Novel

□愛の囁き *
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【 愛の囁き 】


「…今度の金曜って空いてるか?」

「空けます。」

「や、空いてたら、だけど…」

「空けます。」


俺が貴方の誘いを優先しないとでも?
そんなまさか。余程仕事か何かじゃない
限り、そんな事はあり得ない。

俺が貴方の誘いを棒に振るなど。


「…いいよ、また今度で。
先の約束を優先するべきだ。」

「俺の誕生日でしょう? 俺のしたい事
優先したい。…それがダメ?」

「…お前なぁ…。誕生日、だからだろ。
お前が行かなきゃ意味が無い会になる
なんて事、させちゃ駄目だろ。」


オトナ顔で、溜め息混じりに諭される。
そんな貴方も好きだけど、でも今日は。


「…貴方は?」

「ん?」

「貴方は俺が居なくても平気?」

「ば…っ、……俺とはいつでも会える
だろ。…その、夜中でも何でも。」

「そんなんでいいの?」

「女の子じゃ無いんだから、男同士が
誕生日だからってべったり2人っきり、
ってのもどーかと思うぞ?」

「…俺が貴方と居たい、と言っても?」


食い下がる。
貴方の愛の言葉が聞きたくて。
貴方がとても理知的で、周りの人の事や
仲間内の雰囲気を何よりも大事にしてる
人だと知った上で。
…俺を求めて欲しくて。


「…………お前なぁ…。」

「それでも?」


ふぅ、と溜息。


――あ、ヤバい…呆れた?

俺の子供の様な独占欲。それを貴方にも
示して欲しくて、あまりに子供じみてた
から。

ヒヤリとする。

近くなった彼との距離。
俺の事を意識して、カラダも許し、俺を
俺のこの気持ちを受け入れてくれるの
知ってる。

それだけで満足するべきだった?
…そうは思ってたんだ。

他の人を見ていた貴方に…あんなにも
その人ばかりだった貴方に振り向いて
貰えただけでも充分って。

だけど何時しか貪欲になってた。
少しでも俺の事を欲しがって欲しいって
少しでも俺と居たいって…思って欲しい

そんな事を。


「…なんて顔してんだよ。」


しょうがないなぁ、って貴方が笑う。
俺がどうしようもなく好きなその笑顔で
俺のどうしようもない執着をそんな風に
笑って受け止めて。

この劣情さえも。


「…来いよ。甘やかしてやる。」

「誕生日は…?」

「誕生日の分も。」

「……。」

「あのな、お前は俺とは今年だけだと…
思ってる訳?」


なんて爆弾発言。
そんな事思う訳ない。
言っても欲しくない。
言霊を信じる訳じゃないけど、言って
本当になんてなったら嫌だ…っ!


「そんな訳ない!」

「…だろ? 先は長いんだからさ。
周りに歪(ひず)みを持たせ無くても、
俺らはゆっくり会えるだろ?
…互いが会いたいとさえ思ってれば。」


――『互い』が…?

つまりは『俺』と同じ様に『貴方』も
会いたいと思ってくれてて、それは
互いにこれからもずっと…って、思って
くれてるって事?


俺はもうその言葉だけで堪んなくなって
彼ににじり寄り…抱き締める様にして
抱きついた。


「ヨシヨシ。」


苦笑しながら俺の頭をクチャクチャに
撫で摩(さす)る彼。

チラリと横目で見れば嬉しそう。
…どう見ても。

貴方のこんな顔、させてるのが俺だと
思えば…嬉しくてしょうがない。

貴方の笑顔はどれも俺の大好物でつい
気を許すとムラムラと来てしまうもの
だけど、この笑顔はその中でも最強。


「……ちょ…お前、何盛ってんだよ!」


ピッタリと密着して抱きついた体勢では
反応した俺のは隠し様が無く。

ギョッとした様に俺を引き剥がそうと
する彼。彼のそんな様子に焦れて。


「金曜の埋め合わせ。」

「おま…っ」

「ダメ?」

「そ…っ、何時からお前、そんな
甘えっ子キャラになったんだよ!
…もっとクールな奴だったろ!」

「…こんな俺は嫌?」

「…っ、ったく…。」


そうして彼はまた俺を受け入れてくれる
のだ。この甘やかな溜息と共に。

素直じゃない、愛の囁きに代えて。



*
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