BJ

□記憶の螺旋を紡ぎ合わせて
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それは、雨が降る6月の事だった。
じめじめと肌にまとわりつく感じの雨が、
朝から降っていた。
私はピノコに淹れてもらった珈琲を飲みながら、TVを付けて見ていた。
『日本は平和ですが、世界では平和では無い国があるのが現状です。今でも銃などの装備を持って、生きるために戦う子供たちがいます。………』
今なら、紛争として取り扱われるが。あの頃は、私がまだ医学生だった頃は、戦争の真っただ中だった。

ベトナム戦争。1960年12月から1975年4月30日まで続けられた戦争。
あの頃の私は、ただ藪さんを探しに向かっただけだった。けど結局戦争に巻き込まれて。救えたはずの命を、失った。己が未熟だったため。………いや、あれは違うのか。戦争がいけないんだ。地雷は、戦争が無ければ生まれない。
そう言えば、あの時にキリコに会ったんだな。登場の仕方でも驚いたが、手術をしている時も驚かされた。あの状況下であのテクニックにも驚かされた。
………まさかアイツが、時を経てあんな医師になっているとは。あの頃の私は思わないだろうな。あの頃は、ちゃんと人を助けていたのにな……。何故奴は、死神と呼ばれるようになってしまったのだろうか。まあ、別に私には関係の無い話だな。

今でも人が傷付く。戦いと言う物で。しかもそれは、終わりが無いもの。どちらが負けを認めない限り、終わらない戦い。もしも、あの子を失っていなかったら。私はそう言った場所に行っていただろう。少しでも良い。多くの命を救いたいと。



「ちぇんちぇー。もう!聞いているの?!」
「ん?」
「お客さん!」
誰だ?こんな雨の日に………。マグカップをテーブルに置いて。玄関へと向かった。

「………キリコ」
「近くまで来たから、寄って行こうかと思ったんだが。………邪魔そうだな」
「……いや、良い。上がって行け」
私が珍しくキリコを家に入れた。


「珈琲で良いだろ?」
「ああ」
キリコにマグカップを渡して。TVを見るキリコ。
「………紛争、か。色々と思い出すな」
「お前さんもか」
「ああ。嫌でもな。…あの頃のお前は、まだ医学生だったよな」
「ああ」
「確か、一人称も違っていたな。俺、と言っていたし」
「年が重なれば、一人称も変わるさ」
ふふっと笑うキリコ。
「………髪、切ればどうだ?」
「いや、いい。………昔の自分とは、決別したからな」
「………」
俺は、まだ出来ていない。失い過ぎから、かもしれない。
「………」
「お前らしくない顔つきだな」
「………雨のせいだ」
俺がため息を零した時だった。
「ねえちぇんちぇーにキリコ。クッキー焼いたから食べて欲しいのよさ!」
ピノコがお皿に乗った、手作りクッキーを持って来てくれていた。
「いつの間に?」
「朝からなのよ!」
ああ、だから色々とやっていたのか。成長したなー。
キリコが一つもらって食べていた。
「へぇー。上手いじゃないか」
「でしょー?自信あったのよ!」
俺も一つもらうか。
「確かに上手いな」
「キャー!ちぇんちぇーにも喜んでもらえた!」
全く。そのままキッチンの方へ行ってしまった。
「此処はいつでも平和だな」
「まあ、そうだな」
こんな平和が、永遠に続けばどれだけ楽だろうな。
「さて、と。俺はそろそろ行くか」
「仕事か?」
「ああ。ありがとな」
キリコを玄関まで見送って。


俺はTVを消して、窓の外を見つめていた。

もしもキリコが心を入れ替える日が訪れたら。俺と共に、同じ道を進んでくれるだろうか。


















END

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