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□ペンギンの受難
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ペンギンの受難
ルナロ4








出れるんじゃねーか!!

バチーーーーン!!



船長室の前をちょうど通っていたシャチは、鬼の声を聞いた。
張り手が炸裂する音も。

怖くなってそそくさとその場を逃げたのでシャチは巻き込まれずに済んだが、不運にも次に廊下を通りがかったペンギンは捕まってしまった。
鬼に。

「あんた、ペンギン!?」

バターンと船長室の扉を開けて転がり出てきたナミは、着衣が少し乱れている。
ペンギンは突然のことに目を白黒させて、縋ってきたナミを見た。

「ナミ?お前なんで船長の部屋から」

「あの人一体何なの!?逃げたいの!助けて!」

「逃げたいって...」

ちら、と部屋の中を見ると何があったのかうずくまる男の姿があった。
この後の船長の機嫌を想像して背筋をぞぞ、とさせたペンギンは、目の前のかわいい女と天秤にかける。

きれいな子だ。
アンバーの目は強い意志を感じさせるし、すくと伸びた背筋は自身の能力への自信がみなぎっている。
決して戦闘が強いとかそういう訳じゃないだろうに、船員からの信頼が厚いように見受ける。

「出口!どっち!!」

考えあぐねているうちに手首を掴まれて、華奢な背中に強引に引かれる。

なんだこれ。
青春みたいな。
楽しい。

「こっちが近い。」

そう言って手首を掴むと容易く指が一周してしまうくらい華奢。
それを守ろうだなんて男冥利に尽きる。

ぐいと引くと、特に男の世界で手配書の写真が取り沙汰される、かの有名なあの泥棒猫が素直に自分についてくる。

何があったのか知らないが、うちの船長に目をつけられでもしたのかもしれない。
頭の中で彼女に合掌する。

「ハァ、ハァ...」

「...?」

息が荒かった。
掴んだ手首も、熱い気がする。

「お前、大丈夫か?」

「うん、だいじょ...」

ペンギンは立ち止まってナミの両手を取った。

「熱い。もしかして熱があるんじゃ...」

ペンギンはナミのきれいな形の額に手を当てる。
顔が小さくて、自分の手がやたらと大きく見えた。

ナミはおとなしく目をつぶって、しんどそうにしている。
顔も赤い。

これは....あんまり他の男に見せたくないな。

寒そうに震える肩を見て、ペンギンはつなぎを脱いだ。
自分は中にはTシャツと短パンを着ているし、どこもかしこも露出しているんだからつなぎを着るくらいでナミにはちょうどいいだろう。

廊下は狭く座ることもできないので、すぐ側の部屋に入り、精いっぱいのナミへの気遣いで戸は閉めずに椅子に腰掛けさせた。

靴を脱がせ、綺麗な足につなぎを履かせて、なまめかしい脚に変な気持ちになりそうになるのを抑えながら腰を浮かせてやる。
体を包んで首の上までチャックを閉めてやると幾らか寒さはマシになったようだった。

「ありがと....すごく寒いの....」

「心配するな。もう大丈夫だ。」

ゆらりと揺れて、ナミがペンギンの胸に落ちて来た。

「ハァ、ハァ....」

抱き止める形になって、震える背中に手を回してもいいものか迷う。

いや、あっためるためだ。
決して、下心がある訳ではない。

できるだけ密着して体温が奪われないようしっかりと抱きしめた。
なんという役得だ。
さっきあそこを通って本当に良かった。

少しでもあたたかくなるよう背中をさすっていると、空気が重くなる気配がした。
怒りとも哀しみともつかぬ負の感情が、のしかかってくる気配。

「おい、そこのペンペン....」

(ペンペン!?)

その言葉だけで、どれほどの怒りが船長の体に渦巻いているかわかろうというもの。

ナミを抱いたままゆっくりと入り口に目をやったペンギンは、廊下に仁王立ちするローと目が合ってしまった。

「お前.....人の女に.....」

言うより早くペンギンと自分を入れ替えてナミを手にしたローは、安心してペンギンをバラバラにしたので、ペンギンはこの後しばらく船内で自分の四肢を探す羽目になったのだった。





「....ペンギンは悪くないのに。嫉妬、かっこワル。」

「病人は口を閉じろ。」

ハァハァと息を荒くしながら、ナミがローを非難した。

「言っとくけど、病人になったのはあんたのせいだからね。」

「だから責任持って看病する。」

「当たり前よ。」

熱のせいで完全に損得勘定が上手く行っていないナミは、よくない相手に言質を与えてしまったのだった。









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