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□その味は
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「親子の盃を交わした〜〜〜?!」

合流したと思った途端にこれだ。
ルフィは仲間との再会もよそに、久しぶりのサンジの手料理を口に押し込みながら言ったのだ。

盃を交わし、彼らが傘下に入ったと。
7つの船団が5千人強。

「おれは友達でいいって言ったんだけどな〜。聞かねえんだよ。」

サウザンドサニー号は野外バーベキューパーティーである。
7人の代表者だと紹介された顔もあるが、それ以外の面々も多く、初対面の人物が多すぎてナミは周りを見渡して息を吐く。

麦わらの一味もとんでもないことになってきた。
出会った頃、たった3人で航海していた時期があるのが信じられないくらいだ。

「ちょっと目を離すととんでもないことになるわね。」

「うふふ、色々あったのよ。また追い追い話すわ。」

ロビンが楽しそうに笑ってナミのお尻をぽん、と叩いた。
ナミがびっくりするのを面白がってクスクスしている。

「いやー俺様の勇姿をお前らに見せたかったぜ。このゴッドウソップの姿を!」

「ウソでしょ。いつもの。」

「いやいや!マジなんだってこれが!!」

チョッパーがキラキラとした目でウソップを見上げる。
ナミは絶対にいつもの嘘だと思ったのに、寄って来たバルトロメオとか言う奴がウソップの栄誉を熱弁し始めた。

「なななナミせんぱ、先輩、下僕にしてけろ...!!...じゃなかった!嘘じゃねぇですだ!ウソップ先輩はルフィ先輩を抑えて5億の懸賞金をドフラミンゴに掛けられたほどの男!俺たちの命の恩人、ゴッドなんですっべ!」

「なんで私に背を向けてしゃべってるの?」

ナミが突っ込みを言い放つと、ウソップが更に鼻を高くして話す。

「ま、白ひげ海賊団らしく言うなら俺は一番隊隊長を務めてやってもいいぜ。ハイルディンの巨人海賊団が一番隊だ!」

「ゴッドウソップ!よせやい。その順番で前回揉めたとこなのに。」

カノクニのサイが割って入る。横にメイドの女の子がくっついているが、恋人なのだろうか。

「それを決めるならまたクジやり直しだべ。」

「ま確かに、こんなにいればある程度仕組みを決めてた方がいいかもしれねえな。」

肉をサーブしながらサンジが言うと、サイの横にいるベビー5を見つけてすぐに平常運転した。


「でも傘下って、何すんだ??」

ほとんど肉を咀嚼する音に邪魔されながら、ルフィの言葉にロビンが答えた。

「白ひげに倣うなら、彼らは島々を平和的に統率するためにある程度監視をさせていたんじゃないかしら。
各縄張りの島々に、別の脅威がやって来ないように。」

そうやって平和を守っていた。
海軍とは違うやり方で。
ナミは考え込む。

「例えばアラバスタとかウォーターセブン、東の海の故郷とか、私たちが関わってきた国に近い縄張りを持つ海賊が傘下なら、異変があれば教えてくれたりするのかしら。力を貸してくれたり。」

そうすると、アーロンのような支配が看過されることもなくなるだろう。
そんなことは許さないという、親の意志がしっかりと子分に伝わっていれば。

力が大きくなると、そんなこともできるようになるのか。
とんでもない、としか思っていなかったことが、いい考えのように思えて来て、ナミは微笑んだ。

するとまたロビンがお尻を叩いて来て、ナミへの来客に促す形になった。


「君が泥棒猫ナミかい!会いたかったよ!」


「あなたは、えーと」

「おう、キャベツ!食ってるかー!」

「キャベツ君。」

「キャベンディッシュだ!!!」

人の船の上だと言うのに白馬にまたがってバラを咥えている様子は絵本から飛び出て来た王子様のようだ。

「もし君が隊長になるなら僕の隊長になってくれ。」

「なんだテメーは!!おれのナミさんに色目使ってんじゃねーよ!!!」

サンジが凄むが、キャベンディッシュは余裕の表情でバラをむしゃむしゃ食べだしたのでサンジもナミも呆気に取られて黙ってしまった。

「ぼくは美しいものが好きだからね....そうなると、隊長は君しかいないってことになる。」

「失礼ね!ロビンもいるじゃない!」

「ニコ・ロビンはトンタッタ族と仲がいいからね。そこは譲ることにするよ。」

「それはいいれすね!僕も賛成です!」

「えっ、なに、小人...!?」

風のようにロビンの手のひらにたちまち現れた小人に、ナミは目を白黒させた。
自分の肩にも気づくと女の子の小人が乗っていて、ゾロの刀を持っていた。

「あっ、またやっちゃった!また持って来ちゃった!私ってドジ!」

「ウィッカは手癖が抜けないれすね。」

珍しく起きているゾロが怒りながらどすどす歩いて来ると、ナミの肩にいるウィッカから刀を取り戻した。

「てめぇ、何度持ってきゃ気が済むんだ!」

「ごめんなさい!」

ウィッカという小人が泣いているので、間に入るナミ。

「ゾロ、まあこう言ってるし...」

「ああ?...まあ、もうやるなよ。」

「ごめんなさい!でもあなたの迷子ぶりは本当にひどかった!!」

「なん...!斬るぞてめぇ!」

「やめなさいよ女の子相手に!」

刀に手をかけたゾロをすぐさま殴ったナミは、ウィッカを手に乗せてごめんね、と首を傾げた。

「あの男の方向音痴はね、治らないの。」

「あなたが航海士ですか!日頃の苦労お察しするです。」

わかってくれる、と涙するナミにウィッカの小さな手がぽんぽん、と触れた。


「おーい、担当表作ったぞー!」

話の流れを聞いて、何か作業していたフランキーが頭の電飾を光らせながらちゅうもーく!と言った。



一番隊隊長ゾロ
バルトクラブ船長バルトロメオ

二番隊隊長ナミ
美しき海賊団船長キャベンディッシュ

三番隊隊長ウソップ
巨兵海賊団代表ハイルディン

四番隊隊長サンジ
XXXジム格闘連合代表イデオ

5番隊隊長チョッパー
八宝水軍首領サイ

6番隊隊長ロビン
トンタッタ族トンタ兵団兵長レオ

7番隊隊長フランキー
ヨンタマリア大船団提督オオロンブス


大きな紙に担当者が書かれた図を、一同がおお〜と言いながら覗き込んだ。


「ちょっとォォォ!私の名前がないんですけど!!」

「順番だ、悪いな。でもお前絶対ふざけるだろ。」

ブルックが泣き喚くのを、笑いながらフランキーがいなす。

「おれの名前もねえじゃねえか!!」

「お前は船長なんだから当たり前だろ、ルフィ。」

「ちぇ、なんだよ。ブルック遊ぼうぜ。」

「ヨホー!それ賛成ですルフィさん!歌いましょう!」

肩を組んで歌い出す2人。


「それで、いつでも連絡が取れるように電電虫のホットラインを作ったらいいんじゃないかと思うんだが。」

フランキーがサングラスをあげながら言うと、ロビンも頷いた。

「海賊の傘下に入るなんてよっぽどのことだもの。その思いに報いなければね。」

元々海賊ではない者たちの方が多いくらいだ。
有事の際、こちらも出来るだけのことはしたい。


「泥棒猫ナミ!いつでも僕にかけてきてくれて構わないよ!」

ハッハッハッと白い歯を見せて笑うキャベンディッシュは何を考えているのか本当に得体が知れないと、ナミは思う。

「なんなのあんたは!その呼び方やめて!私が美人で可愛いってところには同感だけど!!」

「お前ら似た者同士だな〜。」

ウソップが言うと鉄拳が飛んできた。



「じゃあ、ナミ。」

どこからともなくバラを出したキャベンディッシュは、それをナミに差し出した。

「僕は同調はするが子分ではない。欲しいものは遠慮なく奪わせてもらうよ。」

「....私の宝を狙う気?いい度胸じゃない。」

「宝かな、間違いではないか。」


ナミはバラを受け取るとその赤をじっと見た。
長いまつげがふせられるのを見て、金髪の男は笑う。

キャベンディッシュは、麦わらの一味が騒がれるようになってから、その活躍や手配書は網羅している。
船長の写真には何度となくナイフを刺して来たが、泥棒猫の写真には、そうする気にはならなかった。

むしろ目が離せなかった。
美しかったから。

もちろんニコ・ロビンの写真にだってナイフを立てたりはしないが、ナミの写真を手配書の束の1番上にして、眺められるようにしていた。

会ってみたいと思っていたから、この成り行きは願ってもないことだったのだ。

しかも美男美女!!
横に並べばそれだけで全世界から祝福されるにふさわしい美しさ。

彼女に白いドレスを着せて、白馬にまたがり白い教会で愛を誓い合う。

そこにはたくさんの人々の笑顔、フラッシュの光、中継される映像に、中にはハンカチを噛み締めて泣いている女性や男の姿.....


「おいキャベチ!全部漏れ出づってるべ!!妄想垂れ流し状態だべ!」

お前何という不埒な想像を!とバルトロメオがキャベンディッシュの胸倉をつかんで揺さぶった。

ナミは聞いていない。
ただ、ナミも女性であるので花をもらうことは好きだ。

バラは素敵だ。
でも、さっきこれ食べてたよね?

「キャベツ君。」

なんだい?とバルトロメオに揺さぶられながらキャベンディッシュ。

「これ食べられるの?」

はむ、と花びらを咥えるナミ。
食用の花なのだろうか。
美容に良ければぜひ食べたいと思ったのだが。

二人は揺さぶる手をぴたりと止めてあんぐりと口を開けてこちらを見ているので、照れ隠しに笑うしかなくなる。


(ナナナナミ先輩かわいすぎるべ〜〜〜!!!眩しくて見れねぇべ!!!)


目を見開いてナミを見るキャベンディッシュ。



2人でいい、と思った。
テレビカメラも、祝福の人々も、人気も、取るに足らない。
白い衣装に身を包むなら、お互いの顔さえ、見られればいい。


自分の中の何かが変わった気がして、キャベンディッシュは自嘲気味に笑った。



奪うつもりが、奪われてしまったのではないか。



そうか、だから泥棒猫。



「ふっ。」

ばさっと美しい金髪を翻し、キャベンディッシュは笑った。


「ふ、ふははははは!」

「この人、大丈夫なの?」

(ぎゃー!!!ナミ先輩がオラに!お言葉をかけてるべー!倒れるなー!堪えろオラ〜〜!!)

「....ッズアァァ!!大丈夫ですだ!いつものことだべ!変だけどいいやつだべ!」

「あらあら。」

ロビンがまたもやお尻にぽん、とタッチして来るのでナミが飛び上がる。

「でもナミ、気をつけてね。この人寝るとハクバと言う人格が出てきてしまう二重人格者だから。」

「えっ?」

言うが早いか、ナミの体が風に攫われた。
正確には、風ではなかった。

「オマエダ....」

地の底から這い上がるような声にナミは息を飲んだ。
肩に担がれてしまうと足をジタバタさせるしか抵抗する術がなくなる。
しかももうここは空高く舞い上がった空中だ。

服装や背格好はキャベンディッシュと同じように思われるのに、顔つきが明らかに違う。

「オマエヲサガシテイタ」

ここは自分の船なので、例え相手に殺気があろうとなかろうと、ナミは危険を感じて動じはしない。

絶対に誰かが助けてくれるから。
ナミの手に負えない相手だと察知する便利な機能つきで。

しかし相手には自分を殺す気がない。
だからロビンも笑ってこちらを見上げているのだろう。


「オマエヲオレノモノニスル」


「ハァ!?なんなのよあんた!誰の許可取って言ってんのよ!!!おろして!」


「ヴ...ギ....くかー....」


「寝るなーー!!!!」


落ちるー!と言葉に出せたのかもわからないうちに、体が落下する。

瞼をきつく閉じて衝撃に備えると、予想に反して軽やかな着地音がタタンと響いた。

飛び上がったせいでBBQパーティー会場から離れたミカン畑に降り立ったのは、ナミを姫のように横抱きにした、ハクバのキャベンディッシュだ。

「ふー、危なかった」

「危なかったじゃないわよ!!寿命が縮んだわ!!」

ナミはキャベンディッシュの顎あたりを押し返して抵抗をする。
男のくせに、嫌になるくらい滑らかな肌だ。

「まさかハクバも君を狙っていたとはな。」

全てを切り裂こうとするあの男が。

手配書を見て、求婚者が集まるという誰かの言葉はどうやら本当だ。

「あのねぇ....」

降ろされたナミは頭痛がする風に目元に手をやる。

ロビンの言うように気をつける暇もない。
風よりも早く動ける男なのだ。
こっちの命は、いくつあっても足りはしない。

「お願いだから驚かさないで!わたしは繊細なのよ!あんたたちと違って!」

「ふっ、奇遇だな。ぼくもこの外見に恥じぬ繊細さを持ち合わせているよ。」

何だかこの感じ、デュバルにも似た敵わなさ。
あのルフィに、なんか性格的に敵わねぇと言わしめたアレに通づるコレ。

「ナミ、僕は君にふさわしい。そして君も僕にふさわしい。」

「何それ、口説き文句のつもりなの?」

「そうだよ。君と僕は似ている。バラのように美しいところが。」

さすがに赤くなった。
小娘のように頬を染めてしまって、負けたと思ったナミは諦めて踵を返す。
どうやっても主導権は握れないらしい。
本当に、変な人物ばかりが寄ってくるのだ、この船には。

「ナミ」

「......バラってこれのこと?」

その手には、キャベンディッシュの持っていたバラ、バラ、薔薇。

手品かと激しく突っ込みたくなるくらい、懐に隠し持っていたらしい。
それをスリ取ったナミは赤い顔を隠すように早口で言った。

「盗ったんだからもう私のものよ。」

階段を足早に降りて、ルフィたちの元へ戻る。

この新しい仲間たちとちゃんと仲良くやって行けるだろうか。

というか、ちゃんとこれからあしらえるだろうか。

まだまだ自分は未熟だと不安に思いながら、ナミはバラの花びらを一枚、大切そうに撫でた。










その夜、女部屋では。

「宴、楽しかったね。」
「そうね。ナミ、あの後ハクバに切り裂かれたり八つ裂きにされたりしなかった?大丈夫?」
「されてたら今ここにいないでしょ。」
「冗談よ。綺麗なバラね。」
「うん、本当よね。じゃ、いただきまーす。」
「.......................何をしているの?」
「むしゃむしゃ。」
「ナミ、薔薇は食べ物じゃないのよ?」
「美容にいいらしいの。ロビンもどう?」
「遠慮しておくわ。」

ロビンは、同室の愉快な仲間をそっとしておくことに決めたのだった。










End
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