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□7.夢を見るから儚い
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夢はか











ゾロ、触って

もっと

もっと優しく


.....優しく



だからヤり過ぎって言ってんでしょこのバカ!




バッと、怒鳴られたのに驚いて、ふかふかの枕を触っていたゾロは飛び起きた。

目が覚めると、そこはホテルの上階。
テーブルには飲みかけのスコッチがあり、氷が溶けてアイスペールに水が溜まっている。

よく寝られ、何回もしたせいで体が軽い。
しかも、好きな女と寝られて、夢のような時間だった。

先ほどの夢のように怒られはしたが、あの女らしいありのままの姿を自分に見せてくれたことが嬉しかった。


しかし、今隣にナミはいない。

帰ったのか?

そう不自然なことではない気がした。
自分が寝過ぎるのはよくあることだし、片方が寝ていてはつまらないだろう。

昨日の夜を思い出してぼーっとした。

どう思っただろう。
あいつヤりすぎて怒ってたな。

ふ、と表情が緩んで、テーブルの方を見やる。
チカチカと反射した光が目に当たって、何かと凝視した。

青い宝石が忘れられている。

鼻から息を吐いてシャワーを浴び、それをポケットに入れてゾロは部屋を出た。












港の倉庫を後にしたサンジは、怒るナミの後を煙をたゆたわせてついて行った。

「ねーナミさんまだ怒ってるの?」

「フン!」

いつも余裕で、自分の上を行くのが気に入らない。
助けなんか要らなかったし、逃げようと思えば何時でも逃げられたのに。

ナミの自尊心はすっかり復活していて、それを喜んでくれるのはわかるからいいけど。

ログが溜まるまであと数時間。

この街は綺麗だったしもう少しいたかったけれど、賞金稼ぎのせいで海兵に居場所もバレてしまったようだし、早く出航の準備をしなければならない。

正直色恋沙汰にかまけてる場合ではなかった。

本当に、現金....
少し前まで死にそうな顔をしていたのに。

2人の、気持ちがわかったから。

申し訳ない思いが頭をもたげる。

ーー自分の気持ちだってまだわからないのに。

2人の優しさに甘えて、体だけを先に結んでしまって。

2人を選ぶことはできないんだから、やっぱり、自分は酷い女なのだ。









ドゥン、ドゥンと、まるでお祭りの合図のような音が聞こえた。

ナミは機嫌を直して、わあ、どこかでお祭りやってるのかな、と言いかけた時、市街地で遠くを走っている船長を見つけてしまった。

「あー!!おい!ナミー!!」

その船長は、笑顔でこっちに手を振る。
ーー追っ手の海兵をたくさん引き連れて。

サーと血の気の引いたサンジとナミは叫んだ。

「「こっち来るなーー!!!」」


何故だ。何故こうもトラブルを呼び込める。

しかもその海兵たちは、さっき倉庫を捜索していた奴らじゃないのか。

満面の笑みで走っているルフィに背を向けて、走る。
市街地での戦闘は一般市民を巻き込む意味でよくない。
追っ手に背を向け、脱兎の如く走っていると、ゴムで飛んできたルフィが真ん中に並んだ。

「ナミ、ヘイワーって奴来たぞ!船に!そんでお前がどこ行ったか知ってるかって聞いたら教えるっつって、ついて行ったら海兵が居てよ〜」

「バカ!何で言うこと聞くの!殴って縛っとけって言ったでしょ!」

「あれ?そうだっけ?忘れてた!でもあいつメシおごってくれたからなー!!悪い奴じゃないと思うんだよなー!」

「賞金稼ぎのそういう心理戦術なのよ!わからないと思うけど!だから柱に括り付けとけって言ったのに!」

「過激なナミさんも素敵だー!!」

ドドドドと逃げていると、大通りからこれまた見慣れた男が走ってきた。


「おいコラ!!ナミーー!!」

「今度は何!?」

ゾロが今まで船の方向がわからなくて迷っていましたという顔で、この街の保安官と思われる人々に追われていた。

「テメー!!宿代払ってねェじゃねェか!!!
このうっかりバカ女がーー!!」

「あ。」

ホテルを出る時、急いでいて会計を忘れていた。

「なんだよー。おめぇら一緒に泊まってたのか?」

「違うわよ!」(違わないけど)

「そうだ!違う!ナミさんはおれと今まで一緒にいた!」

「それも違うから!」(違わないけど)

ゾロが保安官を引き連れて合流して、並んでサニー号へ駆ける。

「テメー6万だぞ6万!!2万しかもらってねーのにどうしろっつーんだよ!!」

「うるさいわね!!100パーセント私の過失だけどかわいいから許しなさい!!」

幸い船に先回りした海兵はいなかったらしく、戻っているはずの乗組員に叫んだ。

「みんな揃ってるー!?船出すわよー!!」

えーーーー!?!?いきなりーー!?

と驚いているウソップやチョッパーの声を聞きながら、背後の怒号が止まらない。

仕方ない。

「ルフィ!飛びなさい!船出して!!」

「まだ距離あるぞ?間に合うか?」

「いいから!!!」


ルフィが船に先回りで飛んで行き、何の因果かゾロ、ナミ、サンジの3人で、並んで追われて走っている。

「テメーナミさんに走らすようなマネさせてんじゃねぇよ、クソマリモが。」

「ああ?テメェら既に海兵に追われて走ってただろうが。」

「あれはゴムが連れて来たンだよ。俺たちはデートしてゆっくり帰る予定が...」

「ないでしょ!結局買い出しできてないじゃない!!どーすんのよ航海!」

「安心してナミさん♪買い出しは暇人たちにあらかじめ頼んでおいたから。」

船が岸を離れる。


いつか、故郷を離れた時みたい。

ここから船に思いっきり飛べば、何もかも吹っ切れるかな。


できるかな。

逃げることなく全部の気持ちを受け止めて、前に進んで行くことが。






3人は同時に陸を蹴った。

またしばらく陸に上がれないと言うのに、いつも慌ただしい。

背後の喧騒は迫りつつあったが、もう追っては来られないだろう。

甲板に届いたら、2人をちゃんと見つめて言おう。

自分の気持ちを、正直に。









ドボン!ドボン!!ドボン!!!







結局甲板には、届かなかった。

海に沈んだ3人は海面に同時に浮かび上がって、プハァと息を吸った。

ナミは何だか笑えてきて、水をかく2人に思いっきり笑った。

困るくらい、呆れるくらい優しくて、自分には勿体無いくらいのいい男たちを見て。

きょとんとした顔で2人が自分を見ているのが、更に愛しくて。


能力者ではない3人なので仲間たちは慌てることなく、救出艇を出す。
ウソップが呆れた顔でメリー号を漕いで寄せてくれる。





メリー号に素早く乗ったゾロとサンジが、ナミの手をどちらが引き上げるかで揉めたので、甲板から見ていたロビンが生やした手でナミを引き上げたところまでが、今回の旅の備忘録。










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