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□抱いたはずが突き飛ばす
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抱い突き





存外薄着をして来てしまった。
ナミは寝巻きのTシャツと短パンが今日の気温にそぐわっていなかったことを痛感していた。
冷える夜をショール一枚で乗り切る為に、きつくきつく薄布を体に巻きつけた。

見張りは孤独な作業だけれども、命を守る大切な仕事だ。
命を大事にすることにかけてはクルーの中でもまともな感覚を持っているナミは、仕事をしっかりとこなす。

すると仲間の気配があったので、ロビンが本の差し入れか、サンジが飲み物でも持って来たのかと思ったのだが。

現れたのはゾロだった。







「ナミ」
「......」

眉根を寄せてナミはゾロを見る。
ゾロの顔は赤く、酒気帯びているのがわかった。
こうでもしないと目の前に現れられなかったのが本当のところだが、ナミには関係がない。
これ以上傷つくことがないように、きつく眉を寄せて目を逸らす。

「最低限って言ったでしょ。もう関わらないわよ。早く寝れば!」

まっすぐ海を見て、もう口を開くのはおしまいのつもりで押し黙る。

身じろぐ気配がして、近寄る男に傷つく恐怖が蘇った。

ゾロはごくりと唾を飲み込んで口を開く。

「あの日のこと」

「俺はそんなつもりで言ったんじゃ...」

華奢な後ろ姿に、言いかけて、やめた。

薄着すぎるのはいつものこと。
短いズボンからのびる太もも。
寒いのか薄手の布を巻きつけて、風呂上がりの少し湿った髪を横に流し、そして


ナミの首筋に赤い跡。

まるで所有の。

他に誰も、許さないとでも言うかのような。



頭に血が上った。

ストレートで胃に流し込まれたウイスキーが、粟立つ。

あの言葉は、そんなつもりで言ったんじゃない。

気づいて欲しい。

どれほど自分がお前を好きか。

毎日毎日、あの傷ついた顔が消えることを願って。



ゾロはナミの肩を掴むと噛み付くようにキスをした。
ナミは目を見開いて身じろぐ。
しかしがっしり掴まれた両肩は、目の前の体を押してもびくともしない。

「!?ぃやっ、触らないで....ッ!!」



酒の匂いがする。

ナミは胸を貫く痛みに息を飲んだ。

酔って、こんなことをするのか。

痛感して、涙が止まらない。

何度も角度を変えてキスされる。
まるで焦っているような、そんな乱暴なキス。
胸を押しても腰に回された手の力は強く、容易に引き寄せられ、もう片方の手は胸をまさぐった。
互いの唾液が溢れて顎を滴り落ちる。



どうしようもなくゾロを好きだったことに、あの日気づいたのだ。

でもナミにとっては、結末は拒絶だった。

そして今、その男は酔って自分を抱こうとしている。


ーーなんて、ひどい



唇が離れ首筋に移ると、ナミは涙で歪む視界の中で名前を呼んだ。





ーー俺の名前を呼んでくれたら、いつでも飛んでくから



「いやぁ、サンジくん....!!」


仰け反り、泣きながら他の男を呼ぶ細い首すじ。


ゾロの箍は、それで完全に外れた。

脳は沸騰し、肌は粟立ち、感じたことのない焦燥感が押し寄せて来た。

もう一度唇を塞ぎ、もう二度とその名を呼べないように重ねた唇を離すことはなかった。

胸を愛撫してナミの体を台に横たえると、足の間の秘所をまさぐった。

着衣を乱れさせてズボンを下ろし、下着の上から擦ると、重ねた唇の下からくぐもった声が出る。

焦燥とは裏腹に、時間をかけて撫で擦るのを繰り返すと、濡れた布越しに中がヒクヒクとした。
胸と下半身を同時に攻めると喉の奥から悲鳴が上がり、ぐったりしたところで下着を取り払った。

そこに自身をあてがい愛液を塗り擦り付ける。
敏感なところに当たるたび、重ねた唇から嬌声が出るのに男はいくらか慰められて、擦り続けると勝手に自身は泉の奥へ入ってしまった。

尚もキスを止めないゾロに抵抗しながら、ナミは腰を打ちつけられる度に大粒の涙を流した。


この男は、酔っているのだ。
ウイスキーの味がするキス。
懐かしい、二人で飲んだあの味がする。
余りの切なさに子宮が縮むのがわかった。

こんなに近くにいるのに、遠い。
酔った男に抱かれて、朝になったら忘れられてしまうのだろうか。



サンジくん

嘘つき。

呼んだら、来てくれるって言ったのに。

飛んでくるって言ったのに。


嘘つき。


王子様は、来ない。
こんなに涙を流す夜があるなら、お姫様には、王子様が必要なのに。



キスをしながら、強く強く抱きしめられて、腰が早くなり、同時に果てた。

耳元で囁かれた言葉が何だったかなんて、もう覚えていない。

心が遠すぎて聞こえない。


もぬけの殻のように虚ろを見るナミは服を着せられたところで、瞼を閉じた。




目が覚めた時には部屋にいて、しばらく起き上がることができなかった。












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