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□9.ゴシップ
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未遭遇9








麦わらの船へ戻るには、それから何日か航海しなければならなかった。

それに気づいてぎくしゃくした二人は、互いにおそるおそる距離を縮めた。
物理的にも、心理的にも。

サボが、背後からナミの肩に唇を寄せた。
ナミはぴくりとして男を振り返る。

「あ...ちょっと待っ...」

柑橘の香りを堪能するように目を閉じていたサボは、至近距離でナミを見つめた。

「どうした?」

「....あの」

真っ赤になって言い淀むナミが可愛くて、心臓の鼓動がうるさい。

「シャワー!浴びたいの!先に」



ーー先に。



それで、恋が猛烈なスピードで走り出してしまって。

髪を乾かす間も惜しく、気付いたら唇を貪りあっていて、気付いたらナミのその肌から離れられなくなっていた。
シーツや着替えを清潔にしておいて良かったとサボは思った。
手をつないで眠って、たった数日で、別れの時が来るのが怖くなってしまった。お互い。



だからと言って、船を進める手を緩めないのがナミだと、サボはこの数日で実感していたけれども。

「火力が、弱くない?」

ずりずりと動くビブルカードをかざしながら、振り返りもせずにナミが言う。
少しでも一緒にいたくて速度が出ないようにしていたのがばれたのか。
指摘された時はぎくりとした。
5分後に来るサイクロンを避けろと言われた時も。


吸いつくようなきめ細かい肌。
洗練され整った顔。
手配書を見て、ルフィの仲間に綺麗な子がいるな、と思ったことはあったけど。
こんな魅力的な写真だと、もちろんやましいことを考える男もいるだろう。
そしてそれは現実だったようだ。
気持ちはわかるが、ナミに触れてしまった今、手配書のあの写真は即刻取り下げてもらいたい。

彼女の良いところは外見だけではないけれども、また攫われでもしたらと思うと気が気でなかった。
ルフィのところにいるならまだ安心だと思えるが。



「だめよ、サボ。みんなの前ではやめてね。」

「ん.....わかったよ...」

抱きしめて首すじにキスをするので、ナミはサボに釘を刺した。

まさかこの旅の結末が、ルフィのお兄さんで締めくくられるとはね。

3日か4日航海して麦わらの船が水平線に現れた時、ナミはぼんやりとそう思った。




「んっ!?サボ!?」

麦わらの船長が声を上げたのを合図に、一味が全員甲板に出る。
遠くに見えた船が、船の大きさからは想像も出来ないほど素早く移動して来た頃には、ナミの帰りを待つ一味もその船に誰が乗っているか把握していた。

炎が燃え上がってサニー号の甲板に降り立ち、サボが片手を上げて挨拶をする。

「よお!ルフィ!」

「サボ〜〜〜!!!」

ルフィがサボの肩に乗る勢いで飛びかかった。
子猿が大人にじゃれているような、年齢のわりには微笑ましさが勝る光景だった。

「ちょっとサボ!何さっさとそっち行ってんのよ!船!ロープで繋いで!流される!」

甲板の下からナミの怒声が聞こえた。
他のクルーたちが船の縁に身を乗り出して手を振る。

「ナミーー!無事だったか!!」

「ええ!ウソップおかげさまで!コラ!サボ聞いてる!?」

後半ナミが恐かったので、声を掛けようとしたチョッパーが萎縮してやめた。

ロープを繋いだサボがナミをお姫様抱っこして甲板に降り立つと、サンジが鬼の形相で出迎える。

「ルフィの兄貴だか何だか知らねぇが、ナミさんに気安く触るんじゃねえ!テメー!!」

「だってさ。恋人でもだめか?」

「こ!?こいびとだと!?」


愕然とするサンジをスルーしたナミが、待ち構えていたロビンの胸に飛び込んだ。

「ナミ!」

「ロビン!」

同室のロビンは責任を感じていたらしい。
自分が同じ部屋にいたのに、何者かにナミをみすみす攫わせてしまったと。

「そんな、ロビンのせいじゃないわ。」

「ハクバのキャベンディッシュね。次会ったらただじゃおかない。」

笑っているのに何故か恐いロビンにナミがおののいていると、海の向こうに船が見えた。

「えっ...あの船ってもしかして....」

「こっちにも船が見えるぞ〜!」

フランキーが手を挙げ、声を上げるともう一方にも船が見えていた。



右から見えるのは遠くからでもわかる、ルフィの形をした船頭の存在感。
何か喚いているのが遠く聞こえるが、内容は想像できる。


「ナミ!!無事だったのか、良かった!バルトロメオなんかに任せたのが運の尽きだ。ぼくがその場にいさえすれば!」

「ナミせんぱ〜〜い!!ご無事で!本当に良かったべ〜!!奴らに連れ去られた時にはもうおら、おら〜〜〜」

「泣くな!うっとおしいな」

キャベンディッシュとバルトロメオが遠くから声を上げ、手を振っている。




左から見えるのは小さな船。
ピンク色の髪をした乗組員の女の子がふよふよ船の上で浮いている。


「おい、ナミ!勝手に消えやがって、誰が食事を作ると思ってるんだ!?私がこいつに嫌味を言われることになるんだぞ!?」

「嫌味ではない。事実だ。」

ペローナとミホークも登場した。
ぷんすかしているくせにちょっと嬉しそうだ。
ミホークは淡々としているが珍しく操舵輪を握っている。



「なんだなんだ。」

「ヨホホ〜なんだか賑やかになって来ましたね〜!」

「なんかおめー人気だなー!ナミー」

そわそわとしたルフィが笑って言うので、肩をすくめた。
また後でことの顛末を話すことになるだろうが、彼にとってはそれよりも重要なことがあるのだ。


「じゃあサボも来たし、全員で宴だな!」


案の定宴を提案され、クルーが支度に取り掛かった。
4隻の船が集まって、広い海の上では大混雑と言える。

「げ、鷹の目もいんのかよ...」

今しがた甲板に出てきたゾロも、海上を見て呟いた。




ーーそして大方の想像通り、この後めちゃくちゃ宴をした。

ペローナが料理を絶賛しサンジがメロメロになったり、ミホークが目が飛び出るような高いお酒を開けたり、バルトロメオ達が爆竹のような花火を用意してくれたり、(火をつけるのはサボがやりました)

ロビンがハクバ(キャベンディッシュ)を締め上げているのを肴に、多いに盛り上がったみたいだ。





ーーさて、この旅の最後にナミが選んだのは、誰だったのでしょう?











「誰が恋人だって?」



ナミがカクテルグラスを持ったまま腕組みして、サボの隣に現れた。

酒を飲んでいたサボは眉を上げ、余裕を持って向き直る。
ナミが仲間に囲まれていたから、側に行くのを遠慮していたのだ。
サボは一線を引いて状況を見守ることができるし、忍耐強かった。

「おれの記憶では、言われたような気がするけどな。好きとか、離れたくないとか。ベッドの上で。」

まるで世間話をするようにさらりと言うので、ナミは慌てて小声で言った。

「なっ、なに!一回寝たくらいで恋人面しないで!」

赤い顔が可愛くて、自然と顔がにやけた。

「一回だったか?何回も、の間違いじゃ」

「それ以上言ったら殺すわよ。」




ナミがすごんで来るので、サボは笑って言った。



「可愛かったけどな。」

「もう黙ってくれない?」









事の始まりは魅力的過ぎる手配書。
そして偶然の遭遇と、意外な相性。

またこんな旅ができたら。
そう思ったのはサボかナミ、どっちかな?




ーーどっちでもいいか。










End



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