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□着せたつもりで引き裂く
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着せ引き










「サンジくん、帰ってる!?」

17万ベリーの靴で、サニーを停めたこの場所まで帰って来るのは本当に難儀だった。

ナミは転がるように女部屋に入り、動きやすい靴と服に替えると船にいたメンバーに聞いた。

ルフィとチョッパーがサンジは一度も帰ってないと言い、どうした?と聞いた。

「いい!ヘイワースって奴が来たら、敵だから殴ってよし!私が来るまで縛ってなさい。そしたらお小遣い増額!」

「うおー!やったー!」

「なんだ?ナミ、どゆことだ?」

「ログはまだ貯まらないからね、ちゃんと大人の言うことを聞いて、賞金首という自覚を忘れないで!」

びしっと指差してそう言うとナミは駆け出して行ってしまった。


ひとまず街中へ戻ってきたナミは考える。
サンジはもしかしたら捕まっている。
でも、どこに?


えっと、美人局が根城にしてそうな隠れ家の匂いを探して....って、わかるか!

自分に自分で突っ込みを入れて、ぽん!と手を叩く。

気づいた!美人局って脅迫恐喝が当たり前だった時代の私みたいな女のことね!?
ということは、私が好きな場所を探せばいいってことだわ!

どこかネジがぶっ飛んだ思考回路で、ナミは港の方に走っていく。

どんな洋画でも、舞台になるのはだいたい海の近くの倉庫というのがお決まりなのよ。

倉庫にはだいたい番号が振ってあり、ナミは少し考えて3の倉庫に忍び込んだ。(サンジだから)



驚くことに、全ての推測が正解だった。

サンジを後ろ手に縛り、長い鉄骨にくくりつけて見張っているのはリタだ。
しかしサンジはヘラヘラしていて、緊迫感がまるでない。

「ヘラヘラすんじゃないって言ってんでしょ!?」

あんなにお淑やかそうだったリタが、ボンテージを着てムチを振るっている。
確かにあれはサンジにはたまらないだろうな、と思いながらナミは物陰で息を潜めた。

「全く、ウチの人も頼りにならないからね。泥棒猫を捕まえようとしたのに、酒で潰れないわ邪魔が入って逃げられるわ散々よ。
あの男は私より弱いからね。しょうがないけど。」

かしずく男たちは路地裏でリタを追っていた役の男だろうか。
男には瞬殺でサンジが勝つだろうが、女を絶対に蹴れないサンジはリタには簡単に倒されたのだろう。

「あんたも、簡単な男だね。ちょっと泥棒猫を怪我させただけで言うことを聞くんだもの。
かわいそうな顔してたよ。デート中に好きな男が他の女を抱いてちゃショックだっただろうねぇ」

え....

あの時






ーー変な真似をしたら泥棒猫を殺す。

足をくじいた振りをして、サンジに支えられる耳元で、リタは囁いた。
あらかじめ折っておいたヒールで走って、わざとナミにぶつかった。
女に甘い黒足が、自分を担ぎ上げることも織り込み済みで。

ーー私の獲物はお前だからね。お前がおとなしくしてれば泥棒猫には何もしないよ。

抱えられる胸元から小銃を見せて、ニヤっと笑った。

そして容易く一晩ここに監禁した男を見下ろして思う。

あんたが女に弱いってネタは上がってんだ。
こんなにやりやすい仕事はない。




ーーサンジくん、私を守る為に...?
じわりと目頭が熱くなった。

あの優しい目は、この人に当てたものじゃない。
私だ。
私を遠ざけるために、私にあの光景を見せたんだ。



リタは思い出し笑いをして、耐え切れなかった様子でアハハと笑った。

「おしゃれして来たのに、あの子、かわいそうにね!泥だらけになってたよ。今ごろ他の男に縋って抱かれてるんじゃない?えーん振られたって。」


もう我慢ならないと出て行こうとしたナミは、サンジの言葉にぴたりと止まった。

「.....いいんだ。それでも。」

長い鉄骨に後手に縛られたサンジは、俯いて言った。

「彼女がそれで幸せなら、いい。」

「ハッ!」

リタは美しいのに動作に品がない。

「お前それでヒーローのつもり!?ヒーロー気取りかい!見返りの要らない愛なんてないんだよ!!それであんたに何が残る!」

「彼女が元気で笑顔で幸せなら、俺は幸せだから。」


「...あたしの旦那に聞かせてやりたいねぇ」

リタは正座したサンジのヒザをブーツで踏みつけて、他の男たちに言った。

「こいつをエサに麦わらの一味一人ずつ捕まえるよ!まずは一番弱い泥棒猫を狙いな!」

真っ赤な唇で指示を飛ばす女に、ナミは物影から飛び出て堂々と対峙した。

「ちょっと!!そこのオバサン!私をバカにするのはそこまでよ!!」

サンジの言葉に、勇気をもらった。
信じることに臆病になっていた自分はもういない。多分。

「んナーミすゎーん!!!」

「あとそのブーツ!多分そいつのご褒美になってるから。」

グリグリと太ももを踏みつけるが、確かに男の目はいかんせんハートだ。


「あんた自分からここに飛び込んで来たの?一人で?頭大丈夫?」

リタはあの抜群の演技力で心から心配しているような口調で言った。

「うるさいわね!私はそいつと違って女に優しくしないわよ!」

「お前たち捕まえな!泥棒猫!黒足を殺されたくなきゃおとなしく....」

「「ギャーーーーー!!!」」

雷が男たちを一人残らず灼きつくした。
ナミは雷鳴と靴を響かせながら前に出て、不敵に笑う。

「リタ、ロキシーはお元気?」

「!?」

ナミはか細い人差し指で、ビシッと賞金稼ぎの女を指差す。

「ロキシーを殺されたくなきゃおとなしくうちのエロコックを離しなさい!」

「なにを...」

リタはサンジに銃口を向ける。

「無駄よ。黒足はエロエロの実の能力者だから拳銃は効かないの。」

「そんなのないだろ!」

恥ずかしそうに突っ込むリタ。

「なんであんたうちの旦那の名を...」

「ベンジーでもいいけど。私に言わせれば詰めが甘すぎるわ。」

あの優男、リタより弱いと言うのは本当そうだ。

「さあ、うちのコックを離しなさい!」

一対一の交渉、駆け引きだ。

リタはもう一度状況を考える。
黒足に銃口を向ける自分と、旦那の名前を口にするだけの泥棒猫。

有利なのは明らかにこちらだ。
ーーハッタリだ。

「ハァ、これだから小娘は...」

チャキ、と親指を引いて弾を装填する。

「無駄口はここまで。跪いて手を上げな。」

もう一人、手下が起きて来ればなおいいが。

やっぱりだめか、とナミはゆっくりと膝立ちになる。そして手の平を頭の横まで上げて見せた。

確実に銃を封じる手立てがあればよかったが、適当な口先だけでは何ともならなかった。考えなしに勢いだけで飛び出てきたからだ。

サンジに銃口を向けながら、リタはナミの後ろに回る。
手を上に上げているので胸が強調される形になって、しかもサンジの真正面を向いているので余計に恥ずかしい。

「武器は。」

「太もも。」

リタがスカートをめくり上げると、パンツが見えそうな際どいギリギリのラインだった。
これどんなストリップショーと思いながら、太もものタクトを片手で後ろへ放り投げられる。

「まだ持ってるかもしれないからね」

女の手がナミの胸を無遠慮に引っつかんで揉んだ。

サンジはもはや失血しそうなほど鼻血をぼたぼたと垂らしている。

両胸を丹念に揉むと、くびれや腹を余すことなく摩った。

サンジは目が飛び出すぎて距離があるのに触れそうなほどだ。

ボンテージの女が、水着にちょっと毛が生えたくらいの服装の女を、身体検査と称して撫で回しているのだ。
鼻の穴が広がるのも全く仕方なくそれを責めるのも可哀想というもの。

脇を触られて、ん、と声が出た。

「そこに両手をつきな。」

腰より低い木箱に手をつくと、お尻が突き出されるような姿勢になり、女はそのナミのお尻を揉みしだく。

背中からいやらしく体を撫でて、尻、太もも、ふくらはぎを女の手が検査して往復した。


「アーハッハ、面白かった。もう海軍は呼んであるのよ、黒足を捕まえたってね。
黒足と泥棒猫だけでも相当な額だよ。
しばらくは贅沢ができるねぇ」

リタは上機嫌に笑って電電虫で応援を呼ぼうとしている。
ナミはサンジに小声で話しかけた。

(ちょっと、こっからどうするのよ考えて!)

(ナミさん、無理もうあんなの見せられて俺のムスコが収まらな...ヘブッ!)

容赦なく拳骨を振るったのでサンジの頬が腫れ上がった。

(じゃあ俺がおとりになる!)

言うとサンジは後ろ手を拘束された鉄骨を登った。
一度のジャンプで鉄骨に括られた鎖が抜ける天辺まで登って、スポッと抜けると、縛られたままだが俊敏に辺りを走り抜けた。

その間にナミはクリマタクトを拾い、暗雲を作る。

リタは突然走り出した獲物に照準が合わせられない。
この状況ではサンジよりナミを狙った方が彼女にとってはよかったはずだが、急なことに判断が追いつかない。

走るサンジを撃っても空を飛ぶように走る男の後を撃つばかり。

リタがしまった、と思った時には体を雷が貫いていて、初めての刺激的な体験の中で意識を手放した。

ドサリと女の体が床に沈むと、ナミはサンジに飛びかかって思いっきり殴った。


「あんた!!!自分で逃げられるんなら最初からそうしなさいよ!!!」

「ヘブーーッ!!!」

まだ鎖をジャラジャラ言わせているサンジはナミの拳に倒されて床で胡座をかいた。

「ナミさん、俺は2キロ先の敵の気配を見聞色で見ることができるんだよ?」

「だから何」

辛辣に言い捨てるとサンジは床を見ながら微笑む。

「ナミさんが助けに来てくれたのも、わかってたよ。あそこに隠れてたのも。」

「は!!??」

「....わかった?俺の気持ち。」


君が幸せなら、いい。


顔に火がついたように赤くなって、ナミはサンジを見下ろした。

サンジはいつの間にか鎖さえも自分で外していて、ナミに向かって両手を広げている。

節くれ立った男らしい手首が赤くなって、痣になっていた。
私のために、一晩もここで。

ナミはその痛々しい跡に吸い寄せられるように、サンジに近寄った。

のこのこと、罠にかかる小動物のようだとサンジは思う。

サンジは射程距離に入って来た細い手を少し力を入れて引くと、簡単にナミを腕に閉じ込めることができた。


わかって欲しい。
自分の本当の気持ちを、知って欲しい。

「....わかった?俺の気持ち。」

もう一度耳元で囁いて、ぎゅっと抱きしめた。

俺は、ゾロよりも傲慢かもしれない。

俺は俺の騎士道を譲らない。

そう生きてきたことが、間違いだと思っていない。
女には優しく。自分が死んでも女は蹴らん。

でも君が、本当の俺を見てくれた時、思った。
ーーあんたの騎士道、少し見直したわ。

君が、俺の探してたたったひとりのひとだ。
君の幸せを守ることが、命題だと。


「ナミさん、大好きだよ。」


俺は謝らないよ。
俺は女性を優しく扱うよ。

でも愛する人にだけは、幸せを祈る。

幸せになってほしい。

その為なら髪の毛の一筋さえ、守りたい。

君が幸せになれるのが他の男となら、それでもいい。

俺がいいと君が言ってくれるんなら、俺が君を幸せにしたい。

伝わることをずっと待ってた。

言葉にし過ぎて信じられていないこともわかって、でも伝わることを信じて。

それが俺だ。
そして君を、心から愛してるんだ。


「さ、ンジくん....っ、ありがとう...!!」

ナミの目から涙が溢れる。

ごめん、ごめん、今まで信じていなくてごめん。

どうせ好きなんかじゃないと、自分のことしか考えないで。

ひどいことをした。
たくさん、たくさん、間違って。


抱きしめられるのは初めてではないのに、初めて彼に触れるような気がした。

初めて、心が近くにある抱擁をして、暖かいもので満たされて行く。

ナミはサンジの袖を握って男の目を見た。

「わ、私を、殴って....」

泣きながら言うと、サンジが目を丸くした。

「私、昨日ゾロに抱かれてた。サンジくんが捕まってるのに、私、2人の後をついて行くのが辛くて...!
それまでも、ごめんなさい...私、サンジくんを利用してゾロを好きだったこと、忘れさせてもらおうとした。
なのに、ゾロに無理やりされた時、サンジくんを好きになってたのに気づいて、でもサンジくんは私に本気じゃないって思って...デートすごく楽しかったのに、でも振られたと思って、私誰も、何も信じられなくて、私、みんなに酷いこと」



膝立ちになったナミの下で、サンジは笑った。

「いーよ。」

背中をポンポンとする。

「言ったろ?利用でもいいって。」

気持ちをわかってくれたので十分。
好きだと言ってくれたので十分。

「助けに来てくれて、ありがと。ナミさん」

怒りんぼで、恐がりな君が一人で来てくれるなんて。

サンジはナミのおでこにちゅ、とキスをした。

ナミが穴が開くほど自分を見ている中で、サンジはあ、と声を上げた。


敵を探す海軍の兵が20人。
こちらへ向かっていると言う。



「えっ、ど、どうするの...っ!?」

「ナミさんこっち!」


そう言うと、サンジは狼狽えるナミの手を引いた。









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