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□包むはずが切り刻む
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包むはずが切り刻む
ゾロの背中を見送った。
サンジへの、自分の気持ちを教えられた。
私は。
「ナミさん、デートしよう。」
にこにこと笑って手を握って来るサンジの手の甲をつねりながら、ナミは眼鏡の奥から心を悟られないようにその顔を見た。
目の前の海にはログポースの指す島が広がっている。
「何がデートよ。あんたは買い出し!私は測量の仕事もあるの。
全然そんな暇ないんだから、ルフィみたいなこと言うのやめて」
これは最近のマイブームで、「バカみたいなこと」を「ルフィみたいなこと」と言うのがもうすっかりナミの日常になっていた。
「なになにナミさん、あのゴム野郎にもデート誘われたのかい?」
「違うわよばか!バカなことって意味。私は忙しいの!ただでさえ新しい島はコワイのに...滞在するにしてももうちょっと様子を見て、ログの情報も得てから.....」
「ひゃっほーう!!!島だぁーーー!!」
「言ってる側から飛んで行くなこのゴム人間がーーー!!」
まだ船を岸につけてもいないと言うのに、ルフィがチョッパーを肩に乗せて島の内陸へ飛んで行ってしまった。
メンバーを一人欠いた何かがヤベーセンサーズはガタガタ震えながらチョッパーに線香をあげている。
様式美だ。
ナミの声はルフィに聞こえたのか聞こえていないのか。
手すりにしがみついてがっくりと項垂れるナミ。
するとサンジがその細い体に覆い被さって来た。
すっぽりと抱きしめると後ろから一見する分には人間が2人いるように見えない。
「....なにしてんの」
「妬ける。」
ボッと。
顔に火がついたようだった。
「なっ、だっ、だから、ルフィとはなんにも....」
「ルフィ、とは?」
誰何する声は鋭く、落ち着いているのに低くて怖い。
まるで他の誰かとは何かがあるような口ぶり。
「ねえ、」
耳元で囁くサンジの声。
甘い情事を呼び起こす、子宮の奥を揺さぶる音。
「昨日ゾロと何してたの?」
心臓が跳ねる。
見られてた。
何を、どこまで。
抱きしめられた体は動かない。
心臓の音が聞こえてしまいそうで、耳元に口を寄せる男の気配に目をきつく瞑る。
ーーあいつの気持ちを信じてやれ。
ーーお前が信じないことに、きっと傷ついてる。
もし、
もしサンジの「好き」が本当なら、なんて酷いことを私は。
「サンジくん」
信じたい。
酷いことをしたのに、彼にまだ気持ちが少しでもあるなら。
だって私は。
「....しましょ。デート。」
ロビンがログの情報を得て来てくれたので、何日か滞在することになる旨を昼食時、船にいる人間に伝えて解散になった。
お昼に帰って来なかったとこを見ると、船長は多分お財布がわりにチョッパーを連れて行ったのだ。
無計画なルフィにはお金を使うギリギリまで渡さないことにしているが、船医には必要用途を申請してもらい、余りある充分なお小遣いを渡している。
信頼の差である。
普段島に上陸する時は、ウソップやロビン、サンジやブルックと行動することが多いナミだったが、ロビンには気合いを入れて言った。
デートして来ると。
「へえ、誰と?」
心から楽しそうに、ロビンは服を選ぶナミを見ながら言った。
「エロコック。」
「あら、何か弱味でも握られてるの?」
くすくす笑いながらロビンの手がクローゼットに生えてアクセサリーを選んだ。
白いワンピースに青いサファイア。
初デートに彼の瞳の色を付けさせるなんて、なんて意地の悪い。
これはクロコダイルからロビンが盗んできた宝石をペンダントにしたものだから、他意はないのかもしれないが。
青い色が綺麗だと、首に回したネックレスを手にとってじっと眺めた。
どうやら、私は自分が思う以上にデートを楽しみにしているらしい。
「白の服を選んだのは何故?」
「え?」
「あなた色に染めてくださいだなんて、意外だと思って。」
真っ赤になって否定していると、何本もの手にくるりと一周回らされて、ロビンの方を向かされると、姉だか母だかの顔をした彼女はにっこり笑った。
「うん、綺麗。」
「....ありがとう。ロビンもデートして来たらいいのに。」
「ふふ。その時はまた選んでね、服を。」
「もちろん。あ、お金足りる?この島は欲しい本とかありそうかしら?」
「大丈夫よ。この島は、そうね。おしゃれな感じだけれど、新興の街みたい。また別の町にも足を伸ばすつもりだけど、歴史あるものはなさそう。」
ナミはロビンと別れて、船を先に降りていたサンジの元へ向かう。
デートと言っても初めての街だ、海から中心街へは距離があるし、どうせ滅茶苦茶歩くことになるのだから、ヒールはやめて歩き易い靴にした。
「んナミさん!!!可愛い可愛い可愛い!!!やっぱ船の外で見るナミさんも新鮮だなー!」
「はいはい。」
少し顔を赤くしながら、ナミはサンジを置いてきぼりに進む。
すると手を取られて、指を絡ませられた。
「!?」
「デートだから。」
サンジはにっこり幸せそうに笑って、ぎゅっとナミの手を握った。
ナミは赤い顔が見えないように、俯いてその手を見ながら歩いて行った。
街は、楽しかった。
ウォーターセブンのような石畳、カラフルな家屋には花が溢れるほど飾られて、橋も店も新しく清潔感がある。
広い公園があり、街中とは思えないほどの散歩道も。
本当に普通のデートのように、大道芸に笑い、アイスを食べ、公園のベンチで休み、また歩いた。
手をつないで。
夕方になり足は疲れていたが、二人で過ごすのは楽しかった。
辛い出来事も、何もかもなくなってしまうかのように、幸せな記憶で塗り替えられて。
だから、誰かの悲鳴が聞こえた時、助けなきゃと思ったのは本当だし、それでこの幸せな時間が終わるなんて、どうして思えただろう。
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