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□舐めるつもりが噛み千切る
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舐めるつもりが噛み千切る










「見張り?お前体調悪かったからゾロに変わってもらったんだろ?大丈夫か?」

翌朝、ウソップを捕まえて状況を探ると、あっさりとそう返って来た。

あんまり無理すんなよ、と優しく言われ、涙腺が緩む。

外の風に当たると、頭の奥がツンと冴えた。

自分にやるべき事があるのはありがたかった。
それに向き合っていれば、自分の中の空虚と向き合わずに済むからだ。

ログポースを海に翳して空を読む。
昼寝日和の午後に、周りにクルーは誰もいない。

するとサンジがいつものようにハイテンションでアフタヌーンティーを持って来る。

「ナミすわぁ〜ん!今日のおやつはガトーショコラだよ〜!」

「...サンジくん....」


どきりとする。
彼に肌を請いながら、ゾロと関係してしまった。
裂かれるような胸の痛みの中で、サンジの言葉をお守りのように握りしめていた。
それだけが暖かい希望だった。

でも、でも。


ーー呼んだら来てくれるって言ったのに。

助けてって何度も何度も思ったのに。

嘘つき。


真上の太陽が見上げた男の金髪を照らす。


ーー本当に、私のことを好きになってくれればいいのに。


なぜだろう、傷つく度、この男が欲しくなる。


「呼んだのに、来てくれなかったでしょう。」

トン、と背の高い胸に頭を預ける。


「えっ、えっ!?呼んだ!?いつ!?」

「.....昨日の夜、よ。」

サンジの胸に頭を預け、俯いたまま空虚を見た。
胸の中にできた傷が痛い。

「ナミさん、ごめんね。」

「何度も、呼んだのよ。サンジくんの名前。」

サンジのシャツを掴んで、見上げた。
そしていたずらに笑って言う。

「心の中でだけど。」

「!!ナミさん、かわ、かわ...っ!」


「ん、おいし」

奪い去ったチョコレートがとろける。
とろりと、這って。

ナミは少し考えて、指についたそれを、サンジの口の中に突っ込んだ。

「ふっ!?ん!?ナみふぁ...」

「おしおきよ。来てくれなかったから。」

「んっ、んぅ」

私だって、悪い女になるんだ。
男に傷つけられるのはもうたくさん。
振り回されるより、振り回して、そうしてもきっと許してくれる。

だって彼は傷つかない。
私に本気じゃないんだもの。

暖かい口内で指についたチョコレートの気配がなくなると、サンジは舌で指を丹念に舐め始めた。
チロチロといやらしく舐める舌の触感に、ぞくりとする。

手を引っ込めようとするとそれは叶わなかった。
両手を拘束され蜜柑の木の影に隠れる。
指を離した舌は今度はナミの口内を蹂躙した。

「んっ、ぁ....ダメよ昼間から...こんなとこで...」

「だってもう我慢できねェよ。ナミさんが可愛いすぎて」

「我慢してみなさいよ。イイコだから」

「それなんてプレイ?」

「ぁんっ、バカ、サンジ...」

胸の先を摘まれて、後ろから揉みしだかれる。

「ああ...ナミさん、可愛い、可愛い」





感じるのに、ちゃんと気持ちいいのに、頭の中で、悪い女の声がする。

慎重で臆病で、傷つきやすいからすぐ逃げる女の声。



ーー可愛いって、誰にでも言うのよ。

女なら、誰でもいいの。
抱かせてくれるなら最高よ。
都合がいいから、同じ船の女ならもっといい。
甘い言葉を言って、その場しのぎ。
名前を呼んだら飛んでくるなんて、非現実的。
信じる方がバカなのよ。



誰にでも好きと言うんだから。
本気にしちゃダメなんだから。

だって呼んでも来なかった。
だからそう言うことだ。




でも、なんでこんなに胸が痛いの。

ふまれてにじられてもう、自分の心がわからない。

自分が招いたことだ。
利用しようと誘ったのは私。



こんな私を愛してくれる人なんて、きっとどこにもいない。
誰も、誰も。


首すじに熱い熱を感じながら、瞑った目から涙が流れた。
全うに生きて行ければよかった。
でも自分は弱く、温もりに縋らなければ生きて行けない。


サンジが指を、ナミの指に絡ませた。
優しい、優しい手だ。



でも、不思議。

サンジくんと体を重ねてる時だけは、錯覚してしまう。

愛されている。

それはきっと彼が、どうしようもないくらい、優しいから。

ーー誰にでも。









全身を舐めて愛撫しながら、
気づかないはずがない。
君の涙に。

「ねぇ、ナミさん」

「ああ、んっ」

「俺のことは、まだ利用?」

「ひゃんっ、ぅぁあん」

甲板の日影に横たえられて、攻められるナミはサンジの首に腕を回し、キスをせがんだ。

サンジは優しく触れるキスを落として、指で涙を拭う。
するとナミが辛うじて目を開けた。

「あんたは、誰でもいいんでしょ」

「....いつ俺がそんなこと言ったの?」

「きゃぁあああっ!!いやぁ!」

失言を咎めるように強く芽を弾かれて、ナミは肩で息をする。

「だってっ...いつもそうじゃない...女なら私じゃなくたって...!!っあ!」

突然貫かれて言葉を失う。
サンジの表情は伺い知れない。
強く強く腰を打たれて、奥が深くて快感と切なさに子宮が痺れた。


「ダメッ!奥で、いっちゃ....う....ッッ!!」



なんで、ナミさんはわからないんだろう。
こんなに愛してるのに。

昨日は、想いが通じ合ってるとすら思ったのに。

ナミさんの自分を見る目が甘くて、天にも登れそうだったのに。


びくびくと痙攣する体を抱きしめると、安心したように彼女の力が抜けたのがわかった。

「好きだよ、ナミさん。」

その言葉を受け取っていないのに、オレンジの髪はこくりと頷いた。







頭を抱える彼の手が、優しい。

触れられると、安心してしまう。

いつものように好きだよ、と言われてわかっていると頷く。

本気にしてはいけないことを、わかっている。

ーー本当に、私のことを好きになってくれればいいのに。

なんだろう。この気持ちは。

胸が痛くて、壊れそう。











好きだと、あの夜何度も言った。

無理矢理ナミを抱いた見張り台で、ゾロは虚ろな目をした女の口を塞ぎ、一晩中泣かせた。

すれ違ったんだ。
お互い好きだと思っていたのに、言葉にしなかった。
なのに、最後に自分の口から出た言葉は相手への拒絶だった。

あの顔が頭から離れない焦り、首筋の跡、コックとの逢引を見て煽ったウイスキーの瓶。

最低だ。
こわかっただろう。
傷つけた上に、もっとむごい方法で傷を抉った。

何も写していない目に好きだと言って。
本当なら、もうナミを癒すのは自分の役割ではなかったのかもしれない、焦りで。
コックを見る目に嫉妬して、もう一度あの目で自分を見て欲しくて。

でも。
好きだから、わかってしまった。

好きだと言った言葉が、悲しいくらい伝わっていないことが。
あの目が、今誰に向いているのかが。









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