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□真珠
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真珠 DN




「中秋の名月ね。」

煌びやかなドレスを纏わせたのは、自分だ。

シャンパングラスを手に持って、ロングドレスの裾さばきは着慣れた訳ではないだろうになかなかのもの。
近隣の国の社交界には顔を出すようにしているが、そこで見つけたこの猫は自分が天夜叉だと知らなかったらしい。
すぐに口説いて、ドレスをプレゼントするところまでは成功した。

あとは、どうやってそれを脱がすかだ。

「何?」

月を見る習慣などない彼は、長い髪をアップにしたうなじを眺めながらぼうっと言った。
金持ちから金銭を奪おうと狙っている猫はパーティーの参加者を一歩引いて見ている。
間広いバルコニーには、真白の月が浮かぶ。

「月には白玉。知らないの?」

素っ気なくそう言うと、目をつけた参加者がいたのか、すれ違うボーイにまでしなを作って、シャンパンからカクテルにグラスを変えて行ってしまう。

自分も自分で有名人なので、見目のいい女が傍を離れたとわかると、他の女がわんさかと寄ってきた。
去って行くナミのざっくり開いた艶めかしい背中を見ていると、周りの女が何故か味気なく思える。
何か記号めいた、女、というだけ。
獲物を狙うような、自分を見るのではない瞳に惹かれるのは何故か。

ドフラミンゴは従者に何か耳打ちすると、豪華な絨毯にため息をひとつ落としたのだった。



たまに、こういう稼ぎ方でもしないと食費が持たないのよ。
わかってんのかしら。あの船の者共は。

残念ながら、金を稼ぐ能力に関してはナミの右に出る者は船の中にいなかったし、換金できるようなお宝に出会うことでもなければ、大黒柱となり得るのはナミとロビンだけだった。
(ブルックが再会時に差し出して来たまとまったお金ーー多分歌手時代の売上だろうーーはあるがナミが医療費や臨時出費のために大切に保管してある。)

でも、とナミは思う。
このように、自分の美しさや手練手管をいかんなく発揮できる場は嫌いではない。
むしろ稼ぐことが出来れば出来ただけ、自分の能力の証明になるとさえナミは考えていた。
今だってほら、何をしなくても男たちが葉巻や装飾品を差し出してくる。
華やかな場。
この機会を与えてくれたあの男に感謝しないと。

ナミにドレスを贈った男は、何やら超一級の金持ちなんだろうと思う。
派手な外見にしては、贈るドレスは趣味がいい。
女の扱いも心得ている。
パーティー会場の付近をうろついていたナミをシンデレラだと言って、ここへこうして連れてきた。

すると、先ほどから引きも切らずにボーイが運んで来た、贈り物を載せた盆がまた目の前に差し出された。

それは白く品のある輝きだった。
海の強さも優しさも閉じ込めた宝石。
大粒のパールは3連の豪華なネックレスになっていて、近くで見るとその光沢さえ一粒一粒同じ色をして、その価値がどれほど高いかを物語っていた。




「ナミ、白玉だ。」

ドフラミンゴが近くに来ると、周りからため息が出る音がする。
それはナミに、絶対に勝つことができなさそうな男がいたという落胆かもしれなかったし、ドフラミンゴがメロメロになっている女がいたという悲鳴なのかもしれなかった。

ーー私が言ったのは、この白玉じゃないんだけど。

ナミはこの大男のかわいい勘違いに微笑んで、愛おしむように真珠に触れた。

こんな素敵なものなら、売れないわね。

これほどのものを用意できる男なら、もっと興味を持ってもいいと、気位の高い女は思う。

「部屋を取ったんだが...来てくれるか?」
「.....私は高いわよ?」
「それでいい。」

つまらないことなら、したくない。

でも、ドレスを贈られた時点でなんとなく、それを脱いでもいいような気がしていたのは、ナミだけの秘密だ。







aquariumのしらたま様に捧げます。

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