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□猫にマタタビ
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猫にマタタビ









「朝食だ。」

サンジの出す食事よりは簡素だが、ワンプレートに乗った目玉焼きやベーコンは食欲をそそった。

未だパジャマのままのナミは、明るく笑っていただきますをする。

「あんたは食べないの?」

「俺はこれでいい。」

片手で林檎を投げるローにナミは笑った。

「あはは、りんご、似合わないわね。」

「黙って食え。」

憎まれ口を叩いて、それぞれ咀嚼する。

「なんか、入院したみたい。」

「昨日38度あった熱だ。下がってよかったな。あんまり薄着するなよ。」

「昨日は薄着のせいじゃないじゃない。」

「俺は他の男に肌を見せるのは好かん。」

「....!..........」

なんか、すっかり恋人扱いしてない?

そう思ったが、勘違いで恥ずかしくなるのもごめんなので、ナミは何も言わずにスルーした。

ちら、と見ると、ローがしゃくしゃくと林檎を食べ終えていたので笑ってしまう。
似合わないけど、栄養価の高い林檎というところがなんだか医者らしい。

「何ニヤついてる。」

「別に。」

「抗生物質はもういいかと思うが、これを飲んでおけ。」

「なにこれ」

「体を温める効果のある生薬だ。民間療法だが北の海でよく知られる。」

「ふーん、ありがとう」

差し出された瓶を受け取り、匂いを嗅いでからごくりと飲んでみる。
ふわりと、果実のようないい匂いがした。

「うん?あったかい。」

「そうだな。熱いくらいかもしれん。」

「ん....確かにちょっとあついわ。」

辛いような、おいしいような、不思議な味がする。
しかし、体の芯から温まるのは本当のようで、自分には効きすぎかと思うほど、手や足先までが熱を帯びていた。
こういうものは体質との相性もあるだろうから、とぐるぐる考える。

「あつ....ロー、暑い。」

尋常ではなく熱くなってきた。

まだ、治っていなかったのだ。
ナミはぼうっとした頭で額に手を当てた。

じっとりしている。
脱ぎたいくらいだ。
ナミはもこもこ上着をがばっと脱いで、布団の足元に放った。

「私、治ってないのかも...また熱が....暑い.....」

ハァ、と息を吐くと、ローがいけしゃあしゃあと言った。

「暑いなら着替えたらどうだ?」

「うん、そうね、そうしよ。」

そう、それはとてもいい考えな気がした。
ナミは素直に着替えることにして、ローに断りもなくパジャマのボタンを外し始めた。

だが、ぼうっとした頭で指先を動かすのがとても億劫になり、ひとつ外して放棄した。

「あん、もー、ロー外してぇ」

「.....」

上気した頬を赤らませながら息を吐くナミに、ローは生唾を飲んだ。



ーーここまで効くとは。
ローは内心いたく動揺していた。

この生薬は木天蓼。
早い話が猫にマタタビだ。

しかし人間の体に害がある訳ではなく、冷え性に処方される漢方で珍しいものではない。

猫には確かに性的な興奮をもたらす媚薬だが、人間にとっては媚薬なんてものは眉唾もので、医学的に見ても狭義の媚薬は存在しない。

期待しない訳ではないが、男の夢物語であることは重々承知だ。

.....と、思っていたのに。


「んん〜はやく〜。バカトラ男〜」

ベッドの横に腰掛けたローにすりすりと肩を押し付けるナミは、酔っ払ったような雰囲気でヘラヘラしている。


これは、すばらしい展開になった。
とローは思った。

「外していいんだな?」

「うん、いいよ〜。見て〜」

酒にも滅多に酔わない女だと言うのに、よっぽどマタタビと相性が合ったらしい。口調もいつもと違って舌ったらずだ。

さすが泥棒猫。
猫と言うのは伊達ではない。

下着を露わにすると、またすり寄って来た。

「肌と肌は気持ちいいねぇ〜。ローも脱いだら?」

言われるがままにローも上着を脱ぎ、上半身を露出すると猫が笑いながら抱きついてきた。


もう死んでもいい。
柔らかい胸が押しつけられるのを感じてローはごくりと何度目かわからない唾を飲んだ。


「ニャーン、気持ちいい〜。」

それで完全に火がついた。

「よし、お前を抱く。」

「ふぇ?」

「一旦おあずけを食らったんだからな。じっくりと味わわせてもらう。....取るべきイスは必ず奪う!」

「なに言って.....」



猫はベッドに押し倒された。










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