novels

□生真面目の失敗
1ページ/1ページ

生真面目の失敗








「ロー、どうしたの?」

ベッドに押し倒すと、ナミがとろりとした目で、きょとんと言った。

どうもこうも。
お前がそんなにかわいいのが悪い。


「私、したかったよ。」

布団に寝転がされながら、ちょっと照れくさそうな笑みで、赤い顔のナミが言った。

「昨日、途中で終わっちゃったけど、チューしかけて、やめちゃったでしょ。したかったなぁって思ったよ。
本当は、ローの言葉信じるのが怖かったから、逃げたの。
本当に私のこと好きなのかなって不安で、したいなぁって思う自分も恥ずかしくて、言えないけど。」

あ、でも今言っちゃったね、とにこにこするナミ。

ああ。
本当にもう。

普段素直じゃない女が、素直になったら破壊力は通常の100倍以上だ。
心臓がうるさいほど動脈を叩いていた。

こんな気持ちは初めてだ。
息が苦しくなるほど心臓が高鳴る。

「お前....か、か、かわ....」

「?なに?」

にこっと笑って聞くナミは、純粋で、素直でかわいい。


ーー本当に、いいのだろうか。


背中にヒヤリとしたものが這った。
自分の中の良心が頭をもたげて来たのだ。


クスリで正常な判断を失ったかもしれない女を抱いて、いいのか。

そんな非道なことが許されるのか。
こんなに素直で純粋な人間を。

そりゃ抱いて抱いてめちゃくちゃにしたいけど。
商売女を相手にするなら、こんなことは考えないけれど。

だって、自分が本当に欲しいものは。


「ねぇ、ロー。暑いの。脱がせてよ」

「い、や.....」

「...? じゃあチューは?チューして、ロー。」

昨日の続き、して?
とせがむナミにローは後ずさった。

「.....チューもしない。今は」

「え.....なんで....?」


ナミは大きく目を見開き、ゆっくりと起き上がって、ローを見た。
みるみるうちに大きな目に涙が浮かんでくる。

「なんで?私のこと好きなんじゃないの?抱くって言ったじゃない。今、私が変なこと言ったから?重かったから?だから嫌いになっちゃったの?好きじゃなくなっちゃったの?」

ローは青ざめた。
こいつの症状はアルコールを飲みすぎた人間のそれとよく似ている。
素直になり、理性が抑制されて大胆になるが、思考が暴走して思い込む、どんな感情も増幅される。

ボロボロと涙を流すナミを見て、冷や汗をかきながらローは解析していた。
これが医者の悲しい性だ。
そして自分は口下手で、考えあぐねて何も言葉にできないでいる。

大事に行かねば取り返しのつかないことになると思って、できるだけ論理的に、と思ったのがまずかった。
ローは完全に出遅れていた。

ナミは俯いて涙を拭った。
そして、何も言わないローを睨めつけた。

「....弄んだのね...!!」

ナミの悲しみは怒りに変わったようだった。

最初から好きなんかじゃなかったんだ。
お遊びだったんだ。
やりたいだけだったんだ。って、何もしてないけど。


あーあ!よかった!
してしまう前に気づけて!


「違う、ナミ、聞け。順序よく話す。」

「もうあんたなんかと話したくない!私帰るから!」

恥ずかしくて顔から火が出そうだった。
色々と良からぬことを口にした気がする。
まるで、自分がローを好きだと言わんばかりの言葉も、男を欲しがる女の言葉も。

ひどい。
私、きっと好きになってた。

「ナミ、違うお前が飲んだクスリが....」

「クスリ!?あんたまさか私に変なもの飲ませたの!?」

痛む胸を押さえながら、屈辱でいっぱいになりながら服を着たのに、頭が殴られたようだった。
ナミは足が萎えそうになるのを堪えて、唇を噛んだ。

「なによそれ...!もう私に近寄らないで!ひどい!大嫌い!あんたの姿を見るのもイヤよ!」

泣きながら背中で叫んで、ナミは扉を開けた。
今度はローが頭を殴られる番だった。

大変なことになった。
あまりにも経験のなさ過ぎる自分には、こういう時何が正解か全くわからない。

追いかけて捕まえて何でもいいからキスをする、くらいの正解はフランキーやサンジならすぐに叩き出せる問題だったが、ローは上半身裸のままで、好きな女の暴力的な言葉を反芻するに留まってしまったのだった。

世紀の大失敗だった。









Next

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ