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□1.嫉妬
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1.嫉妬
二年前、まだ3人で旅をしていた頃から、お互い惹かれていたんだと思う。
付き合ったのはもうフランキーやロビンが船に乗った後だった覚えがあるが、それでも、どれほど自分が大切にされ、愛されているか身を以て知っているつもりだった。
ゾロと、私は。
今まで旅をしてきたどの場面でも、信頼され、命を預け合う関係であることを確認し合って来た。
だから、離れていても、大丈夫だと思ってた。
何度も会いたいと思ったけど、気持ちを心の底に押し込めて、目の前にある道をしっかり前に進むことに専心したのだ。
「私、男を待ってるの。」
何度目かわからない、シャボンディ諸島の酒場でのこの断り文句も、少しナミの心をわくわくさせていた。
2年後この島に着いた時、シャッキーにゾロが1番に到着したと聞いてからずっと、酒場に日参して。
だってあの男がすることと言えば、酒を飲むか鍛錬するか釣りをするくらいしかない。
酒が好きと言うのもあるけど、1番可能性の高い酒場に入り浸るなんて、なんていじらしい女だろう、私は。
周りの男の惚れ惚れする視線を感じながら、ナミは長くなった髪を弄んだ。
空気の読めない相手でなければ、気安さを感じさせない美しさだった。
みんなに会いたい。
ゾロに会ったら、なんて言おう。
今日も会えなかったと、夜半も過ぎて取っている宿に向かう道すがら、聞きたかった声を聞いた気がして、ナミは振り返った。
ーーゾロ?
会いたい。
会って、抱きしめてもらって、できれば一晩中一緒にいたい。
まだ約束の日までは時間があるから。
会えるかもしれないとわくわくしたナミは、軽い足取りでひょこっと路地に顔を出した。
あれ.....
ゾロだ....けど......
隣にいる、ゴスロリの衣装を着た女には見覚えがあった。
スリラーバークの女の子。
くまに消された。
その子と、何か言い争っているのは、片目が塞がっているが、ゾロだった。
姿が見られて嬉しいはずなのに、ナミは動揺していた。
何を言っているのかは聞こえないけれど、二人は並んで歩いて、同じホテルへ消えた。
ナミの泊まっている宿よりは簡素だが、ロビーは一目でちゃんとした宿だとわかるそれ。
ゾロのことだから、あの丸いシャボンの宿とかに泊まっていると思っていたのに。
あれはビジネスホテルのようなもので、単身者用の安いホテルだ。
金もないだろうに、なぜこんなホテルに。
ゾロの経済状況や宿泊しなければならない日数を考えると、何か違和感がある気がした。
あの子と一緒に泊まってるから?
並んで歩く二人を見て、ナミは目の前が真っ暗になった。
何やってんのよ。
私を探してよ。
浮気してんじゃないわよ。
2年も、離れていたから。
もはや浮気ですらないのかもしれない。
ーーそんなことだとは思わなかったから、
私は、会いたかったのよ。
ずっと、ずっと、二年間。
あんたは、そうじゃないの...?
私、おかしい。
ゾロを見たら、好きの気持ちが爆発すると思ってた。
なのに。
心の底に押し込めた気持ちが、上手く溢れ出られなかったみたいな。
会えたら、抱きしめ合って、深いキスをして、押し込めた気持ちが噴出して、また心を確かめ合えるものだと思っていたのに。
もし。
私との関係を、今までの二人をなかったことにされたら、私は。
きっと狂ってしまう。
諦めないと。
何か言われる前に、気持ちに整理をつけて。
おかしくなるくらい傷つく前に。
2年もあれば、色んなものが変わる。
ーーゾロとの関係も、その中のひとつだったと言うだけのこと。
「好きな男を忘れるには?」
シャッキーがタバコを吹かしながら目を見開いた。
「へえー、他の女と歩いてるところでも見た?」
ニヤニヤするシャッキーに見てたの?と言うくらい言い当てられる。
彼女は母親のようで、賢く話術も巧みで面白いので、ナミはシャッキーと話すのが好きだった。
酒場に行く以外は、だいたいここにいた。
「浮気に落ち込めるなんて、若くて羨ましいわ。やっぱりナミちゃんはかわいい子ね」
「シャッキー。私は本気なの。」
「そんなの、男を忘れるには男に決まってるじゃない。誰かと一発やってスッキリして来れば。」
是と言わないのをわかっていることを面白そうに言う彼女に、息を吐く。
「今、大物がこの島に来てるって噂よ?ナミちゃんほどの子なら、強くていい男を選びなさいよ。」
それが、世界一強い夫を持つ妻のアドバイスだった。
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