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□白玉
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白玉 SN
純白は君のための色だと思っているけれど、熱湯をくぐってつやつやと光るまんまるい塊もまた、真白だ。
サンジはたっぷりと沸かした湯の中にぽとぽと白玉を投げ入れて、火の通ったものを掬い上げていく。
中秋の名月。
グランドラインのどこにいたって月は見えるのだから、季節の滅茶苦茶な海とはいえ、暦の上がそうである限りコックは時節に合わせた料理を振る舞うことを心がけていた。
それは彼の中のプロ意識の表れでもあったし、季節感を感じることを喜ぶ仲間がいるからだった。
航海士や考古学者は、そう言ったものに対する造詣も深い。
天候は季節と切り離せないものだからね、と航海士は笑う。
その笑顔が自分の心を捉えて離さないと気づいたのは一体いつのことだったか。
そこに航海士がダイニングにやって来て、彼の胸は高鳴った。
彼女は大量の白い丸を見つけると、宝石を見るように目を輝かせた。
「あっ、おだんご!もーらい!」
つるりとした白を手に取り、ぱくっと口に放り込んだナミは、いつもは摘み食いを咎める立場なのに、いたずらに笑っている。
「あー!ナミさん、摘み食い」
少しも注意の色を含まない、むしろどんどんやれと言った声音でサンジが笑う。
「あっ、白玉粉?上新粉は使わなかったの?」
「ブレンドしても良かったんだけどね、大量にあるから、固くならないように。」
もちもちとした食感に、ナミが頬を動かす。
彼の料理には、そんな細かい気遣いがそこかしこに隠れている。
他のクルーはそんなことに気づきもしないだろうから、それに気づこうとするのは、自分の役割のような気がしていた。
ふーんと相槌を打ちながらもぐもぐするナミが可愛くて、サンジはじっとそれを見ている。
すると、階下で耳をつんざく爆発音。
どうせいつものことだと思うと、ナミがびっくりして苦しそうにしている。
ーー詰まらせた?
サンジは考える間も無くナミの頭を両手で固定して、口に口を合わせると、思い切り息を吹き込んだ。
空気の圧でそれは胃に落としこまれて、ナミは漸く息をすることができたのだった。
「しっ、死ぬかと思った....」
目を白黒させてナミが言うのが可愛くて、またコックは破顔した。
なんという役得。
いや、大事にならずに済んで良かったのだけれども。
「ナミさんにひとつ貸しだな〜」
「私から取り立てようなんて、いい度胸してるわね。チューしたくせに。」
顔を赤くして憎まれ口を叩いても、可愛いばかりで何も怖くない。
じゃあ、とナミは言う。
「サンジくんが死にそうになったら助けてあげるわね。」
今のように。
そう艶っぽく笑っている彼女に、どうやって助けてもらおうかと、サンジは「死にそうになる方法」を一生懸命考えるのだった。
aquariumのしらたま様に捧ぐ。