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□ローのとりかへばや
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「ねぇ。」

早朝。
まだうっすらともやが掛かる夏の明け方に、涼しい風を求めて甲板でぼんやりとする男がいた。
男を見つけた航海士は、不躾に顔を覗き込んで来て相手に有無を言わせないトーンで呼びかける。

顔が近すぎて、ふわりとオレンジの匂いすらする。
その香りに鼓動が早くなるのを止められないのは、少しの間この船に居候しているトラファルガー・ローだ。



「.........なんだ」


まだ知り合って間もない恋人にはクールな姿だけを見せたいローは、努めてどうでも良さそうな声音を発して一歩退いた。

「なんだじゃないわよ。ずっと呼んでるのにボーっとしてるし、大丈夫なの?」

一歩引かれた代わりに一歩進む。
ナミは自分が心配に思うことに関して引き下がりはしない。
また距離を縮めて恋人の顔を見ると、いつものことかもしれないが顔色が悪い気がする。

「別に何もない。呼ばれたのに気づかなかったのは悪かった。」

「それはいいけど...顔色も良くない気がするわ。」

「ただの寝不足だ。」

近づくと、ローはまた一歩引いたのでナミもまた一歩進む。

気づいたら惹かれていて、気づいたら朝まで一緒にいる間柄になった2人だが、まだその日も浅く、夜以外でまともに会話するのは数えるほど。

どういった距離感でいればいいのか計りかねている。
もっと言えば人の家なので堂々と勝手が出来るはずもない。

ローの言葉に詰め寄りながらも口を閉ざしたナミは、顔を赤くして上目づかいに恋人を見た。


「.....もしかして、昨日の夜のせい....?」




ダメだダメだダメだ


その顔でその内容を口にするなど、あられもない昨夜の情事が呼び起こされてしまう。


確かに、昨夜は周りの目を忍んで密会していたし、寝不足になるようなこともしているが、男の自分がそんなことで臥せるようでは余りにも頼りがなさすぎる。


「いつも先に寝ちゃってごめんなさい!もしかしてあんたずっと起きてたんじゃない?」

「いやっ、別に...」

顔を赤くしながらも接近して来るナミを避けるように後ろへ下がる。

ずんずんと、後ろも見ずに退くのでついにローは甲板二階の手すりにぶち当たった。

ナミはついにローの胸板に顔を寄せて、誰も外に出ていないのをいいことに、ぎゅっと抱きついた。


「ねぇロー!私とあんたを入れ替えれない?」

「何を言って....」

「お願い。休んで欲しいの。あんた見てたらわかるわ。この計画を立てた動機は何?私は何も知らないけど、この計画があんたのここを苛んでるのはわかるの。」

ナミはローの心臓の辺りを細い人差し指で触れた。ぎゅっと強く押し付けるので、美しい指が弛む。

「ね、隈もひどいし。」

「隈はいつものことだ。」


でも、心配は心地いい。
ドフラミンゴの襲撃に気を揉みながら、同盟船にいるのだ。
恋人が目の前にいれば抱きたくなるし、余りの快感に恋人が眠れば、男として満足して、その顔を夜通し見ていたくなる。

まだ知り合って間もない。どんな人間かもお互いわかっていないように思うが、ナミは優しく情が深いのだ。

本来ならやることをやって何も考えず2人で寝坊でもできれば最高だが、彼女には航海士としての仕事がある。



人がいないのをいいことにナミがローにキスをすると、驚いたローは手すりから下の甲板へ落ちた。

笑うナミをroomで呼び寄せると、ローは自分とナミの体を入れ替えた。

ーー興味が勝った。

















「ーー重いな。」

「開口一番そんなことなの。」



余りにも無表情に胸を見下ろすナミの姿を目の前にして、ローの体に入ったナミは、目線が高くなった自分を感じていた。

ローがナミの乳房を揺すり出したので慌てて止める。
無表情に自分の胸を鷲掴みにする自分の姿はコワイ。


「これならローが女部屋で寝てても違和感ないでしょ?」


身体の疲れは身体に宿るが、睡眠不足は主に脳に及ぶと考えてナミがローを寝かせようと部屋に誘った。


途中でロビンがあら早いのね、とナミの姿をしたローに話しかけ、ローの姿のナミは後ろで顔を背けてくすくす笑った。

ああ、とかうう、とか言いながらロビンをやり過ごしたローにナミはウインクをして、自分のウインクを見たローはげんなりした。
こっそりと2人で女部屋に入ると、ナミはローの姿で甲斐甲斐しく説明した。

「私のベッドはこっちだから。それと、飲み物はここから取って。」

ナミに入ったローはボーっと突っ立って部屋を見回している。

「いい香りがするな。」
「ありがと、じゃぁ寝て。」

布団にローを突き飛ばすと、思ったよりも華奢な自分の体が吹っ飛んだ。
ナミはローの両手をまじまじと見て、やはり男の力なのだと感慨深げに笑う。

「てめェ...何しやがる。」

突き飛ばされたベッドの影から這い出てくるナミ。
ローの体に入ったナミは笑ってごまかそうと硬質な黒髪を掻いた。

「アハハ、ごめんごめん。」

「こんな屈辱は初めてだ。」

妖艶だが悪魔のような笑みを浮かべたロー。
ナミは自分の顔であるはずなのに、その表情が余りにも邪悪で目が離せない。


嫌な予感がする。
そう思った時には、ローはナミの細腕でローの体の胸倉を掴むとぶつけるようにキスをした。


「は....っ、んっ...」
「....ふ....っ」

10分くらいそうしていた気がするナミが、抗議しようと漸く解放された口を開く。


「ロー、なにすん...」
「黙れ。」

カチャカチャと、ナミのーー正確にはローのベルトを外そうとするローの物言いに、ナミはカチンときた。


華奢な自分の体を放り投げて、馬乗りになる。
驚いたような目の自分の顔の中に、ローが入っていると思うと高揚して、意地悪く言った。


「....なんでこんなに濡れてるの?」

ビショビショであった。
自分の秘所を触る日が来るなど思っていなかったが、屈辱に朱を走らせるローのーー正確にはナミの顔は、嗜虐性を彷彿とさせるに十分な色香だった。

自分にこんな気質があったのか、はたまたローの肉体に入っているが故なのか、もうほとんど考えられなくなっている。

「恥ずかしい。手ひどく扱われて濡れちゃったの?」

ここに鏡があれば、いやらしい、と悪い顔をするローの顔は邪悪で、それがとてもよく似合っていると、ナミは自分で思ったことだろうと思う。

真っ赤になるローが面白くて、脳みその箍がひとつもふたつも外れたような気がした。

「....てめぇのカラダだ」

苦し紛れにローが吐き捨てる。
存外この女はMなのかもしれない。
そうでなければこの身体がこうなる理由がない。
次に抱く時はもっと激しくしようと思いながら、それでもローは動揺している。

こんな変態的なプレイ、
頭がおかしくなりそうだ。

形勢を逆転させて、ナミの体を女豹のようにくねらせたローが艶っぽく言った。

「あんまり喘ぐなよ。」
「!?」

ローがナミの体で、ローの上に腰を落とした。
ぬるりと抵抗なく入ったものはギチギチと硬く、感じたことのない刺激を与えてくる。


「うぁ、ロー、休んでもらおうと、思ったのに...っ」

「終わったらな」


女の悦びは凄まじい。
話には聞いていたが、その通りだ。

ナミの体は成熟して容易く快感を得られるようになっており、幾度となく男で言う射精感があり、刺激があればあるほど上り詰めた。

確かに、これなら疲れ切って寝てしまっても仕方がないと、納得した。



いつも先に寝てしまうナミをローは少し寂しい目で眺めていたのだから。



ローの体に入ったナミも、戸惑っていた。
何かが来る。
そう思った時には達していて、同時にびくびくと自分の姿が体の上で震えているのが見えた。






「なにこれ!なにこれ!なにしてんの私達!?」

「うるせぇ....もう....寝る.....」


賢者タイムを迎えたナミはすぐにローに抗議したが、ナミの姿をしたローはとろとろと眠りに落ちて行きーーすぐに寝息が聞こえ始めた。

ナミは息をついて自分の寝顔を見るという不思議な体験をする。


もっと話したかった、寂しい気がする。

もしかしたらローもそう思っていたのかもしれないな、と思って、随分と長い間その寝顔を見ていた。






鏡を見ると、端正な顔立ちをしているなとナミは思う。
髭やもみ上げや隈は気になるが、イケメンであることに変わりはない。

ナミはローの頬をまじまじと触ってみる。
今日一日、ばれないようにしなければ。

ローとナミが入れ替わっている。

ばれても差し支えないが、面倒ではあるからだ。
ローはナミの姿で寝てしまったし、もう後には引けない。
ナミは体調が優れず寝ていると伝えて、嵐やサイクロンが1日来ないことを祈ろう。

さっそく女部屋にナミを呼びにきたサンジに出くわしたので、ナミはごくりと喉を鳴らしてローに成りすますことに努めた。

「黒足屋。」

「あん?なんだ、ローか。」

「ナミ屋は体調が良くないのでもう少し寝るそうだ。」

「ぬぁんでテメーがそれを知ってんだよ、クソ野郎。」

「....医者だからだろ?何か不都合があるか?」

ふ、とナミが笑って見せると、タバコをふかしたサンジが二度見した。
ナミとしてはサンジにクソ野郎と言われるのは新鮮で、女優気分が楽しかったというのもある。

「....お前、本当にローか?」

ぎくり。
いやいや、ポーカーフェイスは私の得意技だったはず。

「....お前の頭も診察してやろうか?」

「.....も!?も、って何だテメー!まさかナミさんに診察と称してあれやこれやの悪戯な行為を繰り返してたんじゃねーだろーな!?」

「あんたじゃねーんだから。」

ボロが出そうになるのをどうにか抑えながら、ナミは朝食の席に着く。

もうほとんどのクルーが食べ終えていて、ロビンが新聞を読みながらコーヒーを飲んでいるところだった。

いつもはナミに先に読むのを譲るので、今日はコーヒーをお供にここで読んでいるらしい。

ちなみに朝食はパンが出てきたが、ナミはパンを嫌いではないので美味しく頂いたのだった。


それにしても、ローって普段何してるの?私これからどうすれば自然なのかしら。

とりあえず仕事もせねばならぬので、自分の腕から取ってきたログポースを海へかざす。ドレスローザをまっすぐに指している。


透明な球体に写る海の青を見ていると、突然その青が太陽の赤になった。


「ルフィ」
「トラ男!なんでお前がナミみたいなことやってんだ?」

ナミは少し考えて、無愛想な表情を作って言った。

「ナミ屋は体調が優れないそうだ。だから代わりを頼まれた。」

「へー、ほー、ふーん。じゃ、あいつまだ寝てんのか。」

「そうだろうな。休ませてやれ。」

ナミは自分の言葉に笑いそうになって、ふわふわ帽子を目深に被った。
寝ている自分の姿を想像すると、何故か面白かった。
とんでもない秘密を大事に隠し持っている子供のよう。
ルフィの前では、いつも心を丸裸にされる。


「なに変顔してんだ。」
「してねぇよ!」

船長が無邪気に言うので、いつも通りすかさず否定する。
いつもと変わらないこの船の日常。
ただ一つ変わるのは、ナミのハートを射止めた医者がナミの体に入って寝ていて、ナミがローの体に入っていること。

ばれないようにローを演じるのはことさら楽しかった。
そんなツッコミにもめげずにルフィは二の句をつぐ。

「なぁお前、トラ男と仲良いのか?」

ルフィは笑っている。

.....んっ!?

「トトトトラ男って」
「あっはっは、今わかったよ。お前ナミだな!」

何のことはない、という顔をしてルフィは朗らかに笑う。

ローは口を大きく開けて目を丸くしていたが、その表情はもはやローのそれとはかけ離れていた。

「何してんだよお前ら。おれも混ぜろよ。」

ルフィはパンクハザードでハートを交換されなかったのをそれは残念がっていた。

「何でばれたの」
「わかんねぇけどわかるよ。」

少しどきりとした気持ちを抑えて、ナミは息を吐いた。

絶対にばれないようにと思っていたのに、まさかルフィに見破られるなんて。

「でもお前とローが仲良いなんてなー、知らなかったなー」


マストに手を伸ばしてブラブラと揺れている船長にナミは言葉もない。


「....付き合ってるってことか?」


突然強い瞳に見られて、ナミは背筋がぞくりとするのを感じた。
ローの体に入っていると言うのに、心が反応して汗がにじみ出る。


黙っているナミにルフィはまたにこっと笑って、当たり前のように言う。

「ま、いいけどな!最後におれのとなりにお前がいれば」



どういうこと?
どういうこと?
どういう意味で。


それは言葉になることもなく、船長はマストの天辺に飛んで行ってしまった。


私はローの恋人なのに。
なんでルフィはいつも、人をハラハラさせることを言うんだろう。

ルフィが飛び上がった空を見上げていると、気圧の変化に気がついた。

一雨来る。


それは空模様なのか女心なのか。








キッチンでは。

「あの子、なんでまた今日はローの姿をしていたのかしら。」
「クソ、やっぱりローの野郎と入れ替わってたのか。ぬぁみすぁん!どんな姿をしていても君は素敵だーーー!!」
「なんであんたたちにもばれてるのよ!」
「ヨホー!トラ男さんに入ったナミさん怖いですー!」



その後無事に二人は元の姿に戻りましたとさ。









End

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