄は少しの疑問を残したが、聞けば分かると一度放棄した。そんな宇髄は、普段しないような行動をしてしまった事に妙な疲労感を感じながら、可笑しな隊士に声を掛けようとした。









その時だったー








「クッソォォォッ‼‼鬼狩りめェェェ‼‼俺の食事を邪魔しやがってェェ‼‼殺す、殺すッ、殺すゥ‼この女だけでも殺してやるわァァァア‼‼」




既に頸を斬った筈の鬼の咆哮に宇髄は"しまった"と焦る。鬼の頸は切れている。体も崩れ出している。だが、まだ"崩れ切って"はいないのだ。



崩れ掛けの体だけになって尚も腕を振り上げ、女だけでも殺してやろうという鬼の執念だった。



隊士は技の影響で鬼から数歩離れた場所に居た。宇髄は見学と称してもっと離れた場所に居た。



宇髄は乗って居た木をダンッと思い切り蹴る。恐ろしい程の踏み込みに木は砕け散ってしまった。故に踏み込んだ力の全てを体に乗せきる事ができなかった。









「(間に合わねェ…‼)」









そんな焦った宇髄の存在など露知らず、隊士は静かに呟いた。












『外伝"炎舞"』












納刀のカチンッと言う小気味良い音が鳴った瞬間、斬った鬼の頸の断面からゴウッと炎が燃え上がった。










「⁉」


「アッ、熱い‼熱いッ、熱いィィィ‼‼熱ッ…………」



燃え上がった炎は一瞬にして鬼の頸と体を燃やし尽くした。風が僅かな灰を攫えばもうそこには鬼の跡形も無い。
















『下品な叫び声っスね…』



ボソリと呟く様に落とされた言葉はもう居ない鬼に向けての言葉だった。






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