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□ハートの潜水艦見学ツアー
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ハートの潜水艦見学ツアー
ルナロ2








「と、とりあえず、外へ、みんなのところへ...」

そうして部屋を出ようとすると、ドアの鍵が開かない。

宥めてもすかしても、何故かドアがびくともしなかった。

「トラ男くん!開かない!」

「お前の仲間があそこで電気系統を落としたな。ロックも電子制御されてるから、閉じ込められたんだ。」

「ええっ!?」

ナミは両手で口を塞いで声を上げた。
知らない船の中の暗闇は、とても心細かった。

しばらくして、ブツッと艦内放送のような物が入る。
と言っても、こちらは古典的な通信器で管に声を通すというだけのものだったが。

『おーいナミ達〜!この部屋か?』

ナミは食らいつくように声のする管を握った。

「フランキー!助けて!閉じ込められちゃった!」

『落ち着け。ローも一緒なんだな?』

「うん」

『ちょっくら制御系をイジってたら老朽化しててな、それでショートしちまったってわけだ。』

「うんうん、それでいつ...」

『部品がいるってんで、急いでサニーから探してくるから、最悪半日待ってくれ』

「は、半日!?」

『今回ばかりは俺の過失だ。スーパー悪りぃ。』

テヘペロっと管の向こうでふざけている気配がする。

「〜〜〜〜!!!」

「わかった。ロボ屋。こちらは大丈夫だ。」

いつの間にかすぐ後ろに来ていたローにびっくりする。

ナミがしていたように口元を管に寄せるのでナミはそこから飛び退いた。

管の向こうに人の気配がなくなると、シーンと重い沈黙が部屋を覆う。
暗闇に目は慣れて来たが、何をどうしたらいいのかわからない中で、その重い沈黙には慣れない。

とりあえずナミはどこかに腰掛けようとしたが、その前に部屋の重大な異変に気づいた。

「......ちょっと、なんか、寒くない....!?」

「暖房も切れたんだろう。この船はどうしても温度が下がりやすいからな。」

次第にただ寒いだけでは済まなくなり、ナミは薄着を好む自分に珍しく後悔していた。

だってこんなことになるとは思わないし、生脚にタイトなミニスカート、ぴったりとしたシャツには袖がない。

深海に潜っている訳ではないのに、冷凍庫に入っているみたいだった。

摩っても擦っても体温が奪われ続ける。

その点ローはいつも暑苦しい服を着ていると思って男の方を見ると、黙って両手を広げている不審な男が目に入った。

「....一応聞くだけ聞くけど、何?」

「その格好では寒かろうと思ってな。」

寒いわよ!寒いけど!

無愛想な顔でとんでもないことを言う男に怒りとも呆れともつかない感情が巻き起こる。

意外と身持ちの堅い女だという自負だってあるのに、寒いからと言ってよく知らない男の胸にホイホイ飛び込んで行く訳にはいかない。(意外と、と冠されることも自分でよくよくわかっている)

涼しい顔をして、意外すぎる、こんな男だったのか、とナミは思いどもりながら自分の肩を抱いた。

「そ、それはご親切に!相談だけど、他に方法はないの!?」

「この部屋は狭い資料室だからな...毛布もシーツもない。残念だったな。」

「そうですか!本当に残念!」

合わない歯をガチガチ言わせながら、自分の身体をかき抱く。

「女が体を冷やすのはよくないぞ。」

「お医者さんの言うことを聞きたいのは山々だけど、遠慮しとくわ!」

尚も強がって、せめて筋肉を動かして熱を発生させようと抗っている。

ローは呆れてはー、と息を吐いた。

「しかたねぇな。じゃあ俺に座れ。」

「座れ!?何言って...」

「だから俺がここに座るから、その上にお前が座って....」

「ふぇ!?あ、あんたまさか変態....!?」

「女の冷えは特に臀部が....」

「あーーー!!もういいから!!」

生々しい話を聞きたくなかったナミはローを遮って叫んだ。



ちーーん。

重い沈黙が更にヘビーになってナミを包み込んでいた。

ローの膝に座ったナミは頭を抱えている。
抱き合うよりはマシかと思ったけれど、バカだった。
バカが二人集まったところで、馬鹿馬鹿しいことにしかならない。

「なにこれ....ルフィにもこんなことしたことないのに....」

ナミは仲間にも、と言う意味でルフィの名前を出したのだが、ローからは意外な反応が返って来た。

「男の上に乗って他の男の名前を出すとは、随分な度胸だな。」

「変な言い方やめてよ!本当変態なのね、トラ男くんって。意外だわ。」

「何が変態だ。別に普通だろ。」

「(普通かな...)でもやっぱり暖かいけど....ありがと...」

「触っていいならもっと温めてやるが」

「どこ触る気よ」

「腹と腰。」

「んーまあそこなら。」

「よし。」

「ちょっと!そこは許可してない!!」

許可してはいないところを触った手をペン、と叩くと、刺青の入った手は大人しく腕を腰から腹へ回した。

ローが後ろから手を回して背中に頭を付けたので、まるで恋人のようだと思いながら、ナミは目を泳がせる。

「寒い.....」

「あんたも寒いんかい!紛らわしい!」

紛らわしいことなんかないと思いながら、ローはナミの匂いを嗅いだ。
フルーツの香りがする。
気分が華やかになる匂いだった。

さすがに遠慮してちょっと腰が引け気味のナミを抱え込んで、全体重を引き受ける。

「トラ男くん、ちょっと....重いから...(軽いけど)」

「ローだ。」

その言葉にどこか威圧を感じて、ナミは反復してしまう。

「ローくん。」

「ロー。」

「ロー。」

「お前、麦わら屋の女なのか?」

体が密着した男からそんなことを言われて、ドキッとした。

「い、や....そんなんじゃ、ないけど....」

密着しているので、体温が上がったのがバレてしまいそうで、狼狽する。
しかも奴は医者だ。脈拍とか取られてるかもしれない。変態だし。

「奴に気があるのか?」

どうせ誤魔化してもだめなのだろうから、素直に話すことにした。

「....わからないの。わかるでしょ、何考えてるのか全然わかんないんだもん。」

もしかして、ルフィも自分を好きなのかと思うこともある。
でも、そうでもないのだろうなと思う時もある。

恋や愛を期待するには、彼の器は大きすぎて、若いナミに待つことなんかできやしない。
だから自分には彼は特別なんだろうけれども、好き、と言う対象ではないような気がする。


「俺は、お前に俺の女になって欲しいと思ってる。」

その言葉にどきりとしたが、この状況で言われたことに気をとりなおした。
こんな男の甘言、本気にするようではいい女とは言えない。

それでも男の表情を見てやろうとちょっと振り向いて、歯切れ悪く言う。

「そんな....ほいほい信じないわよ.......どーせやりたいだけでしょ....」

「俺は本気だぞ。」

「えー....うん、あ、ありが....」

「そりゃやりたい気持ちはやまやまだが。」

ピキッとナミの顔が引きつる。
そりゃこんな状況だし相手は年頃の男なのだしわからないでもないけれど。

「う、うるさいわね!あんたは黙って私のイスになってりゃいーの!」

膝の上で体をねじりながら、仲間にするように辛辣に、拳を額にゴンとすると、ローの表情が明らかに変わった。

まるで、スイッチが切り替わったかのような。

「おいナミ。言ったな。取り消すなよ。」

「えっ?」

「別に俺はお前のイスでもいい。お前が変なこと言うからおかしくなった。」

「は...!!!???」

「後悔するなよ。」

変なことって、それはあんたでしょ!!??

そう思うが、自分の言葉は何か相手に火を点けてしまったらしい。

ナミは顔をサーっと青くして思った。

この人、本当に変態なんだ。

まったく、何が火を点けるかわからない人なんだ。

こわい。

逃げなきゃ....!!!


手足をバタバタさせて逃げようとしたけど、腰をしっかり拘束されてかなわなかった。

「電気が復旧するまでまだ時間があるからな。寒いと言わず熱くさせてやるよ。安心しろ。」









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