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□人魚姫18
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人魚姫18
「ここはもう駄目だ。麦わらやローの手垢がついた。ヴェルゴ、モネ。シーザーを護衛しパンクハザードから引き上げさせろ。」
「了解だ。」
「子供たちの実験はどうするの?」
「あァ?子供...?」
ドフラミンゴが初めて聞いたと言わんばかりの様子で、面倒そうに言った。
「ジョーカー!それはおれがヴェルゴに集めさせた実験台達だ。もっとも、兵士としてはまだ使い物にならないが...新しく施設を得られるなら、捨て置いても構わない。」
「....まぁいい。好きにしろ。」
ドフラミンゴ一行は、パンクハザードを捨ててドレスローザに帰るらしかった。
ナミはドフラミンゴの隣で所在なげに目を伏せている。
生きていることは仲間に伝わった。
情勢が悪い状態で戦いに巻き込む訳には行かないと思った。
必ず、隙はあるはず。
ナミはパンクハザードを後にしようとする船でモネとすれ違い様、棚に押し込んだ時ローから盗ったモネの心臓を彼女に渡した。
保身の為に必要かと思ったが、ドフラミンゴの糸は優しく、ナミの首に巻きつけられていた。
逃げられないように。
例えモネの心臓を取引材料にしても、この拘束が緩まることはないのだろうと、思う。
「何らかの取り引きの材料にできるかと思ったけど、もう必要なさそうだから返すわ。」
モネは目を見開いて手に押し付けられたそれを見た。
「...いいの?敵におもねるなんて、愚か者のすることでは?」
「そうね。同情よ。」
例え心臓を捧げても、ドフラミンゴは彼女に振り向かない。
恩があるのかもしれない。
何か事情があるのかもしれない。
でも、切り捨てられても構わないなんて、歪だ。
いつか、彼女が尽くすことなくとも、彼女が存在するだけで良いと、言ってくれる誰かが現れれば。
ドフラミンゴのような、心に夜叉を飼う男ではなく。
「あきれた...正直、理解に苦しむわ...」
「...私もよ」
きっとモネは、やり方がわからないだけだ。
人に優しくすることを。
だってさっきも、子供たちのことを気にかけていた。
ドレスローザに到着したナミは、ドフラミンゴの正式な婚約者として迎えられた。
部下の謀反から国を守ったと言う栄誉付きで。
能力を高く買われた婚姻だと、誰もが納得する形で。
しかしその内実は。
「...っ!!ああっ!!」
「二重スパイとはどんな気分だった。ナミ。」
ドフラミンゴが嫌がるナミの首を縊るように掴み、後ろから何度もその肌の内壁を突き上げながら言った。
ドレスローザへのタンカーが出発してすぐに、ナミは首輪の糸を引かれて無理やりドフラミンゴの部屋に招き入れられた。
乱暴に腕を掴んでベッドに叩きつけられ、優しさの欠片もない、荒々しいキスをされた。
男は酷く怒っているように思えた。
ルフィが現れてから、そうだ。
仲間に会えた希望を胸に宿したから。
大きな手で身体中を弄られて、それでも恐怖で声なんか出なかった。
ドレスローザに向かう間中、言葉もなく、閉じ込められた部屋でずっと抱かれ続けた。
国に到着しても、それは変わらなかった。
髪を掴まれ、後ろから貫かれて、耳元で低く囁かれるのだ。
「さぞ快感だっただろう。仲間の元へ帰る為に、おれとローを天秤に掛けたか。ローの方が、逃がしてくれそうだと思ったか。」
ナミは恐怖で震えていた。
何を答えることも出来ず、されるがままになっていたが、声だけは失ってしまったように出なかった。
痛みだけには不随意に反応して声を上げてしまうので、その声を聞く為にドフラミンゴはわざと無体を働いていた。
「あっ!!うあ....っ」
髪をぐいぐいと引っ張られて、声が漏れる。
ドフラミンゴは、それに幾らか安堵する。
声が出ないまで壊してしまったのではないかと、だから痛みを与えてそうではないと確認して。
でも、ナミを抱くのをやめることも出来なかった。
自分以外が、あんなにこの女を輝かせる。
仲間に会えたときの顔が、ナミの本来の姿なのだと突きつけられたようで、耐えられなかった。
無人島で人魚のように、自分を助けた女はナミの一部に過ぎないと。
いつか自分の元から去ってしまう。
自分以外の男のそばで、人を惹きつけながら輝き続ける。
そんなことになるくらいなら、足を折り、目を潰し、鎖に繋いでずっと隠しておこうと思うくらい。
気を失うほど攻められ続けて、ナミは連日、すぐには起き上がることが出来なかった。
国に帰ってからは朝と昼を兼ねた食事をベビー5が運んで来ては、助けられて体を起こしていた。
こんな風に、助けを待つしかないのだろうか。
自分に出来ることはもう何もないのだろうか。
そう思うと、ナミは落ち込んだ。
ルフィ達はきっと自分を助けに来るのに、自分には何も出来ないのかと。
ナミを貫く度に、何を考えているのか、脳梁を引きずり出して見ることができればいいのにと考える。
ドフラミンゴは愛した女を抱いてなお、その女の全てが手に入らないことに絶望していた。
ナミの頬についた砂を払ったあの時のように、責め続けた後の無防備な寝顔を見ては、その間だけ、自分の物になったように錯覚して息を吐くのだ。
好きなのに、傷つけることしか出来ない。
声を聞くために、痛めつけることしか出来ない。
ーー恐くて、話をすることも出来なかった。
帰りたいと、仲間の元へ行きたいと泣かれれば、多分命を奪ってでも、それを阻止しようと思う自分がいた。
ーーその喪失に怯えるくせに。
それが恐くて、体を貪ることしか出来ないくせに。
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