novels

□1.嫉妬
1ページ/1ページ

1.嫉妬









二年前、まだ3人で旅をしていた頃から、お互い惹かれていたんだと思う。

付き合ったのはもうフランキーやロビンが船に乗った後だった覚えがあるが、それでも、どれほど自分が大切にされ、愛されているか身を以て知っているつもりだった。

ゾロと、私は。

今まで旅をしてきたどの場面でも、信頼され、命を預け合う関係であることを確認し合って来た。

だから、離れていても、大丈夫だと思ってた。

何度も会いたいと思ったけど、気持ちを心の底に押し込めて、目の前にある道をしっかり前に進むことに専心したのだ。


「私、男を待ってるの。」

何度目かわからない、シャボンディ諸島の酒場でのこの断り文句も、少しナミの心をわくわくさせていた。

2年後この島に着いた時、シャッキーにゾロが1番に到着したと聞いてからずっと、酒場に日参して。

だってあの男がすることと言えば、酒を飲むか鍛錬するか釣りをするくらいしかない。
酒が好きと言うのもあるけど、1番可能性の高い酒場に入り浸るなんて、なんていじらしい女だろう、私は。


周りの男の惚れ惚れする視線を感じながら、ナミは長くなった髪を弄んだ。
空気の読めない相手でなければ、気安さを感じさせない美しさだった。

みんなに会いたい。
ゾロに会ったら、なんて言おう。





今日も会えなかったと、夜半も過ぎて取っている宿に向かう道すがら、聞きたかった声を聞いた気がして、ナミは振り返った。



ーーゾロ?

会いたい。


会って、抱きしめてもらって、できれば一晩中一緒にいたい。
まだ約束の日までは時間があるから。

会えるかもしれないとわくわくしたナミは、軽い足取りでひょこっと路地に顔を出した。



あれ.....

ゾロだ....けど......



隣にいる、ゴスロリの衣装を着た女には見覚えがあった。
スリラーバークの女の子。
くまに消された。

その子と、何か言い争っているのは、片目が塞がっているが、ゾロだった。


姿が見られて嬉しいはずなのに、ナミは動揺していた。

何を言っているのかは聞こえないけれど、二人は並んで歩いて、同じホテルへ消えた。

ナミの泊まっている宿よりは簡素だが、ロビーは一目でちゃんとした宿だとわかるそれ。

ゾロのことだから、あの丸いシャボンの宿とかに泊まっていると思っていたのに。
あれはビジネスホテルのようなもので、単身者用の安いホテルだ。
金もないだろうに、なぜこんなホテルに。

ゾロの経済状況や宿泊しなければならない日数を考えると、何か違和感がある気がした。

あの子と一緒に泊まってるから?

並んで歩く二人を見て、ナミは目の前が真っ暗になった。




何やってんのよ。

私を探してよ。

浮気してんじゃないわよ。



2年も、離れていたから。

もはや浮気ですらないのかもしれない。




ーーそんなことだとは思わなかったから、

私は、会いたかったのよ。


ずっと、ずっと、二年間。

あんたは、そうじゃないの...?





私、おかしい。

ゾロを見たら、好きの気持ちが爆発すると思ってた。


なのに。


心の底に押し込めた気持ちが、上手く溢れ出られなかったみたいな。



会えたら、抱きしめ合って、深いキスをして、押し込めた気持ちが噴出して、また心を確かめ合えるものだと思っていたのに。


もし。

私との関係を、今までの二人をなかったことにされたら、私は。

きっと狂ってしまう。


諦めないと。

何か言われる前に、気持ちに整理をつけて。

おかしくなるくらい傷つく前に。




2年もあれば、色んなものが変わる。

ーーゾロとの関係も、その中のひとつだったと言うだけのこと。










「好きな男を忘れるには?」

シャッキーがタバコを吹かしながら目を見開いた。

「へえー、他の女と歩いてるところでも見た?」

ニヤニヤするシャッキーに見てたの?と言うくらい言い当てられる。

彼女は母親のようで、賢く話術も巧みで面白いので、ナミはシャッキーと話すのが好きだった。
酒場に行く以外は、だいたいここにいた。

「浮気に落ち込めるなんて、若くて羨ましいわ。やっぱりナミちゃんはかわいい子ね」

「シャッキー。私は本気なの。」

「そんなの、男を忘れるには男に決まってるじゃない。誰かと一発やってスッキリして来れば。」

是と言わないのをわかっていることを面白そうに言う彼女に、息を吐く。

「今、大物がこの島に来てるって噂よ?ナミちゃんほどの子なら、強くていい男を選びなさいよ。」


それが、世界一強い夫を持つ妻のアドバイスだった。










Next

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ