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□9.ロマネコンティの乱
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9.ロマネコンティの乱









ああ......やってしまった......

麦わらの船に逃げるように帰って数日、ナミは机に肘をついてずっとため息ばかりだった。

唯一の救いは、顔を合わすことがないことだ。
ローにも、ペンギンにも。

ああ....自己嫌悪も過ぎる。

訳のわからないものを飲まされたとは言え、まるで、発情した猫みたいに。

誰でもいいとか、何でもいいとかじゃなく、自分の守っていた線をやすやす越えてしまって、そんな女だったのかと、自分に絶望する。

ああーーー!違うのよ!
やっちゃったのは仕方ない!
それはもういい!もうオッケー!


ナミはぐるぐると頭を回して、ぴたっと止まった。



多分、落ち込んでるのは、ローのことだ。

ちょっと気になってたのね、私。多分。

熱の間ずっと側にいてくれて。
なんだか不器用なのに優しくって。

思い返せば、閉じ込められた部屋でだって、変に真面目だった。
私が嫌がることはしなかった。

あ、でも出ようと思えば出られたんだっけ。

なんなのあいつ。
何がしたいの。

自分の女にしたいとか言うくせに、抱くって言って抱かなかったりキスしようとしてやっぱりやめたり。

こっちはその気になってしまってたのに。バカみたい。肌まで見せて男に断られるなんて、みじめなことこの上ない。
好きに、なりかけてたのに。

ーーこっちを弄んで、ひどい。

それであいつのことばっかり、考えてる。
考えたくなんてないのに。


「おーい、ナミー!」

ちょうどその時ルフィがひょこっと顔を出した。
彼はこの図書室に滅多に来ない。用事がないからだ。多分今日、サニーに住み着いて二回目とかだ。

何があった?と思ってナミが振り向くと、ルフィがしししと笑いながら寄って来た。

「なぁに?ルフィ。」

「ししし、これなーんだ!」

ルフィの手には見慣れたワインの瓶。

「ワイン?まだ栓も抜いてない....」

「おれが今海で拾った!波に揺られた酒はうめーんだよな?お前、前言ってたよな。」

ナミに瓶を渡して、椅子の背もたれに掴まってピョンピョン飛び跳ねている。
はぁ、まるきり子供....と思いながら、ナミはラベルを見て、息をのんだ。
Romanée-Conti

「ロマネコンティ....!?うそ!!」

「ろま?なんだって?」

「うそ!やだ、ルフィ!!あんたさいっっこうよ!!!」

ナミはぴょん、と椅子から飛び降りてルフィを抱きしめた。

コルクをしっかり確認しても、海水は染みていなさそうだ。
波に揺られた世界最高のワインが、今目の前にある。

「あんたがこれをゾロなんかの所へ持って行かず、まっすぐ私の元へ持って来たことを誇りに思うわ!」

「えーと、どういうことだ?」

「価値がわかる人間の元へ持って来たってこと!あぁ、神様、これは日頃の行いがいい私へのプレゼントね!あんたにもキスしたい気分だわ!」

「おれは別にいいぞ。」

「これはね、ルフィ。世界で一番高級なワインなの!しかも今年の産地の気候は冷涼だったそうだから、1本100万ベリーは下らないわ。それが私のものになるなんて、なんて素晴らしい日なのかしら!」

目がベリーになっているナミに、ルフィが冷静に言った。

「いや、ナミ、これ、おれのだから。」

「えっ....!!??私にくれるんじゃないの!?」

ナミは大げさに驚く。

「えー、どうしよっかなー」

「ルフィ、あんたお酒飲めないでしょ。」

「ん、だから飲んでみよっかなーって」

「初の飲酒がロマネコンティなんて....さすが海賊王....を目指す男ね.....」

ナミには見える。なんだこれ、まずっ、と言ってちょっと開けた世界最高のワインを酢にしてしまう男の姿が。

ダメダメダメダメ....
絶対に阻止しなければ。

「ねー、ルフィ。最初はビールとか、ウイスキーから初めてみない?」

安い酒を羅列してみるが、こうと決めたら考えを曲げない海賊王の卵はうーんと頭を曲げる。

仕方ない。
男からブツを奪い取るにはこうするしか。

ナミは瓶を腕に抱えて、うんと谷間を寄せた。

「お願い。これ、私にちょーだい?」

ここで普通の男なら二の句も継がずにこれは私のものになる。
ルフィはどうか。

「あ!それ色仕掛けだろ!その手には乗らねーぞ!!」

ルフィはあろうことかファイティングポーズを取って応戦しようとして来た。
くっ、とナミは唇を噛んで膝をつく。
元々鈍感なのに、フランキーやブルックのせいで変に英才教育をされているのだ。
最近は、そんな言葉がルフィから出てきても驚かなくなった。

敗北した闘将のようにくっと俯いていると、ルフィが手を差し伸べてきた。

「ナミ!一緒に飲もうぜ!」

ニカッと笑う船長に、ナミも笑って手を取った。







(笑うところ)

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