本
□口実
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「今日本屋さんに寄る予定だけど、一緒に行く?」
「ううん、今日は残りの絵を仕上げたくて、放課後先生の所に行くって予定になってるから。ごめんね。」
両手を目の前で合わせ、なるべく申し訳ないような顔で目の前にいる友人へ、私はそう告げた。
「熱心だねぇ。じゃあ、仲良くね。」
「そんなんじゃないんだって、本当に。」
彼女は私を少し茶化すような感じでそう言うと、ひらひら、と手を降って私に背中を向け、長い廊下を歩いて私から遠ざかって行く。
さて、私もいかなくは。
私もくるり、と方向転換をし、友人とは反対方向へ向かって歩き始める。
私は今から、「有村先生の待つ美術室」 へ向かわなくてはならない。
"向かわなくてはならない"のだ。
二度も同じ台詞を言ったのには勿論意味がある。
大事なことは二回言えと、母によく言われたものだ。
ニュアンスで分かるとは思うが、今日の居残りに関しては私が自ら進んで申し出たものではない。
正直に話すと友人に茶化されそうだったので当たり障りのない嘘を理由にし、誘いを断ったのだ。
自分で言うのは何だが、私は真面目な性格で、一度やり始めたことは完璧にして終わりたい。
なので美術部に所属している私は、週に三回は居残りをし、自分が手掛けたデッサンを抜かりなく黙々と仕上げている。
それがなんと今日は週四回目の居残りなのである。
今日は早々と帰宅して、読みかけの小説や漫画を読むというプラン、なんなら書店に立ち寄り先程の友人と楽しいJKライフをエンジョイしていたかもしれない予定があったのだ。
はぁ、と深い溜め息を吐き、目の前にある扉を睨んだ。