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□主治医争い
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主治医争い








「パンツ.....変えたい....。」

「お前は、俺がどれほど忍耐強いか試してるのか。」


横抱きにされて運ばれているナミは、荒い息の中で目を閉じて言った。

他の男の服を着せられているのが心底面白くないが、落とされないようにしがみついた手はローの口角を上げるのに十分で、ちょうど目の前をトコトコ歩いていたトニー屋がナミを心配して寄って来るのにも冷静に対処できた。

「ナミ〜!大丈夫だったか?冷凍庫みたいな部屋に閉じ込められたって。」

「まったく、ロボ屋と鼻屋がしでかしてくれたからな。だが、俺にも責任がある。ついては俺がこの患者を預かるが、いいか?」

チョッパーはきょとんとした。

「い、いや!ナミの主治医はおれだよ!トラ男!ナミはちゃんとおれが治す!」

胸を張って言うトニー屋はかわいいが、ここを譲るわけにはいかない。

「責任の一端が俺にもある以上、目の前で具合の悪くなった人間を放ってはおけない。」

「でもっ...ナミは麦わらのクルー
だし...」

語尾が弱くなるが、彼の医者としての矜持が見える。
しかし、自分にも医者として、そして恋人として、自分の女として側において....いや、治したいというプライドがある。

「俺は患者の経過も見ている。おそらくただの風邪だろうが、俺に預けるなら無料で診てやる。ついでにマリンフォードでの船長の治療費も、タダにしてやるよ。」

無料とタダと言う言葉にナミがピクリと反応したのをチョッパーは見逃さなかった。

ルフィの治療は壮絶だったと聞く。
ハートの海賊船からの医療費の請求にいつも怯えていたナミを見ていたチョッパーは、(踏み倒す、張っ倒すと息巻くナミを思い出して)、ため息を吐いて頷いた。
医療費問題を合法的に解決できるならその方がいいと。

「そうだな...。それならナミ喜ぶな!じゃぁ悪いけど、トラ男、ナミを頼むな!」

ニカッと笑って言うチョッパーに、ローはごそごそとどこからか本を取り出した。

「これは医者だった俺の両親が書いた本だ。臨床例やフレバンスの医療について書いてある。良かったら読め。」

「フレバンス!?ほんとか!?うお〜!すぐ読むよ!ありがとな!」

「それじゃお前の船に伝えてくれ。ナミ屋を預かるが心配要らないと。」

「うん、わかった!トラ男は優しいな〜!」

チョッパーの買収に成功したローはニヤリと笑った。
ナミは悪寒を感じて目を閉じたままぞくりとした。





その日はもうどこか個室に連れて行かれ、布団を被せられて寝かされた。

ちなみに服がないので船に帰らせてくれとナミはローに文句を言ったが、次の瞬間roomで女部屋のタンスを持って来られて、ナミは何を言う気力も失くして薬を飲んで着替えて寝たのだった。









次の日、暖かい布団の中でスッキリと起きたナミは、何故かハートの潜水艦のこの部屋にある自分のタンス(......)からもこもこ上着を取り出して羽織り、キョロキョロと周りを見渡した。
どうやら一晩で治ったようだった。

「何時間寝てたんだろ.....」

「10時間だ。」

誰もいないと思っていた部屋の中で声がして、ナミは飛び上がって驚いた。
独り言のつもりだったのに、周りを見渡しても気配なんてなかったのに、ローが腕を組んで座っていた。

「....ちょっと、びっくりさせないでよ。いるならいるって」

「俺はずっとここにいたんだから、驚くお前が悪い。」

ずっとって....なんで。
ナミは寝ぼけながら頭を回転させて、言う。

「なんで?看病してくれてたの?」

「主治医だからな。」

「え...?あんた、ちゃんと寝た?隈すごいけど」

ナミはローの目の下を指差した。

「見てた。」

「え?10時間も?」

冗談、と笑うと、全く笑っていない男がぶすっとしている。

「...え?なんで?」

「自分の女を見ていて何が悪い。」

「え....?そうだっけ....?」

え?え?と頭にクエスチョンマークがいっぱいのナミは混乱していた。

わたし、ローの女になったんだっけ?いやいやいや、そんな話になった覚えはない。

朧げに昨日の記憶が思い出されて来た。
寒い部屋に閉じ込められて、ローとゴニョゴニョなことをして、それから...

ナミは赤くなって昨日脱いだ服を畳んで置いた場所を見た。
貸してもらったペンギンのつなぎは熱でフラフラになりながらもきちんと畳んだはずなのに、クシャッと床に落とされ、その下に隠すように畳んだ下着がなくなっている。

「これのことか?」

ローがぴらりと上下の下着を見せて来た。
ナミは小さく息をのんで真っ赤になり、涙目になりながらそれをローからひったくった。

なんであんたがもってるの、それでいったいなにしてたの

正直、昨日のいざこざでパンツはびしょびしょに濡れていたし、それを人に見られるなんて、死んでもいいくらい恥ずかしい。

あまりの羞恥に涙を流しながら、ローを罵倒した。

「ローのバカ!変態!!筋金入り!!もう帰る!バカ!」

「それはできない。お前はまだ俺の患者だ。あと1日は様子を見せてもらう。」

「うるさい!バカ!帰る!!」

「医療費を請求するがいいのか?」

ナミは顔を覆った手の中でハッと目を開いた。

「お前の風邪は大したことないが、麦わら屋の治療は16時間にも及ぶ大手術だった。輸血や機器使用もさることながら、1週間に渡る薬剤費、入院費、保険適用外のお前らに請求するとしたらいくら掛かると思ってる。まあ2年も経ってるから利子もそれなり、だ。」

「イヤー!!借金のカタに私をあんたのおもちゃにする気!?この極悪人!死の外科医!」

「フン、何とでも」

ローはナミに近づいて言った。

「俺はお前が欲しいだけだ。お前が俺の女になれば、借金もチャラにしてやるよ。」

元より、麦わら屋がドフラミンゴを討伐してくれたのだから請求する気など微塵もなかったが、ローは子猫を追い詰めることが楽しくなって来てナミを壁に押しつけた。

「いや、やめて....」

ナミは眉根を寄せてぎゅっと目をつぶった。
本気で嫌がる様子にローは息を吐いて薬を手渡す。

「朝食を持って来るから、これを飲め。1日安静にしたらもう大丈夫だろう。」

そう言って、部屋を出る。

残されたナミはぽつんと立っていた。

本当に、ずっと起きて看病してくれていたのだろうか。
寝ていても、よかったのに。

触られた所が、あったかくなっていた。
変だと思うこともあるが、真面目な男なのかもしれない。
ーーどのくらい、本気なんだろう。

でも、いつもよりすごい隈だった。

海賊の男なんて、そうそう信じられるものじゃないけれど、少しは信じてみてもいいかもしれないと、ナミはコホンと咳払いをした。









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